何か、急に人が増えたような気がする。 「キラ姉さん! 何か食べるものを貰ってきますから、絶対にここからでないでくださいね?」 レイがこう口にしたのは、きっと自分たちの存在が邪魔にならないように、と言うことだろう。 「わかってる」 そんな彼に向けて、キラは小さく頷いてみせた。 「絶対ですよ?」 しかし、ここまでしつこく言ってくるのはどうしてなのか。ひょっとして信用されていないのかな、キラは小首をかしげる。 「大丈夫よ。ちゃんとあたしが見張っているから」 そんな彼らの様子を見てフレイが微笑んだ。 「お願いします」 フレイの言葉に微笑み返すとレイは出ていった。 「……何か、間違っているような気がする……」 年下のレイとフレイにこんな風に言われなければいけないのは……とキラは呟く。もちろん、彼らが心配してくれているというのはわかっている。しかし、釈然としないのだ。 「間違ってないわよ。バカが増えてきているでしょ」 キラがここからでなくても、押し込んでくる奴がいるかもしれない。だから、カガリですら一人では出歩いていないだろう。フレイはこう言ってくる。 「……そういえば、ラクスだけだね、一人で歩いているのは」 彼女の顔と立場を知らない者は誰もいない。だから、迂闊に手を出してくるものはいないはずだ。それでもできるだけ一人で歩かないように、とバルトフェルドに言われていたはず。 「そうよ。でも、オーブの人たちが合流してくれているから少しはわがままを言ってもいいのかしらね」 たまには外の空気を吸いたいし……とフレイは呟く。 「それはそうだけど……でも、今は忙しそうだもん」 完全に地球軍がいなくなったと確認できれば、きっとアイシャが散歩に連れて行ってくれるだろう。でなければラクスだろうか。 「今、僕たちにできるのは、皆さんの邪魔にならないようにすることだけじゃないかな」 キラは首をかしげながらこういう。 「わかっているわ」 そのあたりのことはアークエンジェルで嫌と言うほど身にしみている。フレイはこう言いながら首を縦にふってみせた。 「でも、大尉が一緒に来ていたとは思わなかったわ」 さっき顔を見て驚いたけど、とその話題の延長というように彼女は続ける。 「そうだね。でも……何か、大変そうだ……」 アークエンジェルそのものが地球軍から切り捨てられたのだという。もっとも、あちらから呼び戻されそうになったもの――ムウはその中の一人だそうだ――もいたそうだが、ほとんどが辞表をたたきつけたとか。 この話を聞いて、真っ先に思い浮かんだのはバジルールのことだ。 彼女は、いったいどちらのグループに分類されていたのだろうか。そう考えてしまうのは、彼女の価値基準が地球軍のそれに基づいていたものだからだ。 自分自身の判断基準を覆されることほど恐いことはない。 だから、とそう考えるのはバジルールは自分たちを利用しようとはしたが嘘は付かなかったからかもしれない。 「後で……ムウさんに、他の人たちがどうしているのか、教えて貰えばいいか」 ラミアスやマードックのことが気になるから……とキラは口にする。 「そうね。オーブにいるなら元気だと思いたいけど……」 でも、とフレイが口にしたときだ。 来客を知らせる合図が端末から聞こえてきた。 「……誰かしら……」 先に動いたのはフレイの方だった。 すっと立ち上がるとそのまま端末へと歩み寄っていく。 「何かありましたか?」 レイをはじめとした者達であれば、ここのロックを外すことができる。だから、こんな風に合図を送ってくるのはバルトフェルドの部下達だ。 しかし、彼らがアイシャがいないときにここを訪れることは今までなかった。 だからといって、全くないとは言えない。 『申し訳ないが、排気ダストを確認させて頂きたい』 即座に言葉が返ってくる。 スピーカー越しだからだろうか。微妙に変わっているが、キラにはその声に聞き覚えがあった。 しかも、心のどこかで警鐘が鳴らされているような感覚に襲われる。 「何なのよ、もう」 それが誰のものであったのか。キラが思い出すよりも早く、フレイがロックを外そうと端末に手を伸ばした。 「フレイ、待って!」 慌ててキラは彼女の行動を止めようと声をかける。 しかし、それは一瞬、遅かった。 ロックが外れると同時に誰かが押し入ってくる。 「フレイ!」 しかも、ドアの前に立ちふさがるようにしていたフレイをその人物は気絶させてしまう。 「何をするんですか!」 言葉とともに彼女を気絶させた人物をキラはにらみつける。 しかし、次の瞬間、その瞳は大きく見開かれた。 「……アスラン……」 どうして、彼がフレイを……とキラは信じられない思いでその名を口にする。 「ようやく会えたね、キラ」 しかし、アスランは恐いほどに明るい笑みを作るだけだ。 「アスラン……どうして、フレイを……」 自分の聞きたいことが伝わっていないのだろうか。そう思って、改めて言葉を絞り出す。 「ようやく、お前と二人だけで話ができそうだ」 それを耳にした彼が口にしたのは、こんなセリフだった。 |