いったい、どうして自分が周囲の者達からここまで糾弾されなければいけないのか。 アスランにはそれがわからない。 確かに、自分の勝手な行動でキラを危険に会わせてしまったことも、ラウにケガを負わせてしまったことも否定できない事実だ。 しかし、それは巡り合わせが悪かっただけではないのか。 きちんと説明をしてくれていれば、あのようなことはしないですんだ。それ以前に、彼らがキラと話しをさせてくれていれば、連れ出そうなんて思わなかった。 しかし、彼らは自分をキラから隔離しようとしていたではないか、とアスランは周囲の者をにらみつける。 「……お前、キラに言ってはいけないこととか、わかっているのか?」 それから何かを感じたのだろうか。カガリが必死に冷静な口調を作りつつ問いかけた。 「当たり前……」 「言っておくが、三年前とは違うぞ? キラはあれからしばらく、カウンセリングに通っていたし……今でも完全によくなっているわけじゃない」 今でも、戦争に関わるようなことに関しては拒否反応が出る。それが度重なればただでさえ薄氷を踏んでいるようなキラの精神状態が一気に悪化しかねない。 その引き金を自分が引く可能性があると認識しているのか、と彼女はさらに言葉を重ねてくる。 「……そういうお前はそもそも、キラとどういう関係なんだ?」 それ以前に何者かのか。 今までの言動から、オーブの人間だと言うことは想像が付いている。しかし、それならば、自分はどうなのか。そういいたくなる。 「私は、キラの従姉妹だ!」 そういう意味では、ただの幼なじみである貴様よりはキラとの関係は深い! とカガリは言い切った。 「ついでに言えば、カガリはウズミ様の娘だ」 さらりとカナードがそう付け加える。 「ウズミ?」 オーブの主要人物にその名前を持った人物がいたはず。それが誰であったのかを思い出そうとアスランは眉を寄せる。 「ウズミ・ナラ・アスハさまですわ。父とも顔見知りでいらっしゃったはず」 こう言ってきたのはラクスだ。 「……カガリとキラは母方の親戚だからな」 その縁で、自分たちの後見人をホムラがしてくれている、とカナードも補足をしてくれる。 「……つまり、キラもカナードさんも、今はアスハの一族だ、と言いたいのか?」 「そういうことだな。もっとも、継承権はないが」 だが、それはどうでもいいことだ……と彼は笑う。 「そんなもの。私がアスハを継いだときにいくらでも変更できるしな」 もっとも、その前にキラは嫁に行っている可能性は否定できないが……と彼女は付け加える。 「どちらにしても、ザラは我々を否定している。そうである以上、キラに近づけるわけにはいかない!」 アスランもザラの一人である以上、例外ではない! とカガリは言い切った。 「もっとも、状況次第では許可してやろうかとは思っていたんだがな」 ラウのそれによく似た声が周囲に響く。 「そのために、側であいつが見てきたんだ。少なくとも、ヘリオポリスの事件があるまでは例外扱いしてもいいのでは、と言っていたんだがな」 まぁ、それでもカナードが反対しただろうが、と続けられた声の方向に視線を向ける。そうすれば、ラウによく似た存在が確認できた。 「ムウ兄さん」 ほっとしたような表情でカナードが呼びかける。 「ラウさんの容態は?」 カガリも彼の姿を見て安堵したようだ。 「大丈夫だ。しばらく前線での指揮は無理だろうが……ここには虎さんがいるからな。無理はさせなくても大丈夫だろう」 まぁ、あちらはあちらで一騒動あったが……と彼は小さなため息を吐く。 「レイとフレイ嬢ちゃん、それにイザークの坊主も付いているから、キラの方も心配はいらないだろうな」 流石にちょっとまずそうだったので眠らせてきたが……と彼は続ける。 「キラ!」 その言葉を耳にした瞬間、アスランは反射的に駆け出そうとした。しかし、それを周囲の者がこぞって邪魔してくれる。 「放せ!」 「……そんなお前の存在が、キラにとって一番のストレスになると思っていないのか!」 こう言いながら、ディアッカがさらにアスランを羽交い締めしている腕に力をこめてくる。 「そう思っているのは、お前達だけだろうが!」 アスランはこう叫ぶ。 「お前がそんな態度だから、絶対に会わせられないんだ!」 今まで何を聞いていたのか、とカガリが怒鳴り返してくる。 「そうですよ、アスラン。少なくとも、あの方はここに来るまでの間、絶対に貴方の方を見なかったじゃないですか。それどころか声をかけられてもおびえられていたでしょう?」 つまり、今のキラにとってアスランは恐怖の対象でもあるのではないか。そういっていたのは意外なことにニコルだった。 「だよなぁ……せめて、隊長がケガをしたときのショックが抜けるまでは、そっとしておいてやった方がいいと思うぞ」 お前の顔があの時の記憶につながっているのであれば余計に、とミゲルも彼らに賛成する言葉を口にする。 「そうでなければ、いつまで経ってもイザークの足元にも及ばないんじゃないのか?」 そこにいるメンバーのお前を見る目が……と彼はさらに言葉を重ねてきた。 「俺がイザークよりも劣っていると?」 「少なくとも、キラちゃんに対する態度と、それに対する周囲の評価はそうだよな」 ヘリオポリスの後でのこともそうだ。 足つきに彼女たちが乗り込んでいるとわかった時点で、お前はその事実を隠そうとしていたが、イザークは頭を下げて協力を求めてきた。 それだけでも、かなりの差があると思うが……と言われて、アスランは唇を噛む。まさか、あのイザークがそこまでしていたとは思わなかったのだ。 「そうそう。それに、今は他にやるべきこともあるようだよ」 敵さんがおいでのようだ、とバルトフェルドも口を挟んでくる。その事実に、その場にいた者達の表情が引き締まった。 それは軍人として当然のことなのかもしれない。 しかし、アスランの心の中には釈然としない思いが残る。 だから、この戦闘で自分がイザークより上なのだと周囲の者達に認めさせなければ。そんなことを考えていた。 |