どうして彼は、自分にあんなことをしたのだろうか。 キラはベッドの上にうずくまりながらそのことばかり考えていた。 「僕が……ぐずぐずしていたから?」 それとも、何かで彼を怒らせてしまったのだろうか。でなければ、あんなことをするはずがない。キラはそう思う。 「いったい、何が悪かったのかな……」 ともかく、それを確認しないと。でなければ、また失敗をしてしまうかもしれない。そう呟く彼の脳裏では、アークエンジェルのことが思い浮かんでいた。 友人達と次第にすれ違っていってしまった日々。 その原因にもなったフレイの優しさに、自分がすがりついてしまったことも事実だ。 間違っていたとわかっていたのに、その優しさを捨てられなかったのは、きっと、自分が弱かったからだろう。 それとも、アスランと戦わなければいけない……とわかっていたからか。 「でも……僕がみんなを傷つけたんだ……」 それだけならばまだいい。 守ると約束したのに、自分は誰も守れなかった。 確かに自分の働きがラクス達の役に立ったのかもしれない。それでも、守りたかった人を守れなかったのでは意味がないのではないか。誰もが「それはしかたがなかったんだ」と言ってくれたが、そうは思えない。 結局は、自分の優柔不断さが全てを悪化させていったのではないかとすら考えてしまう。 そして、今回も、自分の優柔不断さがカナードを怒らせてしまったのだろう、とキラは判断をした。 それでも、MSに乗ることは恐い。たとえ、それがシミュレーションだとしても、だ。 「……僕は……」 結局、何もできないのだろうか。 それとも、何もしてはいけないと思っているだけなのか。 いくら答えを探しても見つからない。 それに、今はそれよりも優先しなければいけない問いがある。 「カナードに、どんな顔をして会えばいいのかな……」 少なくとも、それが見つかるまではここでこうしていた方がいいのかもしれない。そんな考えすら浮かんでくる。 「そうしようか……」 言葉とともに、キラは静かに目を閉じた。 今日のことは事前に決まっていたはずなのに、とカガリは怒りを隠せない。 「一緒に食事に行くと、約束しただろう?」 それなのに、どうして今になって『キャンセル』と言ってくるのか。 「緊急の用事はないはずだ」 こう言うときに、相手が自分の護衛官だというのはよいことなのだろうか、と悩む。お互いにお互いのスケジュールがわかってしまうのだ。 『そうなんだが……マードックさんの知り合いのジャンク屋が、今日、こちらに来るという話なんだ』 ひょっとしたらキラのことを知っているかもしれない。アスランはそう告げる。 「キラの?」 そんなことのために自分との約束を反故にするのか。そう言えればどれだけ楽だろう。 「……そうか……」 しかし、それができない自分がいることもカガリは自覚している。 アスランが好きなのは『キラを大切にしている』カガリではないのか。最近はそう思えてならない。 あるいは、キラと同じ遺伝子から生まれた《カガリ》なのだろうか。 もちろん、それがある意味、自分の被害妄想だ、と言うこともわかっている。 だが、そう思いたくなるくらい、最近のアスランは《キラ》を優先しているように見えてならないのだ。 「だが、それはそこまで遅くなる用事なのか?」 こんなことを考えている自分は嫌いだ。 何よりも、こんな醜いことを考えている、と彼に知られれば嫌われてしまうかもしれない。ただでさえ、最近、己の力不足のせいで彼には苦労ばかりかけてしまっているのだ。 だから、とカガリは心の中で呟く。 「多少遅くなっても、待っているから……最近、ゆっくり話をしていないだろう?」 何とか笑顔を作りながら、言葉を重ねた。 『カガリ……』 そんな彼女の表情に、アスランは少しだけ困ったような表情を浮かべる。 「報告も、聞かせて……貰わなければならないだろう」 本当は、もっと本当の言葉を口にしたい。それを彼が気付いてくれるだろうか。 「手がかりさえつかめれば……手を貸してくれるものは軍にいるんだ」 キラのことを気に入っていた者達が今でもあそこにはいる。彼等は『キラが行方不明』という話を聞いた瞬間、内密にカガリに協力を申し出てくれたのだ。 それはとても嬉しい。 だが、これが自分だったとしても彼等は同じようなことを言ってくれただろうか。そんなことも考えてしまうのだ。 もちろん、彼等がそんなことをするはずがないこともわかっている。 それでも考えてしまうのは、自分の最近の立場のせいだろう。 『わかった……できるだけ、早く、そちらに行けるよう努力はする』 アスランはこう言って微笑んでくれる。その微笑みに、カガリの気持ちは少しだけ浮上をした。 『では、また後で』 食事には間に合わなくても、必ず今日中に顔を出すから……と彼は付け加える。そのまま通話が終わった。 「それだけで、我慢をしなければいけないんだろうな」 カガリは小さな声で呟くとそのままぐったりとソファーに身を沈める。 「それでも、私は私を優先して欲しいんだ」 キラと自分では、アスランと過ごしてきた時間の長さが違う。だからといって、優先順位もそれで決めて欲しくはない。そう思うのだ。 しかし、それだけでは足りない。 そう思える理由もわかっている。 どんなときでも、彼は自分に微笑みをかけてくれた。そして、自分がしたどんな些細な仕事でもほめてくれたのだ。 「……それでも、キラの微笑みも欲しい。そう思ってしまうのは、ワガママなんだろうな」 いっそ、キラとアスランが幼なじみでなければよかったのに。カガリはそんなことを考えながら、目を閉じた。 |