バルトフェルドからの連絡を受けてミゲルとニコルは本気で頭を抱えたくなったようだ。
 もっとも、その気持ちもわかる。
「ここまでバカだったとは思わなかったな」
 吐き捨てるようにラウはこう口にする。
「まぁ、それは今更言ってもしかたがないことだがな」
 アスランのバカを修正するのは自分たちの任務ではない。しかし、とラウは思う。キラを守るのは自分の――自分たちの義務だ。
「女性を保護するのは男として当然の事だろう」
 まして、それが可愛い仲間の婚約者であればな、と笑ったのはミゲルである。流石の彼も、今回のことは腹に据えかねていると言うべきか。
 あるいは、あのイザークがせっぱ詰まったような表情で頭を下げたからかもしれない。
 本来であれば、彼らは今すぐにでも飛び出したいのだろう。それを我慢しているのは、どこに地球軍がいるかわからないからだ。
 そこに、自分たちが現れた。
 大切な存在を任せてくれる程度には彼らも自分たちを信頼してくれていると言うべきか。
 それとも、とラウは視線を外へと向ける。
 自分とキラが知り合いだ、と言うことをイザークが覚えていたからかもしれない。あるいは、キラかカナードから自分の正体を知らされているのか。
 もっとも、どちらの可能性でも構わないが……と心の中で呟く。
 重要なのは、キラを大切にしてくれること。そして、自分の義務を忘れないことだ。
「でも、どうしてアスランはその方を連れ去ったのでしょうか」
 知り合いだとは聞いていたが、それならば皆の前で話をしても構わないだろう。ニコルはそう告げる。
「それができない理由があったんだろうが……」
 だからといって、女性を連れ去るのは違うだろう……とミゲルはため息を吐く。
「あのイザークがあんな表情を俺たちに見せたんだ。少なくとも、その人が彼にってはすごく大切な相手なんだろう」
 そこまで口にしたときだ。ミゲルが顔をしかめた。
「まさかと思うが……イザークへの嫌がらせのために連れ出したわけじゃないだろうな、アスランの奴」
 そして、こんなセリフを漏らす。
「それはないと思いますが」
「思いたいけどな。一緒にいた女性を気絶させてまで連れ出したんだろう? あいつ、最近、おかしかったしな」
 そう考えれば、どのような可能性も否定できない……と彼は付け加える。
「確かに。ナチュラルだろうと同胞だろうと、女性は守らなければいけません。民間人であればなおさらです」
 だから、その点に関してはアスランの行動は認められない……とニコルも頷く。
「あちらから、アスランが使ったジープのデーターも貰ってあるし、探すのは簡単だが……」
 問題は、アスランがぶち切れてまずいことをしていないかどうかだよな……とミゲルがため息を吐いた。
「不埒なことが目的だったという可能性も否定できないわけだし」
 アスランの性格では可能性が低いだろうが、と彼は言葉を重ねている。
 普通ならそうだろう。
 しかし、カナードから聞いていたアスランの言動が確かなら、その可能性を捨てきれない。だからといって、あのパトリックがキラとアスランの関係を認めるわけもないのだ。
 だから、一刻でも早く見つけたい。
 心の中では焦るものの、それを表に出すわけにはいかないことはわかっていた。その事実が辛い。
 もっとも、それは彼らと合流をするまでだな……と心の中で呟いた。そうすれば、アスランであろうともうあの子にちょっかいをかけることはむずかしいだろう。
 それとも、その程度ではあきらめないのだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「対象が発信している信号をキャッチしましたが、どうしますか?」
 このままバルトフェルド達と合流をするか。それとも、とオペレーターが問いかけてくる。
「そうだな……」
 ラウは言葉とともに手をあごに当てた。
 もっとも、考えなくても答えは一つしかない。
「少しでも早く、彼らを確保するべきだろう」
 もっとも、それは自分たちだけでいい。補給物資も積んでいる君達は真っ直ぐにバルトフェルドの元に向かってくれ……とラウは付け加える。
「了解しました」
 それに、彼らは頷いてみせた。
「では、一度地表近くまで降下してホバリングをします」
 その時に飛び降りてくれ、と彼は言葉を重ねてくる。
「わかった」
 自分たちの身体能力を考えれば、その程度のことは造作もない。それよりも、少しでも早くキラの元へ駆けつけなければ……とラウは心の中で呟いた。
「バルトフェルド隊長の方も捜索隊を出しているそうだ。できるなら、そちらにも連絡を取ってくれるかな?」
 言葉とともに、ラウはハッチの方へと向かう。
 その後を、当然のようにミゲル達も付いてきた。
「これをお持ちください」
 最後尾を歩いていたニコルに、クルーの一人が小さな機械を手渡してくる。
「これで正確な位置を確認できます」
「ありがとうございます」
 ニコルがそれを受け取ったのをラウは気配で確認していた。
「……移動していないと確認しても……ここからでは少々時間がかかるな」
 それを想定していれば、最初から準備をしていたのだ……とそんなことも考えてしまう。もっとも、それは今更口にしてもしかたがないことだ。
「……バルトフェルド隊に搬入予定のバイクを一台、一緒に降下させます。それをおつかいください」
 サイドカーだから、多少苦しいが三人でも何とかなるだろう。そんな声がコクピットから飛んでくる。
「ありがたく使わせて貰おう」
 ラウは微かな笑みと共に言葉を返した。