「大丈夫だ、キラ」 言葉とともにイザークはそっと彼女の肩を抱き寄せる。 「骨も神経も傷ついていないそうだ。だから、すぐによくなる」 何よりも、キラが側にいて看病してやれば一発ではないか。そんな風にイザークは思う。 「ここにはバルトフェルド隊長もいらっしゃるからな。隊長にはさほど負担が行かないはずだ」 その前に自分たちが何とかする、とさらに言葉を重ねれば、キラは小さく首を縦に振ってみせた。 しかし、彼女の表情ははれない。 と言うことは、キラが気にしていることはラウのことだけではないのだろうか。 それは何なのだろう。 「キラ……」 心配事があるのであれば、構わないから話してくれ……とイザークは口にする。 「……でも……」 キラが言いよどむと言うことは、自分には話しにくい内容だと言うことか。だとするなら、あれが関係しているのだろう。 でも、そのことでキラが塞いでいるくらいならば話をして貰った方がいい。 「構わない。そんな風に思い詰められているよりは、どんなことでも話をして貰った方がいい」 その方が自分の気持ちが軽くなる。 こう付け加えたのは、きっとその方がキラが話しやすくなるだろう、と思ったからだ。 「……イザーク……」 この言葉に、キラが驚いたように視線を向けてくる。と言うことは自分がこう言うとは思っていなかったと言うことか。 確かに、まだまだ一緒に過ごした時間は少ない。 だから、無条件に信じてもらえるとは考えてもいない。 それでもはやりどこか面白くないと思う。 これがカナード達であれば無条件でキラ話していただろう。もちろん、彼らと自分を比べるのがどれだけ馬鹿馬鹿しいことかはわかってはいた。しかし、もう少し自分を頼って欲しいと思うのだ。 「何だ?」 そんな自分の汚い部分をキラに見せたくないというのも本音ではある。だから、優しい笑みを作ってこう聞き返す。 「……イザークと、ディアッカさんは……友達だよね?」 おずおずと、キラは口を開き始める。 「多少、不本意だがな。確かに、あれは友達と言っていい」 苦笑と共に言葉を返した。 「何よりも、あいつは信頼できる。だから、多少の不満は無視できる」 それでも我慢できなくなったときには、お互いケンカをすればいいだけのことだ。イザークはそう考えている。 「……そういうのが、普通の友達、なのかな?」 キラはだとするなら、うらやましいな……とキラは呟く。 「何を言っている。少なくともお前とフレイは立派な友達だぞ?」 キラの他の友人達もそうではないのか、とイザークは微笑む。 「……そう、だよね」 フレイ達が普通の《友達》なんだよね、とキラは呟く。 「だったら……アスランは僕にとって何だったのかな……」 自分は友達と思っていた。 アスランも、あのころはそういってくれていた。 しかし、今彼がすることを見ていれば、決して《友達》がすることじゃないように思える。 「それとも、アスランが変わっちゃったのかな?」 そう呟く声が今にも泣き出しそうに聞こえたのはイザークの錯覚ではないだろう。 「……と言うよりも、あいつが最初から間違えていたのだろうな」 キラの顔をそっと自分の胸に押し当てながらイザークは言葉を口にする。 「あいつにとって――俺たちもそうだが――近づいてくる連中のほとんどが、自分自身ではなく背後にいる親を見ていたからな」 取り入っておけば後々有利になる。 そのためならば、どのような理不尽な言葉にでも従う。そんなものも多いのだ……とイザークは口にする。だから、それが当然のものだと認識してしまったのかもしれない。 「俺には……キラ達と過ごした経験があったからな」 特に、上の三人のおかげでそういう関係が普通ではないのだ、と認識できた。 そして、ほぼ同じ頃にディアッカと出逢えた。 そう考えれば、自分は幸運だったのではないだろうか。同時に、両親に感謝しなければいけない。 一歩間違えば、自分もアスランと同じ事をしていたかもしれないのだ。 「俺は、お前の兄さん達にあれこれただしてもらえた。納得できないときにはきちんと納得できるまで説明してくれたしな」 そこまでしてくれる人間がアスランの側にはいなかったのだろう。 だから、アスランはずっと誤解したままなのだ。 もちろん、それをただす機会はいくらでもあったはず。ただ、アスランがそれに気付かなかっただけだろう、とも付け加える。 「お前がフレイ達にあって正しい友達との付き合い方を学んだようにな」 それをしなかったのはアスラン自身の選択だ。だから、キラが罪悪感を持つことはない。 そうっとその細い背中を撫でながらイザークはそう囁いてやった。 「……イザーク……」 「取りあえず、今は隊長のことを優先しろ」 ラウにしてもその方が安心できるだろう。この言葉に、キラは小さく頷いてみせる。 それを確認しながら、近いうちにアスランとはきちんと決着を付けなければいけないだろう。イザークはそう考えていた。 |