「そうか」
 イザークの言葉に、カナードは小さく頷く。
「いずればれるのであれば、キラには俺たちの口から話しておいた方がいいだろうな」
 でなければ、万が一の時に困るだろう。
「……あいつが大人しくしていてくれればいいのですが……」
 言葉とともにイザークは顔をしかめる。
「取りあえず、本国の方では、母が根回しを終えたそうですから、あいつにしてもこれ以上文句を言えないとは思いますが……」
 逆ギレをする可能性はあるから、と彼は言葉を重ねた。
「まったく……三歳児でももっと分別があるぞ」
 ダメと言われれば諦めるものではないのか、とカナードはため息を吐く。
「まぁ、いい。取りあえず、俺がキラから離れなければいいだけのことだ」
 そうしている間に、ラウ達も来てくれるはずだからな……と彼が続けたときだ。
「明朝、作戦が行われるそうです。ですから、一週間以内にはこちらに来られるものと思います」
 別の意味でちょっと恐いが……とイザークは苦笑を浮かべる。何故そういったのか、理由が想像できるから、あえてつっこむところはやめておく。
「……問題は、それまでに何か起きないかどうか、だな」
 何か、嫌な予感がする。
 幸か不幸か、この手のカンだけは外れたことがないのだ。
「取りあえず、パトロールは強化していただいていますが……」
 それでも完璧ではない。境界線がない地球ではそれはしかたがないことなのだろうか。
「狙いがキラにしてもラクス・クラインにしても……誰かが側にいればいいだけのことだが……」
 アスランの動きが問題だ。彼だけがこの地で異分子であり、何をしでかすかわからない存在と言っていい。
 そう考えて、カナードが小さなため息を吐いたときだ。
「ピアノ?」
 柔らかな音がそっと心をなだめてくれる。
「レイだろう。キラが弾いてくれるようにねだっていたからな」
 これにラクス・クラインの歌があれば完璧か……とカナードは呟く。
「そうですね。そういえば、キラは楽器は?」
「一応、バイオリンを習わせていたぞ。もっとも、ここしばらくあれこれあって触れることもできなかったがな」
 レイと合奏させるチャンスだったのに……と少しだけ残念だ。
「……バイオリンですか……」
 エザリアに伝えておけば用意しておくだろうな、とイザークが呟く。その言葉に、まだそのチャンスがあるか、と思い直すカナードだった。

 ザフトはもちろん、地球軍にも悟られないように……と上陸場所を選んだはずだった。
「……どう見ても、あれは地球軍だよな?」
 それなのに、何故か目の前には一個中隊程度の軍が進行している。それが掲げているエンブレムは、ムウには見覚えがありすぎるものだった。
 しかも、だ。
 どう見てもMSと思える機影が確認できる。
「……ナチュラルでも運用可能なシステムを完成させたのでしょうか」
 同行していたトダカがこう問いかけてきた。
「でなければ……モルゲンレーテから持ち出したか、だな」
 おそらく、その可能性の方が高いだろう。ヘリオポリスでのことも、それで説明ができるのではないか。
「まさか……」
 信じられない、と言うようにトダカは呟く。
「五氏族家とはいえ、一枚岩ではない、と言うことだ」
 不本意だがな、とムウははき出す。
「カナードが作ってくれたシステムは俺にあわせてあるが……地球軍にも俺レベルのパイロットならまだいるしな」
 その豊富な人材が、ある意味地球軍の強みかもしれない。
 それでも、とムウは付け加える。
「あいつらがカナードのトラップに気付いているかどうか」
 気付いていなければこちらの勝ちだ。あれらの機体は完全な性能を引き出すことはむずかしいだろう。
 しかし、と以前小耳に挟んだ噂を思い出して言葉を口にしかける。しかし、それはあくまでも噂だ。確実な情報ではない、とすぐに思い直す。
「問題は、連中の目的地だな」
 バナディーヤであれば問題だ、と代わりに言葉を口にした。
「……そうだとするなら、目的は……」
「一番可能性があるのは、有名な砂漠の虎だが……現在、あそこにはカガリとキラもいるしな」
 そのどちらかを抑えられてもオーブとしては大きな痛手だ。それでなくても、あの二人のことだ。相手を助けようとして無理をするに決まっている。
「取りあえず、キサカ一佐か、でなければカナードに連絡を入れてくれ。俺たちは、あれを追尾する」
 万が一のことを考えれば、その方が打てる手が広がるから……と付け加えなくても彼にはわかったようだ。
「了解です」
 確かに、その方がいいだろう……と彼も考えたようだ。だらだら説明しなくても状況を自分で判断してくれる人間が側にいてくれるのは本当に楽だな、と心の中で呟いてしまう。
「それにしても……」
 いったい、何が狙いなのか。
 同時に、いったい誰があれの指揮官なのか。それだけでもわかれば、対処の方法もわかるのだが。そんなことを考えていた。