バルトフェルドのお誘いは、もちろんイザーク達にも伝えられていた。
 同時に、もう一つ気にかかる情報も、だ。
「……アスランが来る?」
 ディアッカが口にした内容に、イザークは思いきり渋面を作る。
 いや、彼だけではない。側で話を聞いていたカガリもだ。
「アスラン、というと……アスラン・ザラか?」
 確認のためか、こう問いかけてくる。
「……兄さん達の言う要注意人物ですね」
 レイにここまできっぱりと言い切らせるとは、アスランはキラにいったい何をしたのか……と思う。
「ひょっとして……あれか? カナードさんに対抗しようとして、無意識にキラをいじめていた奴って」
 その疑問をあっさりとカガリが解消してくれる。
 もっとも、その結果、今までとは違った意味で怒りがわいてくるが。
「……いったい、何をしているんだ、あいつは……」
 人の婚約者に、と思わず呟いてしまう。
「いくらキラが、周囲の目をごまかすために《男》の恰好をしていたにしても、な」
 ついでにIDも書き換えていたそうだが、とカガリはさらに言葉を重ねている。それで、自分が彼女たちを見失った理由も理解できた。
 しかし、どうしてそこまでしなければいけなかったのか。
 自分の記憶の中にいるキラの兄たちはひょっとしたら今の自分よりも強かったのではないか。そう思わせる実力の持ち主だった。そんな彼等が側にいてもキラの性別を偽らなければ逃げ切れない相手など、すぐには思いつかない。
「それに……姉さんはあのころ、まだ……とこの話はやめておきましょう」
 何かを口にしかけてレイはいきなり言葉を飲み込む。
「レイ?」
 今、彼は重要なことを口にしかけなかったか。
 その思いのまま、イザークは彼に呼びかける。
「いくら好きな人でも、自分が知らないところであれこれ知られているのはいやではありませんか?」
 おそらく、二人きりであればキラの口から直接教えてもらえると思う。イザークが相手であれば、と口にされた言葉の中に別の意味が滲んでいるような気がするのは錯覚ではないはずだ。
 考えてみれば、彼の記憶の中に自分とキラが婚約することになった経緯が残っていないとしても当然だ。だから、今、自分のことを見定めようとしているのかもしれない。
「そうさせてもらう。だが、アスランのことは聞いておきたい」
 それこそ、キラには聞かせたくないことなのだろう? と逆に聞き返す。
「賛成。事情が事情であれば、他の連中に根回しもしておくしな」
 あれと一緒にうちの隊の連中も来るから、とディアッカが口を挟んでくる。
「なんでだ?」
 別に、ここは重要拠点というわけではないのだろう? とカガリが首をかしげた。
「何でも……ブルーコスモスの連中が妙に集まっているらしい、って話だぜ」
 だから、バルトフェルド隊長が増援を頼んだら、ついでとばかりに残りのメンバーが来ることになったらしい。そういってディアッカは笑う。
「……なんなんだか」
 あきれたくなるカガリの気持ちもわからなくはない。
「立場、と言う点ではうちの隊のメンバーかラクス嬢でなければアスランに勝てないからな」
 同じ最高評議会議員の子弟達が何故かそろっているかのだ、と苦笑とともにイザークは告げる。
「そういうことか」
 どこかのバカ息子と同じだな、とカガリがあきれたように口にした。
「大丈夫だって。少なくともイザークと俺は無条件でキラの味方だし、お前さん達もいるだろう?」
 キラにあいつを近づけさせないように努力するだけだ……とディアッカが言い返す。
「そうですね……でなければ、姉さんが《女》だと知った瞬間、あいつが何をしてくれるか、わかったものじゃないですから」
 最悪、キラをさらって逃げかねない……とレイは言い切る。
「俺自身は実際に見たことはありませんが……カナード兄さんの言葉であれば、それだけあの男は姉さんに執着してきたそうです」
 男であるから《親友》という地位で満足していたのかもしれないが、とレイが吐き捨てる。
「要するに、害虫認定してもいいということか」
 何をしたのか、詳しいことはわからないが、取りあえず、叩きつぶすしかないわけだ……とカガリが言い切った。
「まぁ、そいつらではむずかしいことも、私ならできるだろうしな」
 小さな笑いとともに彼女が付け加える。
「……お願いですから、無茶はしないでくださいね」
 でなければ、自分がカナード達に怒られる……とレイがため息を吐く。
「キラを守るためだ。彼等は何も言わないだろうな」
 確かに、そうだろうな……とはイザークも思う。
「その前に、俺とキラの婚約を発表してしまうか」
 そうすれば、アスランでも迂闊に手出しはできない。他人の婚約者に手出しをすることはプラントの法律で禁止されているのだ。
「……忌々しい婚姻統制だが、こう言うときには役に立つか」
 もっとも、そのためにはプラント本国と早急に連絡を取らなければいけないが……とイザークは眉を寄せる。
「オーブの父にもな」
 しかし……とカガリが言葉を重ねようとした。
「いや、いい。取りあえず、キサカを呼び寄せないといけないか。そのためには、バルトフェルド隊長の許可を取らないな」
 こう言うときに、自分の立場は厄介かもしれない。カガリは微かに眉間にしわを寄せながらこう告げる。
「それもこれも、全てバカどもが悪いんだ!」
「カガリさん」
 一人はアスランだろう。では、もう一人は誰なのか。
「それに関しては協力をしよう」
 取りあえず、アスランが来る前に全ての準備を整えておかなければいけないだろう。そう判断をしてイザークはそう告げた。