小さな約束
92
「……とりあえず、話題を元に戻そう」
ラウがため息とともにそう告げる。
「ここから本国に戻る間に地球軍からのちょっかいがあるかもしれない。さらに注意をするように」
ここで新型を全て取り戻されては厄介なことになる、と彼は続けた。
それはそうだろう。
ほんの数度とは言え、ザフトに拿捕されたMSは戦闘を経験している。その戦闘データーを流用されたらどうなるか。簡単に想像がつく。
「と言うわけですので、しばらくアスランは通常勤務に戻しますが、かまいませんか?」
ラウがそうラクスに問いかけている。
「仕方がありませんわね」
残念ですわ、と彼女はため息とともに付け加えた。
「ラクス」
「このくらいで音を上げるようなら、キラのそばに置いておけませんわ」
もっと怖い方が出てくるのだから、と言うラクスにカナードは苦笑を禁じ得ない。
確かに、この後、プラントでミナが待ち構えているだろう。
彼女がアスランをどう思っているか。
はっきり言って、それはカガリやラクス以上の災難をもたらすものとしか言い様がない。
もっとも、ミナの場合、ちゃんと状況を確認してから動くから、ついてすぐにどうこうすることはないかもしれないが。
「……クルーゼ隊長は地球軍がちょっかいをかけてくるとお考えか?」
それよりも、とカナードは問いかける。
「あの艦のシステムに潜んでいたプログラムを考えればね。自爆装置を作動不能にしておいてくれてよかったよ」
外部から操作された可能性がある。ラウはそう続けた。
「厄介だな、それは」
そうか、とカナードは頷く。
「それで、最後の一機は誰が使う予定だ?」
言えないならそれでいいが、と付け加えたのは、自分がザフトの人間ではないからだ。
「ミゲルの予定だが?」
だが、ラウはあっさりとこう言ってくる。
「ラウさんじゃないの?」
キラがそう言って首をかしげた。
「私はブリッジで指揮を執っている方が多いからね」
苦笑とともにラウが言い返す。
「それに、指揮官は自国が開発した機体を使うべきだと思うしね」
違うかな、と問われて、キラは頷いて見せる。
「だが、いきなりどうしたのかね?」
「いや。それならばあれに仕掛けておいたトラップを解除しておくかと思っただけだ」
万が一を考えて仕掛けておいたものがある、と告げればラウ達は顔をこわばらせた。
「別にたいしたことじゃない。パスワードを入力しなければ、火器系が死ぬだけだ」
戦場でそれはまずいだろう? とカナードは笑う。
「まずいなんてもんじゃないだろ、それは」
ため息混じりにミゲルがそう言った。
「言われなかったら、俺は敵陣の真ん中で丸裸だったじゃないか」
「お前だとわかったから教えたんだろう。あいつなら放っておいたさ」
言葉とともにアスランへと視線を向ける。
「……俺ならよかったのか?」
忌々しそうに彼がにらみつけてきた。
「キラを守ると言うんだ。そのくらい出来ないとな」
即座にこう言い返す。このセリフにはうかつに言い返せないのだろう。悔しげに唇をかんでいる。
「そういうことならば早々に頼もう。どうも嫌な予感がするのでね」
こういうときの自分の勘は当たるのだ。ラウはそう付け加える。
「俺も同じように否や予感を感じているので、かまいませんよ」
カナードも即座にそう言い返す。
「何事も起きないのが一番だがな」
それは無理だろう。そう心の中で付け加えていた。