「……戦闘、ですか?」 話を耳にして、キラは顔をしかめる。 「そうだよ。ここはこのあたりの拠点だからね。あちらさんとしても取り返したいらしいのだよ」 近くにある鉱山から取れるレアメタルが必要なのだろうね……とバルトフェルドは言葉を返してきた。 「だろうな。できることなら、オーブでも輸入を再開したいところだ」 それに関しては、とカガリがフォローを入れる。 「だからといって、民間人を戦闘に巻き込みたくはないからね。ここには最低限の人数だけを残して、俺たちはこちらの都合のいい場所に移動しようと思うわけだよ」 ただね、とバルトフェルドは申し訳なさそうな表情で言葉を重ねてきた。 「万が一のことを考えれば、君達を人質に取られるわけにはいかない。それに、一緒にいて貰った方が守りやすいからね」 そういうことだからすまないが付き合ってくれないか。ここまできちんと説明をされてしまえば、頷かないわけにはいかない。 「……はい、わかりました」 こうは言い返したものの、やはり不安を感じないわけではないのだ。 「君達の身柄に関しては、カナード君が守ってくれるそうだ。だから、心配はいらない」 自分たちも君達にを危険にさらすようなことはしない、とバルトフェルドは優しい微笑みを浮かべる。 「信じていないわけではありません」 ただ、どうしても『戦場に行く』と言うことが恐いだけで……とキラは口にした。 「その気持ちは正しいと思うよ。それでも、そうしてもらわなければいけないんだがね」 不本意だが、という彼にキラは「すみません」と謝罪の言葉を告げる。 「キラ君?」 どうしてそのようなことを言うのか……と言うようにバルトフェルドが問いかけてきた。謝るのは自分の方だと思っているのかもしれない。 「今から戦いに行くであろう人に、余計な手間をかけさせてしまいましたから……」 だから、とキラは視線を落とす。 「気にすることはない。こちらの都合だしね」 だから、謝るのはこちらだ……と口にすると同時にバルトフェルドはそうっと手を伸ばしてくる。そして、キラの頭を撫でてくれた。 「当座の荷物だけでいいから、大至急用意してくれると嬉しいな」 そして、さらに言葉を重ねてくる。そんな彼に、キラは小さく頷いてみせた。 「あぁ、それと」 それを確認してから、彼はカガリへと視線を向ける。 「お願いだから、君も大人しくしていてくれるかな?」 流石に、この状況でオーブまで敵に回したくない……と苦笑を浮かべる彼にカガリは憮然とした表情を浮かべた。 「私はそこまでバカではないつもりだ」 もっとも、何かあったときはキラ達を守るために動くが、それに関しては文句を言われるつもりはない。そう言い返す。 「それは、君の権利だからね」 だから止めないよ、と彼は笑う。もっともそうならないようにするが、という言葉を信じたい。キラはそう思っていた。 「本当は、お前を営巣から出すのは不本意なんだがな」 バルトフェルド隊のものだと思える兵士と共に姿を現したディアッカが開口一番、こういった。 「地球軍の部隊がこちらに向かっている以上、使えるものは何でも使え、というバルトフェルド隊長の判断だ」 そういうことであればしかたがないのか、とアスランも思う。そして、自分も『ラクスの保護』を名目に強引にここに来た以上、それを拒むわけにもいかない。 「……しかたがないな……」 彼らの態度から判断をして、自分がラクスの護衛に回されることはなさそうだ。そして、カナードがキラの側に近づけてくれるとは思えない。 しかし、と心の中で呟く。これはチャンスかもしれない。 後で何を言われようと、キラを味方に付けてしまえば問題はないだろう。 そのためには、キラに会わなければいけない。 問題があるとすればディアッカの存在だが、それも何とかできる自身がある。だから大丈夫ではないか。 後は、無事にキラを探し出せるかどうかだろう。 「わかっていると思うが、勝手に動くなよ?」 その時には傷つけてもいいとバルトフェルドから言われている、とディアッカはアスランの考えを読んだかのように言ってくる。 しかし、それに言葉は返さない。 「……やっぱ、手錠でも持ってくるべきだったか」 鎖でつないでおけば逃げられなかっただろうに、と彼は悔しげに告げる。 「それでも、連れて行かないわけにはいきません。作戦に支障をきたすわけにはいかないかと」 「そうなんだよな。それさえなければ、まだまだ閉じ込めておくのに」 ぶつぶつと言いながらも、ディアッカはアスランを半ば引きずるようにして廊下へと移動していく。だが、廊下に出ても手を放す様子はない。おそらく、このまま目的地まで連れて行くつもりなのだろう。 この馬鹿力……とアスランは心の中ではき出す。これでは、振り払うのにも一苦労だろう。だが、それが彼らの目的なのだと言うこともわかっている。 それでも、諦めるわけにはいかないのだ。 間違いなく、これが最後のチャンスになるだろうとわかっているからかもしれない。 そんなことを考えていたときだ。 「キラ! 足元に気を付けなさいよ!」 こんなセリフがアスランの耳にはっきりと届く。その声の主には思い当たるものはない。だが、それは関係のないことだ。 キラがここにいる。 居場所がわかっているのであればためらうことはない。 「こら、アスラン!」 強引にディアッカの腕を振り払うとアスランは声がした方向に駆けだした。 「キラ!」 そのまま数名が固まっている場所に突進していく。 「……アスラン、貴方!」 そういったのはラクスだ。その背後にいる人影がキラであるはず。 「……キラ?」 だが、とアスランは一瞬我が目を疑った。 栗色の髪とすみれ色の瞳は、自分の記憶の中にあるキラの姿と同じものだ。しかし、その体躯が違う。柔らかな布地に包まれたキラの体は、同じように柔らかな曲線を描いている。 「……アスラン……」 困ったように呟かれた声も、別れたときのままだった。 |