ウズミから呼び出しがあったのは、もうじきアークエンジェルの修理が完了するという時期だった。
「……何か、あったな……」
 その事実に、フラガはそう判断をする。
「フラガ大尉」
 同じように判断をしたのだろうか。ラミアスがこう問いかけてきた。
「まぁ……なるようにしかならないんじゃねぇ?」
 ウズミであれば、自分たちに悪いようにはしないと思う。だが、迂闊にそれを口にすることはできない。
「そう、ですね……」
 堅い口調で彼女も言い返してくる。
「できれば、みなに不利な状況だけは作らなくてすめばいいのですが……」
 さらに付け加えられた言葉は、彼女の人柄を如実に表していた。そういうところが、実は気に入っている。
 でも、とそっと心の中だけで付け加えた。
 それでも、自分にとっての一番は《キラ》なのだ。
 彼女を優先してもいいと言ってくれるならば、申し分のない相手なんだけどなぁ、というのはものすごく自分勝手な考えだろうか。
 それに、とさりげなく視線を移動させる。
 相変わらず能面のような無表情さを作ったバジルールがラミアスを挟んで自分とは反対側を歩いていた。
 彼女がウズミの前で爆弾を破裂させないといいのだが。
 しかし、それは無理だろう。事前に、ウズミには忠告をしておいたから、きっと彼が適当にあしらってくれるとは思う。
 何よりも、とため息とともにはき出す。
 既にカナードはこの国にいないはず。
 彼の実力を考えれば、彼女だけではなく地球軍が本気で捕まえようとしても無理だ。その気になれば、一個小隊ぐらい一人で片づけられるだけの実力を彼は持っている。
 本当、アークエンジェルの中でその実力を発揮しないでくれてよかったよ……と今更ながらに考えてしまう。もっとも、そのためのストッパーがあったからだろう。それがなければ、最悪、自分も無傷ではすまなかったはず。
 でも、彼なりに大人になったよな……と妙な感慨にふけってしまう。昔であれば、キラの友人達が側にいようと爆発していたはずなのだ。
 そんなことを考えている間にウズミの執務室の前に着いた。
 流石のバジルールも一国の国家元首――というのとは微妙に違うのかもしれないが――に会うとなれば、それなりに態度をたださなければならない、と思っているのか。さりげなく自分の服装を確認している。
 それでも、地球軍第一の彼女が何を言い出すかが恐い。ついでに、何を言われるかもわからないからな……と心の中で付け加えた。
「失礼します」
 ノックとともにこう声をかける。
「どうぞ」
 すぐに中から落ち着いた声が届いた。

 街の明かりがあるからだろうか。
 それでも、オーブ本土で見るよりも多くの星が天上にはある。
「……地上だと、星が瞬くんだよね」
 しかも、昼間はどうしても見ることができない。ずっと、そこにあるのが普通だった光景が地球上では違うのだ、と改めて認識させられる。
 そんなことを考えていたときだ。
「風邪をひくぞ」
 言葉とともに肌触りのいい布がキラの肩にかけられた。
「イザーク」
 どうして、とキラは思う。それでも、彼の顔を見れば自然と微笑みが浮かんでくる。
「あいつらが、お前がここにいると教えてくれたからな」
 そんなキラに向かって微笑み返しながら、彼はこう言ってきた。
「いい加減、迎えに行かないと風邪をひく……と心配していたぞ」
 砂漠は、昼間は暑いが逆に夜は身震いするほど寒い。それになれていない以上、体調を崩してもしかたがないだろう。彼はそうも付け加える。
「うん……わかっているんだけど……」
 でも、星が瞬いているのがとても綺麗だから……と自分でも理由になっているのかいないのかわからない言葉を口にしてしまった。
「それに関しては……否定できないがな」
 確かに綺麗だ、と頷いてくれる。
「また、砂漠に星を見に行くか?」
 今度は二人だけで……と少し照れたような口調で彼は言葉を重ねてきた。
「そうだね」
 確かに、再会してから二人だけになれていないな……とそんなことを考えてしまう。だからといってどうこうするわけにはいかないと思うが、それでも二人だけで放したいこともたくさんある。
 だから、その誘いは嬉しい。
「でも、大丈夫なの?」
 忙しいのではないか、と言外に付け加えながらキラは彼を見つめた。
「……多少の無理は覚悟の上だ」
 それよりも、野次馬がいない環境を作る方が重要だ……と彼は力強い口調で告げる。その言葉の裏に何か苦労があるように感じられるのは、キラの錯覚ではないだろう。
「……カガリ達が、何かした?」
 だから、おそるおそるこう問いかけてしまった。
「気にするな」
 と言うことは、やっぱり何かをしたのか……とキラはため息を吐く。
「……ごめんね」
 そのまま、無意識にこう呟いてしまう。
「お前を取られると思っているんだろう。しかたがないことだ」
 何よりも『昔の三人の攻撃に比べれば、まだまだ甘い』と言われて、反応を返すことができなかった。
「それよりも中に入ろう。ディアッカがお茶を用意しているといっていたからな」
 暖まろう、と彼は微笑みながら手を差し出してくる。
「うん」
 小さく頷きながら、キラはその手に自分のそれを重ねた。