メリオルから話を聞いて、カナードは満足そうに頷いてみせた。 「あいつにとって必要なのは、自分の力がコントロールできるという事実と、自信だからな」 前者が何とかなれば、後者に関してもましになるのではないか。 それ以上に、自分の存在が肯定されることが重要なのかもしれない。 今までの付き合いの中で、そんな風にカナードは考えていた。 「……おそらく、今まで誰も彼の言葉を聞こうとしなかったのではないかと……」 もちろん、故意にではないだろう。あるいは、しようとしても時間を取ることができなかったのかもしれない。いや、間違いなくそういう者もいたのではないか、と彼女は口にした。 しかし、最初から彼になにも言わせないとしたものもいたのだろう。 表面上は彼のことを考えているように見えたかもしれない。だが、それは真逆だ。 しかし、本人達はあくまでもそれが彼のためだ、と思っているらしい。それだからこそ、問題なのだ。 メリオルはそう口にする。 「……あくまでも、私の印象ですが」 間違っている可能性は否定できない、と彼女は言葉を締めくくった。 「いや。多分、それが正解だろう」 自分も同じように感じている。何よりも、キラ自身とラクス・クラインから同じようなことを聞かされていたのだ。 「ともかく、時間が許す限り、あいつの話を聞いてやってくれ」 自分一人だけでは足りないのだ。だから、とカナードは口にする。 その瞬間、メリオルが柔らかな笑みを口元に刻んだ。 「……どうかしたのか?」 滅多に見せないその表情に、カナードは思い切り顔をしかめる。 「いえ。貴方にも彼の存在はよい影響を与えてくれるようですね」 そんな風に誰かのことを気遣う様子をみせたのは初めてではないか。そういってさらに笑みを深めた。 「……あいつだけが、俺と同じ存在だからな」 本質的な意味で、だ。 キラにとってもそうだろう。 だからこそ、あんな風にしているのが許せない……と言う気持ちもある。 いや、あいつの輝きを奪おうとしていた連中は許せない、と言うべきか。 「……そういうことにしておきましょう」 それよりも、と彼女はさっさと話題を変える。 「その問題児二人が彼の行方を捜しているようですわ」 もっとも、熱心なのは片方だけのようだが……とさりげなく付け加えた。 「……アスランの方か?」 「そういう報告です。カガリ・ユラは……アスランに任せているのか、それともそちらに関わっている余裕がないのか、わかりかねますが」 さほど熱心さは見受けられないそうだ。そう言葉を返してくる。 「あるいは……アスランの態度が気に入らないか、だな」 キラを取り上げられたことでようやく目に入ってきた真実……と言うところかもしれないな……とカナードは頷く。 「どちらにしても、ここまでたどり着くことは無理だろうが」 「そう思われます。残念ですが、この艦に彼が乗り込んでいる、と知っておいでなのは、クルー以外ではただお一人ですから」 マルキオはラクス・クラインにすら知らせていないらしい。 それは、間違いなく《アスラン・ザラ》に気付かせないために、だろう。つまり、マルキオも彼が一番の元凶だと判断をしているのか。 「まぁ、いい。万が一、オーブ軍に見つかったら逃げるだけのことだ」 しばらく、あちらの勢力圏内で仕事をしなければいいだけだろう。そうも付け加える。 「そうですね」 この言葉にメリオルも頷いてみせた。 「仕事と言えば、いくつか依頼が来ていますが……どうしますか?」 キラの精神状態を考えれば、確実に戦闘があると思われる依頼は断った方がいいかもしれない。彼女はそうも付け加える。 「……そうだな。だが、そんな依頼があるのか?」 自分たちがジャンク屋であるならば、十分に考えられるだろう。しかし、傭兵ではそういうわけにはいかないのではないか。 「ないわけではありませんが……あぁ、ちょっとジャンク屋的な仕事ですが、ひょっとしたら、キラ君に自信を付けさせられるかもしれないものが一つあります」 内容を確認してみますか? と口にしながら、彼女は携帯端末を操作し始める。 「キラも?」 「そうです」 即座に返される言葉に、別の意味で顔をしかめた。 「だが、あいつを危険にさらすわけにはいかないぞ」 そう約束をしたからな、とカナードは言い返す。 「わかっています。ですが、これでしたら、いざとなれば艦内からでも作業は可能ではないかと思います」 こう言いながら、彼女は手にしていた端末を差し出してきた。とっさにそれを受け取ると、カナードはモニターへと視線を落とす。 「……これは、あいつらの方がふさわしい仕事内容だと思うが?」 もっとも、状況を考えれば、傭兵に話が回ってきてもしかたがないのか。だが、それにしては……とカナードは考え込む。 「いざとなれば、ロウ・ギュール達に声をかけてもよいのではないでしょうか」 彼等であれば協力をしてくれるような気がする。こう告げるメリオルの言葉は納得できるようなものだ。 「……まだ、時間はあるな?」 それに、カナードはこう言い返す。 「はい」 「なら、少し考える時間をよこせ」 自分の端末にデーターを送ってくれ、と付け加えると、カナードは端末をメリオルに渡した。そのままきびすを返す。 「キラ君でしたら、談話室です」 そんな彼の背中にメリオルがこう言ってきた。 「そんなこと、聞いてないぞ」 「そうですか?」 低い笑いとともに付け加えられた言葉に、カナードは相手をにらみつけるだけでこらえる。そして、すぐにその場を後にした。 |