ニュースの言葉に、四人は不安な表情を隠せない。
「華南って……本土の近く、だよな」
 大丈夫かな、とトールが呟く。
「オーブは、あくまでも中立だから……大丈夫だと思うんだけど……」
 それでも不安を隠せないのは、世界が戦火に包まれようとしているからなのか。それとも、とキラは心の中で呟く。
「それよりも、あんた達、何をしに来たの?」
 キラとの時間を邪魔しに来たのか、とフレイが思い出したようにトールをにらむ。
「そうだった!」
 だが、トールの方はそれすらも気にならないらしい。慌てたように大声を上げる。
「教授に頼まれてキラを捜していたんだよ。新しいデーターが届いた、とかって言っていた」
「……またぁ?」
 トールのこのセリフを聞いただけで、何故、教授が自分を探しているのかが推測できてしまう。
「昨日渡された分も、まだ終わってないのに……」
 この調子では、自分の課題に手を付けられる日が来るのはいつの日か。そんなことまで考えてしまう。
「確かに、最近多いわよね」
 ラボの中で同性なのはミリアリアとキラだけだ。だから、と言うわけではないが比較的一緒にいることが多いせいでキラが手がけている作業の多さを彼女も知っている。だから、のセリフだろう。
「それも、至急の作業が多いんだよ」
 だったら、自分でやってくれ。キラはそういいたい。
 こちらの解析をする代わりに課題を免除されていなければ、とっくの昔に他のラボへと配属替え願いを出していたに決まっている。
 それでも、最近のこれは多いと思わずにいられないのだ。
「何を焦っているのかしら」
 フレイが呟くようにこう告げる。
「そうだよな。別に焦ることじゃないよな、今の共同研究」
 実際、自分たちが研究している工業用汎用スーツは既に起動までは成功している。細かい動きはともかく、歩くことと腕を動かすことも可能だ。
 何よりも、自分たちがラボを卒業するまでまだ一年以上の月日がある。
 その間にきちんと完成させられるという目処は立っているのだ。
「……何か、他の理由があるのかしら……」
 嫌な感じだ、とミリアリアが呟く。
「そうね。男性陣はどうでもいいけど、キラとミリアリアが傷つくのはいやだわ」
 フレイはフレイでこんなセリフを口にする。
「それって、差別……」
「じゃないわよ! 男は女性を守るものでしょう。キラに課題の手伝いをして貰っているんだから、そのくらいぐらいやりなさい!」
 ぼそっと呟いたトールに対し、フレイがきっぱりと言い切った。
「女の子を守れない男なんて、存在価値がないわよ」
 そこまで言い切るかと思う反面、正論だとも呟く。兄たちも弟も、みな、キラを守るために自分にできることをあれこれしてくれているのだ。それを当然と思ってはいけないことはわかっている。だからといって卑屈になるな……とすぐ上の兄からも言われていた。
「フレイ、それ、サイにも言った?」
 おそるおそるというようにトールが彼女に問いかけている。
「当たり前でしょう。一番最初に釘を刺しておいたわ」
 それもまた見事、と言うべきなのだろうか。
「……ともかく、ラボに行こうか」
 ここでぼーっとしていても事態が変わるわけではない。むしろ悪化するような気がする。
「でも、いいの? 昨日のも終わってないんでしょう?」
「手伝えることなら手伝うわよ」
「大丈夫。昨日の分は後少しだから……今日の分は見てから考えるよ」
 放置しておきたい気分だが、それはむずかしいだろうな……とキラは小さなため息を吐く。それでも、取りあえず、今までの作業を保存してパソコンの電源を落とした。
「トリィ!」
 常に側にいてくれるペットロボットの名前をキラは呼ぶ。そうすれば、彼――と言っていいのだろうか――は真っ直ぐに飛んできてキラの肩に止まった。
「キラ! 荷物、俺が持つよ」
 肩に鞄をかけようとしたところでトールがこう言ってくる。
「トール?」
 別に大丈夫だよ、とキラは苦笑とともに言い返す。
「いいから、預けなさいって……また転んでケガをしたらどうするのよ」
 今だって、足にギブス着けているんだから! とフレイは口にする。同時に、キラが手を伸ばす前に荷物を取り上げた。
「本当に大丈夫だよ。走れないけど、歩くだけなら問題はないから」
 後一週間もしたら、ギブスも外れると思うし……とキラは言い返す。
「それでも、あたしがいやなの!」
 他人を助けたせいでケガをするキラを見るのは! とフレイはにらみつけてきた。その瞳に、うっすらと涙が浮かんでいるのがわかる。
「そうよ、キラ。トールなんて荷物運びにしか使えないんだから、遠慮しないで」
 それも何か違うような気がするのだが……とキラは小首をかしげる。
「ミリィ……そこまで言うか?」
 彼女とトールは付き合っているはずだよな、とキラはちょっと悩む。
「だって、本当でしょう? キラのおかげで、この前のレポートが間に合ったんじゃない」
 そのお礼として荷物持ちぐらい黙ってやれば? と言われてはトールに分があるはずがない。
「わかりました……持たせて頂きます」
 言われなくても持ったけどな、とトールは口にしながらフレイから荷物を受け取っている。
「キラ、足元には気を付けろよ」
「……僕は、そんなに運動神経悪くないよ……」
 一応、これでもコーディネイターなんだけど……と付け加えながらも、キラはゆっくりと歩き出した。