「キラ! アイシャさんが買い物に行きましょうって」 楽しげな表情でフレイが部屋の中に飛び込んできた。 「……買い物って……」 こんな時に、とそう思う。この前のこともあるから、あまり自分は出歩かない方がいいのではないか。そうも思うのだ。 もちろん、それが考えすぎだという可能性があることもわかっている。 「カナードさんが付いてきてくれるって言っていたわ」 後、カガリとレイも……とフレイはキラを安心させるように付け加えた。 「だから、いいでしょ?」 ね、と彼女はこう言ってくる。 「……兄さん達が行ってもいいって言うなら……」 行ってもいいのかな? とキラは口にした。取りあえず、バルトフェルド達にかける迷惑も最低限ですみそうだ。それならば、少しぐらい気分転換をしてもいいだろうか。 もっとも、別の意味で迷惑をかけそうで恐い、というのも事実だ。 どうしても、先日のことが脳裏から消えない。 「行きましょう! カナードさんがいるから大丈夫よ」 しかし、フレイの言葉も納得できる。それは、子供の頃からのすり込みのようなものではないだろうか。 「そうだね」 カナードがいるなら大丈夫。 だから、とキラが頷けばフレイはとても嬉しそうに微笑む。 「大好きよ、キラ!」 その表情のまま、彼女はしっかりとキラに抱きついてくる。 「フレイ!」 ひょっとして、彼女が一番、気分転換をしたかったのではないだろうか。だとするなら、申し訳ない。 あるいは、彼女をオーブに帰した方がいいのではないか。 それが可能かどうかわからないところが辛いというのは事実だ。漏れ聞こえてくる情報だけでも、情勢はさらに悪化しているように思える。オーブがまだ中立を保っていられるだけでもましかもしれない。 「そういうことだから、カガリさん達に声をかけてくるわね」 そんなことを考えていたキラの耳にフレイの声が届く。 「僕も行こうか?」 その方が早いような気がする。そう思って、言葉を口にした。 「そうね。そうしましょう」 言葉とともに、フレイがキラの腕に自分のそれを絡ませてくる。ヘリオポリスにいた頃はよく見かけられたその仕草も、最近はご無沙汰だったな、とキラが心の中で呟いたときだ。 「最近、御邪魔虫がいたから、なかなかできなかったわね」 御邪魔虫というのは、イザークのことだろうか。 「いろいろとあったからね」 だから、しかたがないよ……と微笑む。 「わかっているけど、ちょっと物足りなかったの!」 そういう彼女とともに、キラは歩き出した。 格納庫内がさらに慌ただしくなってくる。周囲にはきちんと武装までした屈強な者達が並んでいた。 そんな人々の群を器用にすり抜けながらディアッカが歩み寄ってくる。 「お姫様達は出かけたぞ」 そして、耳元でこう囁いてきた。 「そうか」 少しだけほっとしたような表情でイザークは頷く。これで、少しだけとはいえ余裕ができる。その間にアスランを隔離できれば、当面は安心だ。 「さっさと追い返させていただければいいのですが」 でなければ、ますますキラに負担をかけてしまう……とラクスも口を挟んでくる。 「いざとなれば、わたくしは一足先に本国に戻ります。そういえば、アスランも『否』と言えないでしょう」 自分を迎えに来るのが彼の口実でしょうから……と彼女はさらに言葉を重ねた。 「ラクス嬢……」 「ただ、わたくしとしては、この場で全てけりを付けてしまった方がよろしいかと思いますが」 でなければ、本国でもキラはゆっくりと過ごすことができないだろう。 何よりも、あちらでは《ザラ》の名にこびを売るものが多くいるのだ。そのためならば、何をしてもかまわいと考えているものもいる。それよりは、バルトフェルドによってきちんと統率が取れているこの場所のほうが、キラの身の安全という意味ではよいのではないか、と彼女は続ける。 「そうかもしれませんが……」 逆に言えば、ジュールの名を使えると言うことではないか、とも思う。 しかし、それではキラにストレスがかかってしまうかもしれない。そう考えれば、ラクスの言葉も一考の余地があるのではないか。 「何よりも、ここにはカガリさまがいらっしゃいますわ。それに、キラさまのお兄さまもこちらに向かっておいでなのでしょう?」 お一人はナチュラルだとお聞きしましたが、とラクスはさらに言葉を重ねてくる。 「そうだよな。あの二人のことを考えれば……ここで終わらせてしまう方がいいのか」 いずれ、ラウ達も追いかけてくるんだろうし……とディアッカが頷く。 「そうだな。その間、あれを隔離しておいて貰えばいいだけか」 口実ならば、いくらでも考えられる。 後は、バルトフェルドの判断次第だ、と言うことだが……彼はきっとキラの味方になってくれるだろう。 「……と言っているうちに、来たようだぜ、あいつが」 さて、どのようないいわけをしてくれるのか……ちょっと楽しみだな、とディアッカが嗤った。 「そうですわね」 本当に楽しみだ、とラクスも頷く。 「キラさまのことをどう切り出してくるのかも楽しみですわ」 「……キラは俺の婚約者だしな」 その事実を素直に受け入れてくれればいいが……と口にしながらも、それが不可能だろうと言うことも簡単に予想が付く。 後は、自分と彼との間の争いになるのか。しかし、今までとは違って、今回だけは意地でも負けるわけにはいかない。そう考えながら、イザークは顔を上げた。 |