作ってくれて嬉しい、と言われてキラは驚いてしまった。
 カナード達もそうだが、風花の方が感情表現が豊かだから余計にそう感じたのかもしれない。
「……僕には、これしかできないから……」
 プログラムを作ることはある意味当然のことだったのだ。それなのに、彼等はそれに感謝をしてくれる。
 いや、同じように感謝の言葉を口にしてた人がいないわけではない。
 それでも、とキラは唇を噛む。そんな彼でも、キラがそうするのが当然だ、と彼ですら考えていたところはあるのだ。
 もちろん、それが辛かったわけではない。
 きちんと自分の仕事を認めてくれる人がいた。それだけでも十分だと思っていたのだ。
 でも、それが普通だと思っていたから、今の状況に違和感を感じてしまうのだろうか。
「あんなに喜んでもらえるなんて、思わなかったから」
 本当に単純なプログラムなのに、とキラは小さな声で付け加える。
「MSのOSに比べれば単純でも、他の人間から見ればそうではない、と言うことだ」
 お前の実力は、自分の知る限りトップクラスだからな……と言うカナードの声が耳に届いた。
「カナード」
「女性陣のダイエット談義になんて付き合ってられないからな」
 そんなものは必要ない、と言いきる彼にキラも苦笑を返す。
「ひょっとして……それもあの人達の理想の中に入っていたのでしょうか」
 だが、すぐに変な方向へと思考が向いてしまう。
 肥満も遺伝子が関係しいているという話を聞いたことがある。ならば、それを抑制することも可能なのではないだろうか。
 ミリアリアをはじめとした女性陣に、何でそんなに甘いものを食べても太らないのか、と文句を言われたこともあるし……と今になって思い出してしまう。
「さぁな。今更聞きにいけるわけでもないからな」
 それに、そんなことを気にしてもしかたがない。そういいきれるのは、きっと彼が自分自身の存在に自信を持っているからだろう。しかし、自分は……とキラが小さなため息をついたときだ。
「えっ?」
 不意に体が持ち上げられた。そう思った次の瞬間には、何故かカナードの膝の上に座っている。
「それよりも、俺としてはお前の軽さの方が問題だと思うぞ」
 いくらなんでも、片手で持ち上げられるというのはまずいのではないか。カナードはそういいながら顔を近づけてくる。
「……カナード……」
 だからどうしてこういうことを、とキラは心の中で呟く。
 しかし、彼の顔を間近で見ると何故か顔が熱くなってしまう。それはどうしてなのだろうか。
「……どうかしたのか?」
 顔が赤いぞ、といいながらさらに彼は顔を寄せてくる。
「何でもないから!」
 そんな彼の仕草に、キラは慌てて身を退こうとした。しかし、腰をしっかりと抱きしめられているせいでできない。それが故意だと思うのは自分の穿ちすぎだろうか。
「そのセリフを信用できるとでも?」
 お前の場合、前例があるだろう……と言い返されてはキラとしては黙るしかない。
 そうしている間に、カナードの額が自分のそれに押しつけられた。
「熱はないようだな」
 そういって囁く彼の吐息が自分のそれと絡む。
「じゃ、どうしたんだ?」
 カナードがさらに問いかけてきた。そんな風に心配してくれるのはありがたいかもしれないが、できれば少し離れて欲しい。そんな風に思うのはワガママなのだろうか。
「……カナード……」
 ともかく、それを何とかして伝えないと。そう思って、キラは口を開こうとする。
「何だ?」
 しかし、キラの願いとは逆にカナードはさらに彼の体を抱きしめてきた。
「……あの……話がしにくいから……少し、離れてくれるかな?」
 そんな彼に、キラは何とかこれを口にする。
「そうか?」
 しかし、カナードはそうではないらしい。いや、そんなキラの反応を楽しんでいるような気がしてならない。
「僕はそうなんだって……だから、離れて?」
 お願い、とそう付け加える。
「……お前のお願いじゃ聞かないわけにいかないか」
 残念だが、と付け加えるとかな小渡は取りあえず離れてくれた。しかし、その際中に頬にキスをされて、思わず固まってしまう。
「……キラ?」
 おそらくさらに顔が赤くなってしまっているのではないか。その自覚がキラにはある。
「本当に可愛いよな、お前は」
 くすりとカナードは笑いを漏らす。と言うことは、全て彼の予想通りの反応だ、と言うことなのだろうか。
「カナード!」
 あるいは、からかわれているのかもしれない。そんなことを考えてしまう。
「取りあえず、熱がないなら大丈夫だろう」
 と言うことは空腹なのかもしれないな、と彼は口にした。どうして、そんな結論になるのだろうか、とキラは思う。
「別に、僕は……」
「食べてみれば空腹に気付くかもしれないぞ」
 だから付き合え、と口にしながら、彼は立ち上がる。それは別段構わない。しかし、とキラは思う。
「どうして、僕を抱きかかえたまま立ち上がるんですか!」
 思わずこう叫ぶ。
「引っ張っていく手間がかからないからだ」
 そういう理由なのか! そう叫ぶよりも早く、カナードはさっさと移動を始めてしまった。