「サーペントテール?」 その報告に、カガリは微かに眉を寄せる。その名称に聞き覚えがあるような気がするのだが、どこで聞いたのかを思い出せないのだ。 「傭兵です、カガリ様」 その呟きに、すぐに言葉が返ってくる。 「……何故、傭兵と一緒に……」 しかし、この光景を見ていれば、キラが嫌々行動を共にしているようには見えない。マルキオの「彼を預けた」という言葉に嘘はないようにも思える。 それでも、一緒にいたのが《傭兵》と言うことが気にかかってならない。 「わかりません。しかし、彼等が現状では最高の傭兵であることは間違いありません」 噂に寄れば、ザフトのエースとでも互角以上に戦える。何よりも、どのような依頼でも、引き受けた以上必ず遂行するという話だ。 それならば、確かにキラは安全なのだろうが。それでも、不安がないわけではない。 「……アレックスに、この情報は?」 それ以上に不安なのは彼の暴走の方だ。 「お渡ししておりません」 この言葉に、カガリはほっとする。今しばらく、彼をこの地に引き留めておくことが可能だとわかったのだ。その間に、何とか時間を作ってキラのことではなく自分たちのことを話し合わなければ。心の中でそう呟く。 「そうか。勝手にこんなことを調べていた……とばれると、怒られるかもしれないからな」 妙に口うるさいんだ、とカガリは苦笑とともに付け加える。 「あの方は職務に忠実ですからね」 目の前の相手はアレックスが《アスラン・ザラ》だとは知らない。だから、何の疑いもなくこう言い返してくる。 「悪いな。あぁ……それと……心配はいらないと思うが、いざというときにあいつをフォローできるようにしておいてやってくれ」 マルキオが何かを頼んだようだが、それでも、いつどこで何があるのかわからない。特にブルーコスモスの関係者に見つかったときには……ともっともらしい理由を口にした。 「わかっております」 キラがカガリと双子だと言うことは、既に公然の秘密になっている。そして、彼がオーブを含めた世界を救ったと言うこともだ。 それでも、彼はカガリの姉弟だと言うことを声高に訴えることもない。ただ静かに彼女を見守っている。きっと、また何かあれば、カガリのために動いてくれるだろう。 この考えが軍人達の間には確固としたものとして存在している。それに関しては、カガリも疑ってはいない。 でも、アスランだけはそれだけでは不安なのだ。それが勝手な考えだとはわかっていても、どうしても打ち消すことができない。 「すまなかったな。通常の任務に戻ってくれ」 この言葉とともに、カガリは彼を下がらせる。 彼の姿が完全に見えなくなったところで小さなため息をついた。 「……キラ……」 側にいて欲しい。 でも、アスランの視界の中には入らないでいて欲しい。 この矛盾をどうすれば解決できるのか。それがわかるまで、キラには今のままでいて欲しい。 「大丈夫。ちゃんとフォローだけはしてやるから」 自分自身の使えるものは全て使ってでも。 カガリはこうはき出していた。 どうやら、今回の一件では風花は自分たちと行動を共にすることになっているらしい。 メリオル達と真剣に話し合いをしている様子を見ていれば、間違いなく彼女も一人前のサーペントテールの一員なんだ、とキラは心の中で呟いた。 信じていなかったわけではない。 それでも、あの年齢なら、他の人たちの手伝い程度ではないか。そう思っていたことも事実だ。 同時に、それに比べて自分は……とも考えてしまう。 「……僕には、何ができるのかな」 小さな呟きとともに再び彼等の方に視線を戻す。その瞬間、何故かこちらを見つめていたカナードと視線が合ってしまった。その事実にキラはどきりとしてしまう。 別段、彼等を見つめていたとしても悪いことはないはずだ。 それなのに、どうしてこんなに動揺してしまうのだろうか。 理由がわからないけれど、この心臓の鼓動の大きさだけは事実だ。 でも、それをカナードに知られるわけにはいかない。 こう考えて、キラはさりげなく視線を手元のモニターに移した。こうすれば、ごまかせるだろうと思ったのだ。 その予想が当たったのか。しばらくこちらに向けられていたカナードの視線がそらされる。それを確認して、キラはこっそりと安堵のため息を漏らす。 しかし、手元を覗かれてはすぐにばれるから、作業をするしかないだろうな。そう思って、キーをたたき出す。 今作っているのは風花に頼まれたプログラムだ。それほど難しくはないから、おそらく彼等の話し合いが終わるまでにはできあがるだろう。 しかし、これは何に使うのだろうか。 似たようなものをマリューに頼まれて作ったような記憶もあるが……とキラは首をかしげる。彼女の年齢で別にダイエットは必要ないようにも思える。 それとも、彼女の母親のためのものだろうか。 どちらにしても、こういうプログラムなら戦いと関係ないと言い切れるから気が楽だ。しかし、カナードのためにはならないだろうな、と小さなため息をついてしまう。 本当に、どうして彼は自分を好きになったのか。 自分には誰かに好きになってもらえるような要因は――まったくとは言わないけれども――内容に思えてならない。まして、カナードのように自分をしっかりと持っている人間ならばなおさらではないだろうか。 「……僕なんて、つまらない人間なのに」 それでも、彼が『好きだ』と言ってくれたのは嬉しかった。 だからこそ、どうしていいのかがわからない。 でも、答えを見つけなければいけないのではないか。自分のためではなくカナードのために。 キラはそんなことを考えながら、また小さなため息を一つついた。 |