人工の日差しの強さに、キラは思わず手をかざす。 「……これじゃ、モニターがよく見えないよね」 やはり、図書館かどこかに行けばよかっただろうか。しかし、そうすればさらに余計な仕事を押しつけられるかもしれない。そう考えると、どうしてもそんなことははばかられてしまう。 「それもこれも、教授があれこれ言うから……」 余計な噂が広まって、関係のないところからもプログラムの構築や解析を頼まれるようになってしまった。 もちろん、それらは全て断っている。 自分はただの学生でしかないし、カトー教授に押しつけられている分だけで手一杯なのだ。だから、申し訳ないとは思うのだが……とキラが小さなため息を吐いたときだ。 「……華南?」 時間の確認の意味をこめて表示していたニュースが本土に近い地名を告げてくる。 その意味がわからないわけではない。 しかし、と思いながらキラは意識をアナウンサーの言葉に向けた。 正しい状況を把握することは何よりも大切だ。判断をするのはそれからでいい。 兄たちからそう教えられてきた。だから……と思いながら内容を聞いていけば、徐々に彼女の眉間にしわが寄せられていく。 「ダメでしょ、キラ!」 その時だ。言葉とともに誰かの指先がキラの眉間をつつく。 「……フレイ……」 「せっかく可愛いのに、変なしわが付いてしまうわよ」 それじゃダメなの! と言いながら、彼女はキラの側に腰を下ろす。 「わかっているんだけど……」 「……まぁ、ね。このニュースを聞いていればそうなるのもわかるけど……」 でも、女の子なんだから……と言われてキラは微苦笑を浮かべてしまう。 確かに、自分は生まれたときから《女》だった。しかし、女として過ごしてきた時期よりも《男》として過ごしてきた時期の方が長い。その理由はわかっているし、今はこうして本来の性別として生活をしていられるのだから構わない。 そうは思うのだが、どうしても癖というものは消せないらしいのだ。 「本当に……コ……ザフトは恐いわね」 コーディネイターと言いかけて、フレイは慌てて言い直す。それはキラを気遣ってくれているのだろう。 「……そうだね……」 彼女があまりコーディネイターを好きではない――と言うよりは嫌っていることをキラも知っている。それでも、何故か自分は彼女に好かれているらしい。 それはどうしてなのだろうか。 こう考えることも多い。自分の何が彼女に好かれているのか、わからないから、とも思う。 「キラ、どうしたの?」 考え込んでしまったからだろうか。フレイがこう問いかけてくる。 「……フレイって、コーディネイター嫌いなんだよね……」 それなのに、とキラは小さな声で呟くように今の気持ちを正直に口にした。 「そうね。でも、キラの場合、しかたがないかなって思うもの」 というよりも、自分がキラの両親の立場であれば、同じ選択をしたと思うから、とフレイは微苦笑とともに付け加える。 「考えたら、コーディネイターって優秀な子供が欲しいって理由からだけじゃなくて、遺伝子疾患を持った人たちが健康な子供を産むためって言う医療面からの理由もあったんだってわかったのよ」 前者はともかく後者まで嫌悪していてはいけないのではないか。そう気付いたから……とフレイは可愛らしく微笑む。 「だから、キラと、キラのお兄さんは普通のみんなと同じでいいかなって、そう思うことにしたの。キラがどれだけ努力しているか知っているし」 サイも尊敬しているし……と言うのは違うのではないだろうか。 「ありがとう」 それでも、自分のつまらない問いかけにちゃんと答えてくれたことは嬉しい。そう思って、微笑みを浮かべた。 「やっぱり、キラは笑っている顔が一番だわ」 即座にフレイがこう言ってくる。 その瞬間、キラの脳裏に一つの面影が浮かんできた。 無意識のうちに、首にかけられているそれに指先が伸びる。 「キラ?」 「……ごめん。昔、同じ事を言ってくれた人のことを思い出していただけ」 服の上からそれに触れながらキラは言葉を返す。 「キラの、好きな人?」 「うん。でも、小さいときに一度あっただけだから……もう、忘れられているかもしれない」 それでも好きだから……とキラは微笑む。 「そういうところも可愛いのよね、キラ」 大丈夫。相手も忘れていないわよ、とフレイが言い返してくる。 「そうだといいな……」 でも、彼は本当に素敵な人だったから、他の人も放っておかないかもしれない。そう心の中で呟く。 だから、これだけがこの恋の形見なのかもしれない。 その時だ。 「あ〜! キラ、こんな所にいたんだ!」 「探したわよ」 こう言いながら、トールとミリアリアが駆け寄ってくる。 「フレイもいたの? サイが探していたわよ」 「……本当?」 「本当よ」 ある意味、まだここには日常が残っていた。もっとも、それは今は、という限定でのことではあったが。 |