「アンディ!」 キラ達と一緒にいるはずのアイシャが大あわてで飛び込んでくる。 「どうしたんだい?」 「いいから、これを見て!」 真っ直ぐにバルトフェルドの側に歩み寄ったかと思うと、彼女はキーボードを操作してある画面をモニターへと呼び出した。 「これがどうか……」 言葉とともに画面をのぞき込んでいた彼が、その内容に息をのむ。 「……まさか……」 「多分、間違いないと思うわ。キラちゃんが地球軍のマザーから見つけ出してきたのよ」 趣味がハッキングというのは少し問題かもしれないが、現状ではありがたいとしか言いようがない……と言うアイシャの言葉に視界の隅でカナードが苦笑を浮かべている。と言うことは、彼はその事実を知っていたと言うことか。 「とは言っても、今はどうすることもできないがね」 この状況を打破しなければ、とバルトフェルドはため息を吐く。 しかし、だ。 これを手に入れてしまった以上、自分は死ぬわけにはいかない。 それだけの重荷を与えられてしまった。 だが、それもまた楽しいと思ってしまうのはどうしてなのだろうか。 「あぁ、そうだったわね」 自分の隣で微笑んでいる女性も同じような表情を作っている。 「でも、そちらも心配ないわ。ちゃんとキラちゃんに探して貰ったから」 ついでに、お願いしてウィルスも仕込んで貰っているの……とアイシャはさらに言葉を重ねてきた。 「アイシャ……君ね」 「だって、キラちゃん達のデーターが残っているのは困るでしょう?」 だから、消しちゃいなさいって言っちゃったの……とアイシャは楽しげに告げる。 「……確かに、それは一番だな」 地球軍のことだ。他にもデーターを持っている可能性は否定できない。それでも、マザーの内部にあるデーターが消去されているといないとでは大きな違いが出る。 「でも、あそこにはフレイ君もいたんじゃないのかね?」 彼女はキラの秘密を知らないはず。そして、キラ自身もその事実を知られたくないと思っていたのではないか。 言外にそう問いかけるバルトフェルドにアイシャは笑みをやさしいものへと変える。 「心配いらないわ。そこにはラクスさまやカガリちゃんにカナード君達のものもあったから。連中にしてもまだあれこれ疑われるわけにはいかなかったのでしょ」 だから、各国の主要人物とその関係者、という項目の中に入れておいたのではないか。でも、あまり嬉しくないだろうから全部消しちゃいなさい、っていったの……と楽しげに報告をしてくれる。 「確かに、それならばフレイ君も疑わないね」 しかし、本当に『各国の主要人物』だからデーターがあったのだろうか。 そんな疑問がバルトフェルドの中に浮かんでくる。 「取りあえず、我々は陽動ではなくこれから襲って来るであろう本隊を念頭に行動を開始する」 あちらは彼らに任せておくしかないだろう。 そう判断を下したときだ。 「……その本隊の場所が確定できたぞ」 カナードが低い声で報告をしてくる。 「どこかな?」 「先遣隊が向かった場所より南に七十二度ずれた方向だ」 おそらく、陽動部隊が発見されたのを確認してから上陸をしたのだろう。そのカナードの言葉にバルトフェルドも頷いてみせた。 「それで、だな」 不意に意味ありげな笑みを浮かべながら、彼は言葉を重ねる。 「その途中で連中がこの地元のレジスタンスの方々と衝突したんだそうだ。うちの一番目が交渉した結果、今回だけは協力してもいいと言っているそうだが?」 協力させても構わないのか。そう問いかけてくるカナードにバルトフェルドは楽しげな笑いを漏らした。 「君達きょうだいは、本当に俺を楽しませてくれるよ」 ただし、君達の長兄の指示に従わせてくれ。この言葉にカナードも頷いてみせた。 「……こちらが陽動?」 地球軍を取りあえず撤退させて戻ってきたアスランの耳に、ディアッカのこんなセリフが届いた。 「だ、そうだ。もっとも、オーブの極秘部隊が参戦してくれたそうだからな。大きな被害はなかったそうだ」 もっとも、あちらも撤退しただけだ。だから、こちらの部隊と合流をして再編した後にまた襲撃をしてくるかもしれない……とそうも付け加える。 「それで?」 自分たちはどうするのか、とディアッカが問いかけていた。 「取りあえず、あちらと合流だそうだ」 この言葉を耳にした瞬間、アスランは内心ほくそ笑む。 あちらと合流すればキラと話す機会はいくらでも作れるはずだ。 「父上は、子供さえ作れれば相手は誰でもいいだろう、とおっしゃっていたからな」 そうであるならば、ラクスではなくキラだって構わないだろう。 自分にすれば、ラクスよりもキラの方がずっと一緒にいたから気心が知れていていい。キラだって、きっと話をすればそれは理解してくれるはずだ。 何よりも、キラをイザークに取られるのが我慢ならない。 自分の方がイザークよりもよっぽどキラと親しくしてきた。一緒にいた時間だけならば、カナードにだって負けていない。 キラだって、そんな自分と一緒にいる方が気が楽に決まっている。だから……とアスランは心の中で呟く。 「キラも、俺といることが一番幸せなんだ……」 その考えが間違っているなど、アスランは微塵も考えていなかった。 |