何故、と呟いている声が耳に届く。 「あれに、ラクスさまが乗り込んでおられたと言うことは、おそらく第八艦隊から連絡されたのでしょう」 今まで動かなかったのは、おそらく戦力をかき集めるために時間がかかったのではないか。情報部員がこう告げる。 「彼の地にはバルトフェルド隊長がいる。すぐにあの方に危険が及ぶとは思えない」 それよりも、たどり着く前に撃墜をした方がいいのではないか。こう告げたのは、確かモラシムだ。 「そうだな。砂漠の虎がいる以上、そう簡単にラクスさまをお渡しするはずがないか」 と他の隊長も頷いている。 「それでも、少しでも敵の戦力を削いでおく方がよろしいのではないか?」 クルーゼが冷静な口調で彼等の会話に割り込んだ。 「まぁ……それはそうだが……」 どこか憮然としたような口調でモラシムが言葉を返してくる。どうやら、よそ者であるラウが口を挟んでくるのが気に入らないようだ。 「それとも、我々があなた方を無視してバナディーヤに行ってよろしいのか?」 自分の部下の一人はラクスの婚約者だ。 そして、本国からラクスを無事に連れ帰るように命令されている。 ジブラルタルの意向を無視してあちらに押しかけていっても、誰にも文句を言われるはずはないのだ。それでも、今目の前にいる者達の心情を汲んで取りあえずこの場に留まっている。 それは不必要なことだったのか、と目の前の者達に問いかけた。 「……それは……」 言葉に詰まったのはこの基地の司令官だ。 「必要であれば、本国から直接命令をしていただいても構わないのだが?」 いや。今でもせっつかれていると言っていい。それを止めているのは、もちろんラウだ。それを司令官もわかっているのだろう。視線を彷徨わせている。 「そちらにはそちらの事情があるように、こちらにもこちらの事情がある。その妥協点を探ろうとする努力を『よそ者だから』という言葉で無駄にされるおつもりなら、こちらも勝手にさせていただくまで」 言葉とともにラウは腰を浮かせる。 「待ちたまえ!」 慌てたように司令官が制止の言葉を口にした。 「……確かに、我々の態度が大人げなかった」 モラシムがその後に続く。もちろんそれが渋々だと言うことは、彼の表情からしっかりと伝わってきていた。 「わかっていただければ、それで構いません」 そのくらいどうでもいい。 大切なのはキラの安全だけだ。 心の中でそう呟いていたことに、誰も気付いていないだろう。そんなことを考えながら、クルーゼはまたイスに座り直した。 地球に来てから、こうして朝日が昇る光景を見つめているのが好きになった。これと夕焼けは、プラントのそれと迫力が違う。 だから、いつもはそれに意識を奪われてしまうのだ。 でも、今日は違う。 『すまん! あいつに話してしまった』 カガリのこの言葉がどうしても脳裏から離れない。 しかし、そう告げる彼女の背後にカナードもいた、と言うことは、彼も認めたことなのだろう。 「兄さんが、僕のためにならないことをするはずがない……」 それだけは信じられる。 しかし、あの事実を知らされたイザークがどう思うかはわからないのだ。 「……僕、イザークのお嫁さんになることが夢だったんだけど……」 ひょっとしたら、無理なのだろうか。 いや、最初から望んではいけなかったのかもしれない。自分のように人の手で作られた《化け物》が人並みの幸せを望んでは……とそう心の中で呟いたときだ。 「心配するな。俺もキラを嫁に貰うために頑張っていたんだから」 今更撤回をするつもりはない。 こう言いながら、そうっとキラの方へと手を伸ばしてくる。その様子は、キラに拒まれたらどうしよう、と不安を覚えているようでもある。 「……でも……」 不安なのは自分も同じだ。 「生まれなど関係ない。キラはキラだろうが」 自分にとって必要なのは、目の前のキラだ! と口にする。 「もし、俺がお前の立場だったら、それだけできらいになるのか?」 さらにこう問いかけられた。反射的に、キラは首を横に振る。 「そういうことだ。だから、何も心配するな」 不安を感じたら、構わずにすがってこい。言葉とともに彼はキラの体をそうっと自分の腕の中に閉じ込める。 触れあった箇所から伝わってくる温もりで、自分の体がどれだけ冷え切っていたのか、キラは自覚をした。 「まったく……風邪をひいたらどうするつもりなんだ?」 本当に、と微かな苦笑が耳に届く。 「ごめんなさい」 こう言いながらも、彼の胸にキラは頬を押しつける。 「謝るなら、俺じゃなくあいつらにするんだな」 キラがいないと、遠慮なく人をたたき起こしに来てくれたぞ……とさらに苦笑を深めながら彼が告げた。その言葉に、そうっと顔を上げれば、ドアの所からこちらを見つめているフレイとレイ、そしてディアッカの姿が確認できる。 心配させてしまった、と言うことよりも、今の光景を見られた、と言うことの方が恥ずかしくてたまらない。 反射的に、キラはイザークの胸へと顔を埋めていた。 |