「それは、オーブの新型かな?」
 カナードが運び込んだものを見て、バルトフェルドがこう問いかけてくる。
「正確に言えば違うな」
 整備の手を止めるとカナードはこう言葉を返す。そのまま、ハッチから地面へと飛び降りた。
「これは、俺のための機体だ。俺にあわせて設計してある」
 まぁ、ストライクの戦闘データーはありがたく活用させて貰っているがな、と付け加える。
「なるほど、ね」
 と言うことは、認証は生体データー? と彼は興味津々の様子で問いかけてきた。
「そんなところだ」
 自分以外は起動させることはおろか、ハッチを開けることも不可能だ……とカナードは笑う。
「もっとも……現在は、だ。これから、レイのデーターも登録する予定だからな。非常時にはあいつもハッチだけは開けられる」
 流石に、操縦はさせられないが……と微かに眉を寄せた。キラにいたっては、これに近づけさせることもしたくはない。
「うちの整備陣が確認してくれと言っていてね。どこのものであろうと、新型には興味を抱かずにはいられないんだよ」
「それはわかっている。しばらく観察させて貰って、信用できると思ったら整備の手伝いをしてもらうかもしれない」
 もっとも、その可能性は低いだろう。
 このような状況も想定して、チェックはオートでできるようにしてある。
 何よりも、それほど大きな損傷を受けるつもりはないのだ。
「口が堅いものを選んでおくよ」
 カナードが何を心配しているのか気付いたのだろうか。バルトフェルドは笑いながらこう言ってきた。
「それはありがたいな」
 もっとも、とカナードは表情を引き締める。
「盗撮を見つけたらその場から病院に直行してもらうかもしれないがな」
 これには二重の意味をかけておいた。
「もちろんだよ。きちんと部下にも言っておこう」
 嫁入り前のお嬢さん方に何かしたら、今度は無条件であの世行きだよ、とは言ってあるし……と彼は笑う。
「まぁ、今のところ、アイシャを側に付けてあるから大丈夫だとは思うがね」
 彼女が一番怒っていたから、おそらく天国には行けないだろうねぇ……と付け加える。その表情は間違いなく硝煙の中をくぐってきた人間だけが持つものだ。
「そこまで言ってくださるのでしたら、信用させていただきます」
 これから、一番、厄介な奴が来るはずだから……と心の中だけで付け加える。
「キラ君もそうだが、君もあちらにもっていかれるとまずいってことは忘れないようにね」
 レイは取りあえずキラの側にくっついているから大丈夫だろうが……とバルトフェルドはさりげなくとんでもないセリフを口にしてくれた。
「……貴様……」
「あぁ。そんなに警戒しない。俺が知っているのは本当に偶然だ」
 昔、成人する直前に一度だけメンデルに行ったことがある。その時に話を聞いただけだよ、と彼は笑う。
「俺とアイシャは、婚姻統制を無視しまくっている人間だからね」
 お互いがお互いを失えない存在だとわかっている。だから、子供は諦めているが、だからといって欲しくないわけではなのだ……と彼は意味ありげに笑った。
「俺たちのような人間にはね。ヒビキ博士夫妻の研究は、数少ない希望だったんだよな」
 何よりも、と彼は笑みをやさしいものにすり替えながら言葉を重ねる。
「あの子達を守りたいと思わない人間がいるかね?」
 キラはもちろん、フレイもだ。
 あの二人は自分たちにとって、ある意味、理想の関係だからね……と言われた意味はわかる。
 しかし、だ。
「あれはあれで、別の意味で問題だと思うが」
 はっきり言って、自分よりも彼女の方がキラの交友関係に強い影響を持っている。いわゆる《小姑》と言うものではないだろうか。
「まぁ、今のうちだけだろう。それに、彼は認められているようだからね。問題ないんじゃないかな?」
 少なくとも、キラが悩んでいるときに迎えに行かせる程度には……と言われて、カナードは小さなため息を吐く。
「まぁ、イザークはな。俺から見ても、キラを預けるのに取りあえず合格点を付けられる」
 問題はあれだ、と心の中で付け加えた。
 今は、まだ、ラウが抑えてくれているようだ。しかし、それもいつまで続くのか。
「問題は、付けられない奴もいると言うことだ」
 目の前の相手も、どこまで信用していいものかはわからない。だから取りあえず、こうだけ告げておく。
「それはしかたがないことだね」
 あの子は可愛いから、と彼はさらりとカナードの言葉を受け流した。
「そのせいかどうかは知らないが、地球軍の大艦隊がこちらに向かっているそうだよ」
 そして、彼はこう続ける。
「目的があの子なのか、それともラクスさまなのかわからないところが辛いけどね」
 もっとも、その方が現状では都合がいいことは事実だが。
 こう告げる彼の真意はどこにあるのだろう。
「どちらにしても、叩きつぶせばいいだけのことだ」
 遅かれ早かれ、兄たちもここに駆けつけてくるはず。自分だけではなく彼等もいてくれるのであれば、キラだけではなくラクスも守りきれるだろう。
「貴様達も、当面はあてにできるだろうしな」
 言外に協力はするがなれ合うつもりはない。そういっても、バルトフェルドは笑みを消さない。
「十分だよ、それで」
 目的は同じだしね。こう言いきる彼に、喰えない奴というラベルをカナードは貼り付けた。