思い切り嫌そうな表情を作ってディアッカが歩み寄ってくる。
「何かあったのか?」
 嫌な予感を覚えて、イザークはそう問いかけた。彼の言葉に、整備陣の一人と話をしていたカナードも視線を向けてくる。
「……アスランがとうとうやらかしてくれたらしいぞ」
 作戦直前に、無断でこちらに向かって発進したそうだ……とディアッカは苦虫を噛み潰したような表情で告げた。
「予想していた事態とはいえ、マジでやられると笑うしかないよな」
 っていうか、本当に単純だよな……とため息とともにはき出す。
「その情報は、誰から聞いた?」
「ニコル。バルトフェルド隊長にはクルーゼ隊長から連絡してくれているらしい」
 ミゲルは、あのバカの尻拭いの真っ最中だとさ……とさらに彼は付け加えてくる。
「あの腰抜け……本当に、あれがトップだったのか?」
 自分たちの中で、とイザークは吐き捨てた。
「外面はいいからな、あいつは」
 別の意味で言えば、今までよく我慢したと言えるのではないか。侮蔑の表情を隠さずにディアッカはこう告げる。
「確かにな。俺たちも騙されていたんだ。あまりあれこれ言えないが」
 ひょっとして、それに一番騙されていたのは《キラ》なのだろうか。
 ふっとそんな疑問がわき上がってくる。
「取りあえず、根回しだな。少なくとも、一対一であいつとキラを会わせるわけにはいかない」
 何をしでかすかわからないからな、とイザークは口にした。
「……キラが女だと知ったら、あのバカは何をしでかすかわからないからな」
 いったい、いつの間に近づいてきていたのだろう。声をかけられるまで気配を感じなかった、と思いながらも視線をカナードへと向ける。
「そうですね。あの腰抜けのことだ。キラが俺の婚約者だと聞けば逆ギレしかねない」
 あるいは、ラクスとのことをなかったことにして自分と……と言い出しかねないのではないか。そんなことはないと思いたいが、最近のアスランの言動を見ていればないとは言いきれない。
「……ラクス嬢にも協力を求めないとな」
 彼女に盾になって貰えば、少しでもましだろう。ディアッカはそう告げる。
「ラクス・クラインか。確かにな」
 それで時間を稼げれば、何とかなるかもしれない……とカナードも頷く。
「ザフトの作戦さえ終了すれば、ラウ兄さんが追いかけてきてくれるはずだ」
 ムウもこちらに向かっていると言っていたしな、と彼は続ける。
「あの二人が来てくだされば大丈夫でしょうが……でも、何故、ザフト……」
 こう呟いたとき、何か引っかかりを覚えてしまう。
 というよりも、どうして今までその可能性に気が付かなかったのか。そんな風にも思う。
「……まさか……」
 その気持ちのまま呟きを漏らしてしまう。
「何? どうかしたの?」
 ディアッカが即座に反応を返してくる。
「……クルーゼ隊長のフルネームを思い出したんだがな……」
 だとするなら、本気で恐い。血の雨を見ることになるのではないか……とイザークは呟く。
「隊長のフルネームって……ラウ・ル・クルーゼだろ……って、まさか!」
 マジ? 嘘だろう! と状況に気付いたらしいディアッカが叫ぶ。
「……と言うことは、試されていたのか、俺……」
 あれやこれやを観察されていたのか……とそうも呟いてしまう。
「単なる偶然だ。もっとも、部下にした後はわからないがな」
 そもそもの目的が目的だったから、とカナードがフォローするように口を開く。
「あちらの情報も欲しかったしな。何よりも、給料がいいからと言って笑っていたぞ」
 二人分の仕送りもしてくれていたしな、とカナードは軽く笑う。
「同じ理由で、地球軍にいた人もいるし」
 さらに爆弾発言を重ねてくれる。
「……もっとも、あちらは今頃、オーブ軍に合流しているはずだが」
 その原因があきれるが、と彼は付け加えた。もっとも、そのおかげで気付かれていないようだが……とも付け加える。
「どちらが先に来てくれるかはわからないが……合流してくれるまであれを止められれば何とかなるだろうな」
 ムウであれば、そのままオーブ軍に護衛を任せるという方法もある。カガリが一緒であれば十分可能だ、と彼は告げた。
「そうですね」
 彼女がオーブの姫だとは言われるまで気が付かなかったが、カナードもそういうのであれば真実なのだろう。そういって頷く。
「離れることは、少し不安ですが……アスランの側に置いておくよりもいいでしょう」
 アスランにはラクスと早々に本国に戻ってもらえれば一番いいのだが。そうも思う。
「しかし、この状況で余計なことをしてくれる」
 これが偽らざる本音だ。
「確かに、そうだな」
 作戦前に自分勝手な行動を取ってくれるとは……とディアッカも頷く。
「もっとも、そのおかげであいつを拘束できる口実ができているわけだけど、な」
 問題はバルトフェルドがどう判断するかだろう。できれば、キラの負担を考えて、早々にあれを隔離して欲しい。
「と言うわけで、俺はこれから休憩だから……ラクス嬢達に根回ししてくる。キラ本人には聞かれない方がいいんだよな?」
 ディアッカがこう問いかけてくる。
「そうだな。適当に頼む」
「……レイに告げれば、後はあいつが判断をするはずだ」
 イザークとカナード、それぞれが言葉を返す。
「了解」
 そのまま、彼はきびすを返した。
「……あいつに任せておけば大丈夫はとは思うが……」
 それにしても厄介なことになった。そう呟くしかないイザークだった。