カナードの視線の中に自分を値踏みするような意味合いが含まれていることに、イザークは気付いていた。 同時に、彼に認められなければキラの側にいられないだろう、と言うことも想像が付く。 「……兄さん?」 どうかしたの? とキラは彼に問いかけていた。彼女にはどうしてそんなことをするのか理解できないらしい。だが、それはキラが《キラ》だから、だ。当然のことだろう、と思う。 「ずいぶんとでかくなったものだ。そう思っただけだよ、キラ」 最初に出逢ったころは、自分でも抱えて歩ける程度だったのに……と彼は口にする。 しかし、その『抱えて歩く』目的が、実は自分をキラから遠いところに移動させるためだったとは、この場ではカナード以外知らないのではないか。 もちろん、自分にしてもそれを他の誰かに知らせるつもりはない。 「まぁ……これなら、キラを守る盾にはなるだろうな」 実戦経験も積んだようだしな……と、どこか自嘲気味に笑ったのは、きっと、ヘリオポリスのことがあったからだろう。 「……それに関しては……」 「気にするな。取りあえず、不幸な事故、と言うことにして置いてやる」 少なくとも、自分たちがあの場にいたと知らなかったのだろう? と言う問いかけには、小さく頷いてみせる。 「こちらにとっても有利なことがないわけではない。特に、あれに会わせる前にお前がキラを保護してくれたからな」 自分にとってはそれは当然の行為だ。 だが、カナードの態度から判断をして、自分たちが知らないところで何かがあったのかもしれない。そう思う。 「……取りあえず、お茶、飲む?」 この雰囲気に耐えられなくなったのか。 それとも、カナードの態度に何かを感じ取ったのか。 キラがこう提案をしてきた。 「そうだな……久々に、キラのお茶を飲むか」 しばらく、そんなこともできなかったしな……とカナードは笑う。 「みんなも飲むでしょ?」 そのまま、キラは周囲に視線を流す。 「もちろんだ」 即座に言葉を返したのは、自分でもカナードでもない。カガリだ。しかも、ものすごく偉そうだ。もっとも、このセリフを口にすれば、ディアッカあたりにつっこまれるだろうな、という自覚はイザークにもあったが。 「なら、手伝います」 レイが言葉とともに立ち上がる。 「なら、あたしも!」 負けじとフレイも立ち上がった。 「なら、ついでに何か小腹を満たすものも用意してくれ」 カナードが不意にこんなセリフを口にする。 「厨房の人と話をしてみますね」 あるいはこれが普通のことだったのか。キラはなんでもないことのように言葉を返している。 「なら、私の分も」 一瞬、カナードへと視線を向けた後でカガリもこういった。あるいは、わざとそういっているのかもしれない。 「ディアッカに声をかけていけ。あいつの分も用意すると言えば、喜んで厨房と交渉してくれるはずだ」 きっと、それは自分に話したいことがあるからだろう。それも、できればキラには聞かせたくないことではないか。そう判断をして、こう告げた。 「わかった。ディアッカさんに声をかけてみるね」 部屋かな? とキラが見上げてくる。 「多分な。俺がそういっていたと言えば、あいつにはわかるはずだ」 事情も察してくれるだろう。きっと、うまく立ち回ってくれるはずだ。その程度は信頼している。 「うん」 そうするね、とキラは微笑むときびすを返す。そのまま部屋を出て行く彼女の後を、当然のようにフレイとレイが追いかけていく。 三人の姿が確実に遠ざかったのを確認してから、イザークはドアを閉めた。 「それで……俺に何の話でしょうか」 そのままこう問いかける。 「なるほど……」 にやりとカナードが笑う。 「アスランよりはかなりましだな」 しかし、これはどういうことなのか。というよりも、いったい何をやったのだろう、彼は。何かものすごく気になる。 「あいつは、キラ達が地球に落ちる前に何とかしようとした俺を、さんざん邪魔してくれたぞ」 確か、あの時、脱出ポッドの中にいたうちの一人は、あいつの婚約者だったのではないか? とカナードは問いかけてくる。 「そうですか」 顔を見たら、即座にぶん殴ってやろう。イザークは心の中でそう決意をする。 「殴るときには、付き合わせろ」 彼の表情から考えていることを読み取ったのか。カガリがこう言ってきた。 「そういう状況だったとは、私も初めて知ったからな」 「俺も、だ」 それにイザークも言葉を返す。 「あそこは戦場だったからな。カナードさんが来ないのは、きっと誰かに邪魔をされているからだろうとは思っていたが……相手がアスランだったとはな」 何を考えているのか。 キラとラクス。意味は違えども、どちらも失ってはいけない。それはアスランも同じはずなのだ。 「しかも、最後は逆ギレもかましてくれたからな」 あいつの評価は最低まで落ちただろうな……とカナードは笑う。 「本気で排除、させて貰おう」 この言葉には同意をする。 しかし、それだけではないだろう。 「……その前に、お前の覚悟を確認させて貰おうか」 キラの秘密を聞いても、今と同じ感情を抱いていられるかどうか。その言葉にイザークは彼をにらみ返した。 |