「……カナードから連絡は来ているんだよな?」 地球軍の様子を確認しながら、ムウはこう問いかけた。 「はい。連中を迎え撃つために出撃したザフトの隊に同行しているそうです」 カガリとキラも一緒だとか……と即座に言葉が返される。 「キサカ一佐は、現在、別行動中だそうですが……カナード君が一緒だから大丈夫でしょう」 少なくともあの二人は、とトダカは付け加えた。 「それに、レイもいるしな」 何よりも、と心の中でムウは呟く。彼らと共にいる男――砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドの名前は、地球軍にいた頃、何度も耳にした覚えがある。 あれだけの男だから当然なのではないか。 そう言う者もいる。しかし、ザフトはともかく地球軍は一枚岩ではないのだ。所属している国が違えばとたんに情報が滞ってしまう。 何よりも、ムウが主な戦場としていたのは宇宙だ。そうなると、余計に地球上での情報は耳に入らなくなる。 それなのに、ムウは彼の名前を知っていた。 つまり、それだけ地球軍に損害を与えていた、と言うことだ。 「ただ、連中が持っているあれがどこまで使い物になるのか。それがわからないんだよなぁ」 モルゲンレーテが絡んでいるのはわかっているのだが、とムウはため息を吐く。 「エリカ主任からの連絡では、やはり、あのデーターにアクセスをした痕跡が残っていたそうです」 しかも首長会権限で……と声を潜めながらトダカが告げた。 「と言うことは、やっぱりあそこかねぇ」 ムウの脳裏に真っ先に浮かんだのは、キラのことをあれこれ言ってくれた極悪人――こう思っているのはムウ達だけかもしれないが――の顔だ。 「その可能性が強いと思いますよ」 本来であれば、彼はそのようなことを言う人間ではない。命令があれば淡々と義務をこなす軍人の鏡のような存在だ。 しかし、そんな彼でも腹に据えかねることがあるのだろう。あっさりと頷いてみせた。 「あの方々は、時々オーブの利益より大西洋連合のそれを優先されますからね」 きっと、それで苦労をしたんだろうな……とその声音から想像が付いてしまう。 「だからこそ、ウズミ様が必要なんだろう」 彼が代表首長からこそオーブは中立を保っていられる。 そして、彼がいたからこそ、自分たちはキラとカガリ、そしてカナードをオーブに残したのだ。 最初は、自分とカガリだけがオーブにいてキラとカナードはレイ達と共にプラントにいかせようかと考えていたのだ。しかし、キラを出国させようとした際、どこからともなく邪魔が入ったことも事実。 既にカガリの養父になっていたウズミが保護を申し出てくれたことと、ヴィアの妹のカリダにキラが懐いたこともあって、彼の元に二人を残したのだ。 そして、自分が側にいなくても大丈夫だろう。 こう考えて、大西洋連合のIDを手に入れて地球軍に潜り込んだ。 それは、少しでも情報を手に入れるためだったことは否定しない。 同じようなことを考えてラウが黄道同盟――今のザフトに入隊したと言うことには苦笑を浮かべるしかできなかったが。 「ウズミさまと、彼と共にオーブの理念を追い求めていく人たちがいる限り、オーブは大丈夫だ」 それだからこそ、あの連中はカガリとキラの二人を自分たちの手の中に収めてしまおうとしているのか。 「わかっております」 それに、とトダカは笑う。 「このたびのことであの方々とあちらの関係が明白になれば、いくら五氏族とはいえ、言い逃れはできないはずですからね」 この言葉に、ムウも笑い返す。 「そうだな。そうすれば、カガリも言い寄られずにすむか」 あのバカ息子にとさりげなく付け加えた。 「バカでも構わないとは思うんですよ、別に。あの方の足を引っ張らなければ」 カガリはまだまだ未熟だ。 それでも、彼女は既にウズミの理念を少しでも実現しようと努力を重ねている。それに、今回のことは彼女にとってもいい経験になるはずなのだ。 その彼女の邪魔さえしなければ、夫になるものが誰でも構わない。 もちろん、それを手助けしてくれるものであれば言うことはない、というのは事実だ。 「確かにな。あいつの尻に敷かれてくれるような人間か、あいつの背中を守ってくれる人間がいいか」 カガリの性格であれば……とムウは苦笑を浮かべた。 「一国を背負う人間であれば、あの性格でいいんだろうな」 女性としては、少々問題があるかもしれないが……とその表情のまま口にする。 「もっとも、もう少し大人になれば、落ちつきは出るか」 でなければ、公的な場面で猫をかぶれるようになるだろう。それで十分ではないか。そんなことも考える。 「それにしても……」 取りあえず、意識を切り替えようとムウは口を開いた。 「動いているところを見たいよな」 それだけでパイロットの技量やシステムのできがわかるのに……と呟く。 「ただの見せかけではないのですか?」 「それはないと思うぞ。そうならば、あんな風に隠したりはしない」 地球軍の性格から考えて、とそう付け加える。 「それに……妙な連中も一緒にいるし、な」 あれこれ、普段では考えられないようなものが見受けられるのだ。前例遵守の軍隊があのような行動を取るのは珍しい。いや、普段ならあり得ないと言うべきなのか。 「ストライクのデーターをどこまで流用しているのかはわからないが……きっとあれは動くだろうな」 問題は、どのレベルなのか、と言うことだ。 こう付け加えるムウに、トダカも頷いてみせる。 「他のものにも、あれに注意するように伝えておきます」 「そうしてくれ。ついでに、キサカさんに連絡を取ってもらえれば嬉しい」 カナード達に伝えることはむずかしいかもしれないが、それでも、彼であれば何とかしてくれるだろう。 今までの経験から、ムウはそう認識していた。 |