この微妙な距離が少し楽しいと思ってしまうのは、自分だけだろうか。
 二人分の距離を開けて端末を操作しているキラの様子を盗み見ながら、カナードはそんなことを考えてしまう。
 あの後も、取りあえずキラの態度に変わったところは見られない。
 しかし、間違いなく自分を意識しているらしいことはわかっている。自分の動き一つでキラが微かに表情を変えるのだ。そんな様子が可愛いと感じてしまうのは、やっぱり自分が彼に好意を抱いているからだろうか。
「……カナード」
 そんなことを考えていたときだ。不意にキラが呼びかけてくる。
「何だ?」
 これでキラを盗み見なくてもいいな。そんなことを考えながら、腰を上げた。そのまま彼の側まで歩み寄る。
「ひょっとして、これが関わってないでしょうか」
 こう言いながら、キラはカナードに今まで操作していたパソコンのモニターを向けた。そこには何かの設計図らしきものが映し出されている。その内容をざっと見て、キラがどうしてそういいだしたのかを理解した。
「可能性はあるな」
 その設計図は、一種のジャミング用の人工衛星のものだ。
 それを使えば、最近頻発しているような事件を起こすことも可能だと言っていい。
「しかし、これはどこにあったんだ?」
 自分たちの調査では出てこなかった。それは、ジャンク屋に依頼した分でも同じだったと言っていい。
 それなのに、キラは見つけ出した。
 と言うことは、自分たちが見つけられないような場所にこれがあったと言うことだろう。
「……ザフトのマザー……」
 ぼそっと、キラは呟くように口にする。
「そうか」
 と言うことは、ハッキングをしたと言うことか……とカナードは納得をした。その事実をキラがよく思っていないこともだ。
 あるいは、それに関しても誰かに何かを言われているかもしれない。そう考えた瞬間、脳裏に浮かんだ面影が誰のものであるかは言わなくてもわかるだろう。
「だが、助かる。これがあるのとないとでは、雲泥の差だからな」
 ふっと笑いながらこう言えば、キラは驚いたように目を丸くしている。と言うことは、これが当然だと思われていたのか――あるいは、叱咤されたのだろうか――と思える。
「どうかしたのか? お前は、今回の依頼のためにこれを探していてくれたのだろう? なら、礼を言うのは当然のことではないのか?」
 取りあえずこういった。
「だって……このくらいは当然のことだって……」
 それは誰がいったのか、と言うことは気になる。しかし、ここでキラの言葉の腰を折るわけにはいかないだろう。
「それに、ハッキングはいけないからやめろって、アスランが……」
 最終的には、やっぱりアスランか。
 どう考えても、好きになれる要素がないな、こいつは……とカナードが心の中ではき出す。
「それは平時に、だろう? 今はそういう状況じゃない。だから、お前がしたことは当然の行為だ」
 キラがしたことで、誰かの命が助かるかもしれない。それをどうして怒る必要がある。カナードはそうも言葉を重ねる。
「それよりも、それをコピーしてもらえるか?」
 うまくいけば、誰か対処法を知っているものがいるかもしれない。こんな言葉を口にして、カナードはさりげなく話題をそらす。
「それと、侵入の痕跡は?」
「一応、わからないようにスクランブルはかけてあるし……このルートだと、ここにたどり着く前に別のところで引っかかると思う」
 たいがい、そこで諦めると思うんだけど……とキラは付け加える。
「どこだ?」
 そこまで言い切れる場所というのがどこなのかが気になってしかたがない。だから、こう問いかけた。
「……ポアズ……」
 正確に言えば、その端末の一つ……とキラは付け加える。
「……確かに、な」
 破壊された場所だとはいえ、完全に粉砕されたわけではない。その中に、たまたま生き残っている端末があったとしてもおかしくはないだろう。
「よく見つけたな、そんなもの」
「偶然、ね」
 その時も、アスラン達に見つかってパソコンを取り上げられたけど……とキラはため息をつく。
 その瞬間、本気でアスランをどうにかしないと、キラのこの態度は治らないのではないか……とカナードは確信をした。だからといって、暗殺もできない。
 ならば、アスラン以上の存在に自分がなるしかないのだろうか。
 そちらの方が自分的には性に合っているかもしれないな。
 個人的にも、そちらの方が楽しいしな……と心の中で付け加える。
「ともかく、これでこの依頼に関しては動き出しても大丈夫だな」
 助かった、と微笑んでみた。
「このくらいしか、できることがないから」
 それなのに、どうしてキラはこんなセリフを返してくるのか。しかも、それが本気で言っているらしいとわかるから余計にため息をつきたくなる。しかし、そうすればキラが落ちこむことがわかっているから我慢をする。
「それだけでも十分だ」
 言葉とともに、彼の肩に手を置く。
「俺は話し合いに言ってくる。お前は、ちゃんと飯を食っておけよ」
 自分が帰ってくるまでに……と笑えば、キラは小さく頷いてみせる。もっとも、それがあてにならないこともわかっていた。
「忘れるなら、それでもいいぞ。キス一回分だからな」
 むしろ、そちらの方が個人的には嬉しいか……と念を押すように口にする。
「カナード!」
 反射的に真っ赤になるキラがものすごく可愛いと思う。
「いやなら、ちゃんと食え」
 笑い声とともにカナードはその場を後にした。