作戦は大成功のうちに終わった。 本来であれば、その足でバナディーヤに向かおうと考えていたラウは、まだこの場に足止めをされている。それは、目の前の残骸が関係していた。 「……これは……」 地球軍がMSを持っていたとしてもおかしくはない。そして、彼らの中にも――僅かとはいえ――コーディネイターがいる以上、戦闘に参加していたとしても驚くことではないのかもしれない。 しかし、目の前のそれは違っていた。 「クルーゼ……君はどう思う、これを」 同じようにかつてはコクピットだった場所をのぞき込んでいた隊長の一人がこう呼びかけてくる。 「脳波コントロール、とでも言うのかな」 それとも、と言葉を探してラウは考え込む。 おそらく脳内にインプラントを埋め込んで、直接電気信号としてAIに伝えていたのだろう。それとスロットルやフットペダルの操作を組み合わせることでコーディネイター並の動きを可能にしていたのではないか。 もちろん、一種の人体実験と言っていいはずだ。 「ナチュラルにとって、同胞も実験材料か」 もっとも、そう思っているのは一部のものだろうが。それでもこう呟かずにいられない。 「そうだな」 しかし、これが大量に投入されたらきついな……と呟いたのはモラシムだ。 「ザフトのパイロットは比較的若い連中が多いからな。連中が割り切れるかどうか、だ」 目の前の現実に、と彼は付け加える。 「確かに」 その言葉に同意をするいかない。 これに最初に気付いたニコルは、未だにショックから抜け出せないのだ。ミゲルを付けてあるから心配はいらないとは思うが、それでもしばらくは使い物にならない可能性もある。 「さて、どうしたものかね」 バナディーヤに向かっている部隊にもMSは配備されているらしいし、とラウは仮面の下で盛大に顔をしかめてみせた。 「……バルトフェルドに、即座にデーターを送るしかないだろうな」 後は、彼に任せるしかないのか……とモラシムは顔をしかめる。 「そうだな。我々も、予定通りあちらに合流をするつもりだ」 いざとなれば、ニコルは後衛に回せばいい。 今の彼でもその程度はできるはず。まして、現在のレセップスには自分たちの身を守ることすらできない者達がいる。その者達を守ろうとする気持ちまではまだ失っていないだろう。 「そうしてもらうしかないだろうな」 残念ながら、自分たちの隊では迂闊に任地を離れるわけにはいかないから……と他のものも口を開く。 「それはしかたがあるまい。我々は、あくまでもここではイレギュラーな存在だからな。だからこそ、自由に動けるというものだ」 もちろん、そうでなくては困る……と心の中で付け加える。 「それに関しては、早急に解析を頼むべきだろうね」 パイロットのいたいに関しても含めて、と少し嫌悪を含ませた口調で言葉を重ねれば誰もが頷いてみせた。 「このような暴挙は、決して許されるべきではない」 人間をMSのパーツに貶めてしまうことは……とさらに声が上がる。しかし、この場でできることは少ない。 「では、自分がなすべきことをしようか」 この言葉を合図に、それぞれが己のなすべきことをするために行動を開始する。ラウもまた、自分の部下達の様子を確認するためにきびすを返した。 宇宙と地上の違いはあれ、戦艦の内部構造には大きな差はない。 「それでも、シャワーが自由に使えるだけ、ましよね」 髪の毛を拭きながらフレイがシャワーブースから姿を現す。 「と言っても、使いすぎは厳禁だぞ」 そんな彼女に向けてカガリがこう声をかけた。 「わかっているわよ。だから、髪を洗うのも三日に一度で我慢しているじゃない」 アークエンジェルにいたときは、ほとんど洗えなかったら、それに比べたらましだわ……と彼女はキラに同意を求めてくる。 「あの船は、飲み水にも困っていたからね」 しかたがないよ、とキラは言い返す。 「それでも、優遇してもらえていた方だったから」 マードックをはじめとした者達の方が体を洗いたかっただろうに、その分の水を自分たちの入浴に回してくれていたのだ。彼らは、体を拭くだけで我慢していたと言うことも覚えている。 「まぁ、ね。みんながあんな風だったらましだったのに」 バジルール達がいたから、そんな彼らの気遣いも台無しになることが多かったのよね……とフレイはため息を吐く。 「ところで、キラ。それは?」 何のプログラム、と話題を変えようとするかのように彼女は問いかけてきた。 「兄さんが持ってきたMSのOS」 これを流用して、ナチュラルでも動かせるシステムが作れないかと思ったのだ。基本の動作をいくつか用意しておいて、それを組み合わせることで少しでも操作の負担を軽減できるのではないか、とキラは言い返す。 「キラ?」 「武装関係はカットしてあるから。コロニー建設とかに使えるといいな、って思っただけ」 ヘリオポリスの代わりを建設しなければならないだろうし、少しでも時間を短縮するためには必要かな、と思ったのだ。 「それはそうかもしれないけど……」 「それに……戦闘用に使うにしても、そちらに関しては兄さん達がきちんと監視してくれるっていっていたから」 だから、迂闊な人間の手には渡らないのではないか。 そもそも、ここでは使えるナチュラルは皆無だろうし……とキラは付け加える。 「テストは私がする。他の人間には触らせないさ」 それはそれで問題だろうが、と考えてしまうのは自分だけだろうか。キラはそんなことも考えてしまう。 「……キラが大丈夫だって言うならいいけど……無理はしないでね?」 フレイが不安そうな表情を作りながら言葉を口にした。 「うん、わかっている。無理をしているようだったら、フレイが教えてくれるでしょう?」 こう言えば、彼女は即座に頷いてみせた。 「もちろんよ。キラの面倒を見るのがあたしの役目だもの!」 少なくとも、ここではそれを誰かに渡すつもりはない! と彼女は言い切る。 「そういってくれるから、私も兄さんも……ついでにあいつも安心していられるんだよな」 カガリもそれに同意の言葉を口にした。 「でしょ!」 くすくすと笑いながらフレイが抱きついてくる。 「冷たいよ、フレイ」 そんな彼女に向けてキラは苦笑混じりに言い返す。 「ごめん! 今、乾かすわ」 「そうしろ。そうすれば、ちょうど食事の時間になるだろうしな」 キラにきちんと食事を取らせるのも自分たちの役目だ、とカガリが頷く。 「何、それ!」 キラの反論に、二人の口から楽しげな笑いがこぼれ落ちた。 |