アスランに連れてこられたのは、レセップスから少しはなれた場所だった。
「……勝手なことをして……いいの?」
 確かに、戦闘は終結をしたのかもしれない。しかし、完全に相手を撤退させたわけではない、と聞かされている。ならば、アスラン達にはまだしなければいけないことがあるのではないか。
 そう思って、キラはこう問いかけた。
「キラと話をする方が優先事項だからね」
 イヤミなくらい綺麗な微笑みと共にアスランはこう言い返してくる。
「それに、キラも他の誰かが聞いているかもしれない場所では本音を言いにくいかな、って思ったんだ」
 違う? という言葉にキラは微かに目をすがめた。
 微妙に話がかみ合っていないような気がするのだ。
「でも……アスランは軍人でしょう?」
 それに、フレイにあんなことをして……と口にした声に怒りが滲んでいることをキラ自身が気付いていた。
「軍人である前に……俺は俺だよ?」
 その言葉は何なのだろうか。
 キラが知っている軍人――その中にはイザークも当然含まれている――は己よりも民間人を優先してくれた。
 それなのに、どうしてアスランは違うのだろうか。
 どうして、自分だけを優先しようとするのだろうか。
 自分が覚えていたアスランは違ったような気がする。
 それとも、これが彼の本性なのだろうか。
 自分が気付かなかっただけだとしても、それならばずっと知りたくなかった……とキラは思う。
「ナチュラルだから、一応手加減はしたぞ」
 本音を言えば、死んでくれても構わなかったのだが……とアスランはさらに言葉を重ねている。
「フレイは、僕の大切な友達なのに!」
「でも、ナチュラルだろう?」
 キラが気にかける価値もないだろう、という言葉を耳にした瞬間、キラは思わず彼の顔を見つめた。
「アスラン……本気で、言っているの?」
 冗談だといって欲しい。
 そんな想いをこめながら聞き返す。
「当然だろう? あいつらは、本来、キラにはふさわしくないんだ。俺が側にいられなかったから、仕方がなく側に近づけていたんだよな?」
 自分が側にいたら、あいつらを《友達》なんて言わなかっただろう? と彼はさらに言葉を重ねてくる。
「どうして、そういうことを言うわけ?」
 その瞬間、キラの中で怒りが浮かび上がってきた。
「フレイも、今はここにいないみんなも、僕にとっては大切な友達だよ! そう決めたのは僕だ!! どうして、それをアスランに否定されなきゃないの?」
 自分の友達は自分で選ぶ! とさらにキラは言葉を重ねる。
「キラ?」
 そんな彼女の様子が信じられない、とアスランの瞳が伝えてきた。
「アスランは、僕の三年間を否定したんだよ?」
 ヘリオポリスに行ってから、ずっと側にいてくれたのに……とキラは続ける。育ててくれた両親を失った上に、今までとは違うくらしをしなければいけなかった自分を支えてくれたのは彼女たちだ。
 もちろん、カナードもすぐ側にいてくれたと言うことは否定しない。
 でも、彼は《男性》なのだ。
 だから、女性としての機微を教えてもらうわけにはいかなかった。代わりにそれを教えてくれたのがフレイとミリアリアだと言ってもいい。
 今の自分がいるのは、彼女たちのおかげなのに……とキラはそうも思う。
「僕が同じ事をすれば怒るくせに、アスランが僕にするのはいいの?」
 このキラのセリフに、アスランはすぐに返すべき言葉を見つけられないようだ。
「僕は、アスランの人形でもなんでもない!」
 感情のままにキラはさらにこう叫ぶ。
「アスランの許可がなくても、友達を作れる! アスランなんて、僕の話を聞いてもくれなかったくせに」
 イザークは違った。
 彼はどんなくだらない話でも耳を貸してくれる。そして、同じように笑ってくれた。
 そこまでしなくても、少しでも耳を貸してくれればこんなことは考えなかったかもしれない。
「俺とイザークを比べるな!」
 キラが何を考えているのかわかったのだろうか。アスランがこう怒鳴る。
「……そんなの、僕の勝手じゃない!」
 自分にとって、兄弟達以外の同胞の男性で親しいと言えるのはその二人なのだ。
 だから、無意識に比べてしまったとしてもしかたがないのではないか。
 第一、自分の判断基準は、間違いなく兄弟達だ。だから、アスランとイザークを直接比べることは少ないと言っていい。
「イザークは、僕の婚約者だもん」
 だから何でも話したいし、彼の言葉も聞かせて欲しい。
 そう考えていけないのか……とキラはアスランをにらみつける。
「……お前は、騙されているんだ!」
 イザークに、とアスランはさらに言葉を投げつけてきた。
「そんなことはない!」
 自分たちのことを何も知らないくせに、とキラも言い返す。
「僕とイザークが、いつ出逢ったかも知らないくせに、何も言わないでよ!」
 勝手な話を作らないで! と告げれば、アスランは器用に片眉だけ持ち上げてみせた。
「いつ、出逢ったと言うんだ……」
 自分は知らない、と彼はさらに付け加える。
「当たり前でしょ。アスランに出逢うよりも前だもん」
 そのころから、彼が自分の婚約者だったのだ……と言った瞬間、アスランの顔が思い切りゆがめられた。