そのころ、送られてきたデーターを見てカナード達は全員、顔をしかめる。
「可能なのか?」
 問いかけの言葉を口にしたのはイザークだ。その言葉の裏に、信じられないという思いが滲んでいたことは確認しなくてもわかる。
「医療の場では、既に治療の一環として使用されているそうです」
 それに言葉を返したのはレイだ。
「もっとも、あくまでも臨床データーを取るための実験段階ですが」
 欠損した四肢や視覚を補うための義手や義足、それに義眼と神経をつなぐためのデバイスとして脳内にインプラントを埋め込むのだ、と彼はさらに言葉を重ねる。
「現在は、多少の違和感は残るものの、以前と同じような動作ができるようになっているそうです」
 次の課題は費用をどこまで下げられるか……というのは当然のことか。
「しかし、それをMSの操縦に流用するとは……」
 考えられない、と言うのはレイがまだ幼いからだろうか。それとも、医療のために開発されたそれが戦争に使われていると言う事実を認めたくないのか。
 そのどちらが正しいのだろう。
「可能があるのであれば何でもする。それが地球軍だろう」
 MSの脅威が連中の方がよくわかっている。それだからこそ、手に入れたいと思っているのだ。
 そのためならば、同胞の命はどうでもいいのか。
「もっとも、周囲に知られれば非難の的になると言うこともわかっているはずだ」
 それでも投入したということは、知られる前にこの戦局を覆せると考えたからなのかもしれない。
「……厄介だな」
 何よりも、これがこちらにも向かっているのであれば……とバルトフェルドがため息を吐く。
「我々の戦力は限られている。連中の戦力がどれだけのものかわからない以上、慎重に行動をしなければいけないだろうね」
 守らなければいけない女性陣がいることだし……と彼はさりげなく付け加える。
「……アンディ?」
「深い意味はないよ、アイシャ。女性がみな、君のように強いわけではない……と言うだけだ」
 彼でも好きな女性にはかなわないのか。
 そういう人間的なところがあるから部下達は付いていくのかもしれない。
「俺はそういうところを含めて君が一番だが、ラクスさまやキラ君達の魅力も否定しない。守ってやりたいという気持ちは事実だがね」
 そういうことだよ、と笑う彼に、アイシャは小さなため息を吐く。
「そういうことにしておいて上げるわ。あの子達を守らなければいけない、というのは事実だものね」
 彼女たちはこれから咲く蕾だもの……と彼女は口にする。だから、綺麗に咲くまで守ってやるのが大人の役目よね……とも付け加えた。
「……咲いた後は?」
「もちろん、それを手折った男の役目でしょ」
 レイの問いかけに、アイシャは婉然と微笑む。それと同時に彼女は視線をイザークへと向ける。
「今でも、その気持ちは変わらないがな」
 キラを守るのは自分の義務だ。それは、彼女の大切なものに関しても同様だ、と言いきる。
 そういうところが好ましいと思える理由だろう、とカナードは思う。
 同時に、もう一人の男のことを思い出す。
 あの男はキラは守るだろう。だが、彼女の大切な者達まで気を回すことができるだろうか。
 それは小さな差かも知れない。だがその間には大きな壁がある。それに気づけない以上、自分たちは彼に可愛い妹を渡すわけにはいかない。
 そんな彼の気持ちに気づいているのかどうか。
「……気づいているわけがないな……」
 この呟きは、カナードの口の中だけで消えた。

「……キラが……」
 いったいいつから、キラは《少女》だったのだろうか。
「月にいた頃のIDは、間違いなく《男》だったはず、だ……」
 それでも、とアスランは続ける。自分はそれを確認したわけではない。
 あのころの月の情勢を考えれば、キラの両親やカナード達が判断をしたとしてもしかたがないのではないだろうか。
 理性としては、その事実もわかる。
 しかし、どうしても認めたくないと思ってしまうのは、自分だけが知らなかったからなのかもしれない。
「キラが女だと知っていたら……」
 もっと違う態度で接していたのだろうか、と自分に問いかける。
 いや、もっと違う関係を築けたはずだ……とそういう結論に達した。
 何よりも、公的に自分だけにキラを縛り付けられるチャンスだったかもしれない。そんなことまで考えてしまう。
「キラは、第一世代だから、遺伝子的問題も第二世代同士よりも少ないはず」
 父にとって必要なのは、自分の血をひく子供だけだ。その母になるのがラクスでなくてもいいに決まっている。
 そして、月にいた頃であれば、母が自分の味方になってくれたに決まっている。
「それなのに、お前は俺よりもあいつを選んだんだな」
 確かに、自分がキラがどこにいるかを知らなかったように、キラが自分の居場所を知らなかった可能性はある。
 その間にイザークがキラに近づいてその心を射止めたのだとしたら……ある意味、許せない。
 しかし、どうすればいいのだろうか。
「今の状況が間違っているとわかっているのに……」
 気が付けば、自分自身がしがらみに縛られている。それはキラも同じではないだろうか。
「俺は……全てを捨てられるか?」
 そして、キラにも同じように捨てさせられるか? と心の中で呟く。
 その答えを探そうとしたときである。
「アスラン・ザラ!」
 彼の名を呼ぶ声が耳に届いた。
「待機ポイントに付いたぞ! いつでも発進できるように準備をしておけ!」
「わかった」
 取りあえず、今は地球軍を壊滅させることを優先しよう。そうすれば、キラの側に行けるかもしれない。
 チャンスは、その時に見つけられるのではないか。
 そんなことを考えながらアスランは腰を上げた。