モニターに映っているのはプラントの様子だろうか。
 だとするならば、彼はいったい誰だろう。
 こんなことを考えながら、キラは黙って目の前のそれを見つめていた。
「彼が新しいプラント最高評議会議長だ」
 そんなキラの耳に知らない声が届く。その瞬間、反射的に体を強ばらせてしまった。
「あぁ、悪い。驚かせてしまったか?」
 そうすれば、微かな苦笑を滲ませた声がキラの耳朶を打つ。それに促されるように視線を向ければ、サングラスをかけた人物とまだ幼い少女がそこにいるのがわかった。
「あの……あなた方は?」
 おずおずと問いかける。
「あたしたち、カナードの知り合いです。ここに来ているからってちょっと顔を見にきたの」
 にっこりと微笑みながら少女が言葉を返してきた。
「そうですか」
 カナードの知り合いだというのならば信用しても大丈夫だろうか。キラは心の中でそう呟く。何よりも、彼等が身に纏っている雰囲気が自分の知己によく似ているように感じられる。それがキラの警戒を解くのに一役買っているのかもしれない。
「すまないが、この子を頼んで構わないか?」
 邪魔にはならないはずだ……と青年の方が口にする。
「……どうぞ。僕も、ここで待っているように言われただけですから」
 一人で歩くと絶対に迷うぞ、という言葉を否定できない。だから、大人しくここでドリンクを飲みながらモニターを見つめていたのだ。
「そういうことだから、風花」
「はい。この人の側にいます」
 彼の顔を見つめていた少女――風花が即座に頷いてみせる。その様子が命令を受けた部下のように見えるのは、彼の方の服装が地球軍のそれを着崩したものだから、だろうか。
 ここまで来て、彼が誰に似ているのかがわかった。
 フラガやバルトフェルドと同じ雰囲気を身に纏っているのだ、彼は。
「多分、カナードと一緒に戻ってくることになるだろう」
 ふっと表情を和らげると彼はこういった。
「わかりました。それなら、二人一緒の方が見つけやすいですよね、それなら」
 確かに、それならばぎりぎりまで打ち合わせもできるだろう。そんなことも考えてしまう。
「では、行ってくる。ここでは心配はいらないと思うが、一応、気を付けておけ」
「はい」
 風花の返事に満足をしたのだろう。彼はふわりと微笑む。そのまま、ぽんっと彼女の頭に手を置いた。
 その仕草を見て、以前、自分がそんな風に誰かに触れられたのはいつだっただろうか、とキラは思ってしまう。
 考えてみれば、あの戦争が終わってからと言うもの、自分にそんな風に触れてくれる者は誰もいなかったかもしれない。何というか、壊れ物を扱うような態度だった。
 例外はカナードだが……彼の触れ方は彼のものとは意味合いが違うし。
 そんなことを考えた瞬間、キラはここに連れてこられる前のことを思い出してしまった。
 船から降りたくないと言ったキラに、彼が『キスをするぞ』と脅迫してきたのだ。それでも我を張っていたら、宣言通りキスをされてしまった。
 だが、それがいやではなかったから困る。
 むしろ、最近では彼にキスをして欲しいからあれこれしてしまうのではないか。そんな気持ちにもなってしまう。
「どうかしたんですか?」
 この問いかけに視線を向ければ、風花がいつの間にか自分の向かいに座っているのが見えた。
「えっと……」
「キラ、でいいよ」
 何と呼びかければいいのかわからないのだろう。あるいは、カナードの知り合いだとは知っていても名前までは知らないのかもしれない。そう判断をして、キラは自分の名前を口にする。
「はい、キラさん。でも、本当にどうかなさったのですか?」
 安心したように微笑むと、風花はまた問いかけてきた。
「あの人の演説がね……ちょっと引っかかっただけ」
 だからといって本当のことを言うわけにはいかない。だから、ちょうど流れていた新議長の演説を利用させて貰おう、とキラは思う。
「デュランダル議長ですね。どこが引っかかるんですか?」
 演説の、と風花はさらにつっこんでくる。
「あの人は、クライン元議長とラクスの理念を……と言っているけど、何かが違うんだ。その何か……について、うまく説明できないんだけど……」
 違和感がある。
 それ以外に言いようがないんだ、とキラは口にした。
「そうですか」
 意外なことに、風花はそれで納得をしてくれたらしい。
「……取りあえず、何か頼む? 流石に、僕の前にだけ飲み物があるというのは、ちょっと」
 周囲の視線が辛いかな……とキラは苦笑ととも話題を変える。
「それなら、食事を頼んでもいいですか? 何だったら、キラさんも一緒に」
 ご飯、食べていないんです! と風花は元気な口調で告げた。
「……僕は……少しだけ、なら付き合うよ」
 食べないと言いかけて、慌ててこう言い直す。
 考えてみれば、カナードに『ちゃんと食事をしておけ』と言われたのだ。それを無視してもいいのだが、後で怒られるのも無理矢理食べさせられるのもいやだ、と思う。
 それに、一緒に食べてくれる人がいるのであれば、少しは食欲がわくかもしれない。
「なら、オーダーしますね」
 何がおいしそうかな。そういって微笑む彼女はかわいらしいな……と心の中で呟く。
「どれがいいですか?」
 この問いかけに、キラもメニューをのぞき込んだ。