小さな約束
01
小さな手がすがりつくように服を握りしめている。
「大丈夫だ」
そっとささやくと、ラウは笑みを浮かべた。
「僕がついているだろう?」
絶対に守ってみせる。そう約束したから。そう付け加えると、小さな体を抱え直した。
「だから、もう少し我慢してくれるよね、キラ」
そう話しかければ、小さな頭が縦に揺れる。
「いい子だ」
言葉とともにラウはその柔らかな頬に口づけた。それだけでキラの笑顔は深まる。
ラウもまた笑みを深めるともう一度頬にキスを落とす。
「どちらに行けばいいかな?」
だが、次の瞬間、その表情が引き締まる。その表情のまま、彼は周囲を見回した。
「デッキはすでに抑えられていると言っていいだろうな」
自分達が逃げ出したことはばれている。だから、と彼は続けた。
「非常用のポットを使うか」
あれならば、連中の目をかいくぐって逃げ出せるかもしれない。
「確率的には高くない。だが、それしかないだろうな」
自分はどうなってもいい。だが、キラとあれだけは守らなければいけない。それが年長者としての矜持だ。
「……らー?」
そんなことを考えていれば、キラが声をかけてくる。
「むー……」
「あいつはカガリと一緒だ。無事ならば、いずれ出会える」
もっとも、彼らの方はさほど危険はないはずだ。
ナチュラルであること、そして、アスハの養子であることを連中は無視できないのだ。
しかし、キラは違う。
いくらアスハの加護があったとしても、その誕生方法だけで連中にとって排除対象だ。そして、自分がもう一つ託されたものも、だ。
「大丈夫だよ。キラは僕が守る」
例えどのようなことになろうともだ。口の中だけでそう付け加える。
そのまま、彼はまた歩き出した。
身を隠しながらの移動はどうしても時間がかかる。目的地まで一キロとなかったはずなのに、たどり着くまでに数時間を要してしまった。
「ここはばれていないと思うが……」
そう呟きながら、ラウは偽造されていたドアを開く。
だが、すぐには中に入らない。少し離れた場所に身を隠しながら、内部の気配を探る。
「一人、いるのか?」
いや、意識を失っている者達も何人かいるらしい。
そんな連中からキラを守れるか。
ラウは心の中でそう自問する。
「ここがばれた以上、他も抑えられていると考えた方がいいだろうな」
ならば、何とかするしかない。
そう判断をすると、腰につけたポーチから銃を取り出す。
「キラ。いい子だから目を閉じておいで」
戦闘になるならせめてその光景を見せたくない。そう考えるのは自分のわがままなのだろうか。
それでも、知らずにすむならそれでいい。
ただでさえこの子供は多くのものを失ったのだ。これ以上傷を広げることはない。
しかし、今の自分ではキラを危険から完全に切り離すことは難しい。
それが悔しい、と本音を漏らす。
「すぐに終わらせるからね」
だが、今はそれはどうでもいいことだ。優先すべきなのは安全な場所にたどり着くことだろう。
だから、と意識を切り替えるとラウは奥へと進んでいった。