「……ヘリオポリス、ね」
 オーブ所有の資源コロニー。
 そこであのようなことが行われていると気付いているものはどれだけいるのだろうか。
 いや、気付いていても見て見ぬふりをしているのかもしれない。
「所詮は、ナチュラルだから、な」
 イザークは吐き捨てるようにこう呟く。
「ですが、イザーク。あそこにも同胞はいますよ?」
 それは正論だろう。中には、戦争に関わりたくないと思っているものもいる。しかし、プラントにいくことができないものもいると言うこともイザークはよく知っていた。
「それでもさぁ。放っておくわけにはいかないだろ」
 あれを、と口を挟んできたのはディアッカだ。
「……そうです、が……」
 でも、と言いたげな表情をするニコルにイザークは侮蔑の表情を向ける。
「ようは、さっさと目的を果たせばいいだけのことだ。民間人には被害を及ぼさないようにな」
 ナチュラルなんてどうでもいい。
 自分から大切な存在を奪った連中なんて……とイザークは心の中だけで付け加える。
 それでも、と思いながら視線をヘリオポリスへと戻した。本当に僅かな可能性だが、あそこに《彼女》がいるかもしれない。可能性があるのであれば、自分はそれなりの行動を取るだけだ。
「そう、ですね」
 完全に被害を与えないことは不可能に近い。
 それはわかっているのだろう。しかし、とニコルも納得をしたのだろうか。
「俺たちにくっついてないであっちで一緒に震えていたらどうだ?」
 だが、それがディアッカには気に入らないのか。それとも別の理由なのか、彼はニコルを追い払おうとする。
「僕は!」
「戦いが恐いんだろう?」
 だから弱音を吐いているのではないか。それは彼のプライドを逆撫でをする言葉でもある。
「僕だって、ザフトの軍人です!」
 予想通りというのか。ニコルが爆発をする。
「だったら、最初から弱音を吐くなって」
 少なくとも自分たちの前では……と言うのは正論なのだろう。しかし、本人がそう思っているのかどうかはわからない。
「……失礼します」
 だが、この場に自分がいて欲しくないとディアッカが考えていると言うことだけは伝わったらしい。この一言ともに彼はきびすを返す。
「ディアッカ……」
 その背中を見送る代わりに、イザークは悪友へと声をかける。
「あの子のことを思い出していたんだろう?」
 即座にこんなセリフが返ってきた。
 彼にだけは《キラ》のことを話してある。そうでなければ《ジュール》の名前ほしさに自分に近づいてくる者達を追い払うことができないこともあったからだ。
「あぁ……生きていることだけは、わかっているんだ」
 そして、オーブのどこかにいると言うことも。こう呟きながら、イザークは自分の首元をそっと触れる。そこには、自分がキラに渡すはずだった指輪が鎖にとおされてかけられている。
「……だから、オーブを巻き込もうとするバカどもが許せない……」
 キラが無事でいてくれるのであれば、会えなくても構わない。
 しかし、彼女を危険にさらすようなことをするのであれば……とそっとはき出す。
「本当、一途だよな、お前も」
 幼いころにただ一度だけあった女性をそれだけ思っているなんて、とディアッカは本気で感心しているという表情で告げる。それがポーズではないことはわかっていた。
「運命、という一言で片づけるのはいやだがな」
 そうとしか言いようがない。
 どのような女性と出会おうとも、キラ以上に気になる存在はいなかった。
 それが運命でなくて何というのか、とそうも思う。
「そういうところを他の連中にも見せてやればいいのに」
 そうすれば、絶対にイザークのイメージが一変するだろう、と彼は笑いながら口にする。
「キラの前でないのに、か?」
 キラが相手ならば、いくらでもそうしてやろう。しかし、他の連中なんてどうでもいい。そういいきれる。両親や辛うじて目の前にいる悪友はともかく、その他の連中が自分を何と言おうとも気にする必要性も感じられないのだ。
「はいはい。わかりました」
 本当、純情だよな……とディアッカは笑う。
「……お前も、そういう相手に出逢ったらわかる……」
 普段から適当にしか付き合わないからわからないのだ、とイザークは言い返した。
「否定できないな、それは」
 両手を上げてわざとらしい仕草で「降参」と付け加える。そんな彼がどこまで本気なのか、それがわかるものはイザークだけかもしれない。
「ともかくは……この戦争を終わらせることが先決だな」
 でなければ、安心してキラを探しに行けないだろう。イザークは心の中で呟く。
「その第一歩、と言うことで頑張らないといけないわけか」
 もっとも、と彼は笑みの意味を変える。
「ナチュラルごときにMSが扱えてたまるかよ」
「そうだな」
 こう答えるものの、イザークはナチュラルを頭ごなしに侮ることはできない。それは、自分がヴィアやムウと言った存在を知っているからだろうか。
 彼等にしても、優れたシステムを構築できる人間がいれば……とそう思わずにはいられない。
 もっとも、その前提となる機体をこちらが奪取してしまえばいいだけのことか。イザークは心の中でそう呟いていた。