食堂に行ってみれば、そこにはアイシャだけではなくバルトフェルドとカガリもいた。
「よろしいんですか?」
 カガリはともかく、バルトフェルドは忙しいのではないか。そう思いながらキラが問いかける。
「君達までそういうのとは……少しぐらい気分転換をしても構わないのではないかね?」
 その瞬間、大げさな口調で彼はこう言い返してきた。
「……こういうことなの。悪いけど、参加させて上げてくれるかしら」
 苦笑とともにアイシャが彼の後に続けて言葉を口にする。
「今、忙しい彼には申し訳ないんだけど」
 美人に囲まれてささくれ立った精神を癒やすぐらいは許されるだろう? とバルトフェルドは笑う。
「……美人って、レイも含まれるのか?」
 確かに、レイは美人と言えるかもしれないが……とカガリが真顔で首をひねっている。
「美人だろう? キラ君を隣に置いておけばイザーク君も十分観賞の対象になるのだがね」
 棘が取れて、と言って笑う彼からは、やはり年長者としての余裕と実力に裏付けられた自信が感じられる。そんな彼だからこそ、信頼して付いてきているものもいるのではないだろうか。
「アンディ。それ以上はセクハラよ」
 しかし、それ以上に強かったのは、にっこりと微笑んだアイシャかもしれない。
「いいだろう。触れられない花でも眼福には違いない」
 それが活力につながるのだから、多少のことは目をつぶって欲しいね……と言い返すのは、男としての矜持があるからだろうか。それとも、隊長だから、か。
 キラがそんなことを考えていたときだ。
「隊長……口でアイシャ様に勝とうなんて無理ですよ!」
「それよりも、せめて俺たちにも眼福を味わう機会をください!」
「バカは、もう出しませんから」
 周囲からこんな声が上がる。
「当たり前でしょ。次に出たバカは、ワタシが直々に砂漠に埋めてあげるから」
 この一言だけで周囲を黙らせるアイシャが、実は最強なのかもしれない。お願いだからそれを真似しないでね、とカガリに向かって言いたくなったのは事実だ。
「ともかく、座らないか?」
 そんなキラの気持ちに気付いているのか、いないのか。
 カガリがにこやかな口調でこう言ってくる。
「そうそう。あぁ、悪いと思ったけど、勝手に頼んだわ」
 というよりも、厨房の連中が張り切っちゃったの……とアイシャが続けた。
「……それは、構いませんけど……」
 でも、食べられないものが出てこなければいいな……とキラはこっそりと呟く。
「大丈夫だ、キラ」
 いざとなったら、ちゃんと食べてやる……とカガリが脇から口を挟んでくる。
「あぁ、そうだ。キサカから連絡があった。お前達に教えてやれ、と言われていたんだ」
 当然のように自分の隣にキラを座らせたカガリがこう言って微笑む。
「何?」
 それにキラは不安を感じながらも聞き返す。
「心配するな。フレイ以外のお前の友達が、無事に家族と再会したそうだ」
 後のことはお父様が任せておけ、と言っていた……とカガリが微笑む。
「……よかった……」
 キラは小さなため息とともにこう告げる。
「カナードさんがいるから大丈夫だとは思っていたけど、教えてもらえれば、安心できるわね」
 フレイも安心したようにこう呟いた。
「よかったですわね、お二人とも」
 ラクスにしても、彼等とは面識がある。決して良好な関係ばかりだったとは言い切れないが、それでもこう言ってくれるところに彼女の強さがあると思う。
「うん」
 それでも、嬉しいのは事実だから……とキラは素直に頷いてみせた。
「と言うことは……あちらで何も起きていなければ、カナード兄さんがこちらに来ると言うことですよね」
 ならば、キラの護衛に関してはかなり楽になるだろう。もっとも、イザークにとっては不幸かもしれないが……とレイが微苦笑を浮かべる。
「まぁ、それはそうだな」
 取りあえずの合格点は出ているだろうが、まだまだ不満が出てくるだろうしな……とカガリも頷く。
「レイ……それにカガリも、何を言っているの?」
 イザークに不満が出てくるって、とキラは訳がわからない。
「事前にバカに気付かなかったんだ。カナードさんなら、気配だけでわかっていたと思うぞ」
 視線と何かで、とカガリは言い切る。
「十分あり得るわね」
 それにフレイも同意を示す。
「何よりも、あいつが忙しくても、外出できるようになるわ。それが一番じゃない?」
 言外に、レイでは不安だ……と彼女は付け加える。しかし、それに本人は苦笑を浮かべるだけにとどめている。と言うことは、自覚しているのだろうか。
「……確かに、買いのがしたものも多いものね」
 それでも、仕事で忙しいイザーク達に迷惑をかけなくてすむというのは気分的に楽だ。それは事実だ。
「来たら、キサカが拾ってくるだろう」
 久々に実際に会えるのは自分も楽しみだ。カガリも頷く。
「と言うところで食事が来たぞ」
 腹ごしらえは何よりも重要だ……と言うのは彼女らしい。
「確かに。しかし……これはかなり頑張ったな」
 普段からこの程度ぐらい作ってくれればいいのに、とバルトフェルドが呟く。
「何言っているの。普段、食事は味よりも量と栄養価だ、っていっているのは貴方でしょ」
 自業自得よ、とアイシャが笑う。
「……軍人なんて、因果なものだよ」
 それにこう言い返す彼に、キラは兄たちもそう考えているのだろうかと考える。だから、後で聞いてみよう、とも思っていた。