キラの付き添いをフレイに任せ、イザーク達は場所を移動した。
「……だから、キラは私の従姉妹だ! ならば、オーブに連れて行くのが当然だろう」
 カガリは自分の主張だけを何度も口にしている。
 そんな彼女の頑なさに、実はこの女はバカではないのか……とディアッカは心の中で呟いてしまう。
 身内としてキラを手元に置きたい、という気持ちはわからなくもない。
 だが、と彼はそっと付け加える。
 キラの身の安全を守るという点ではどうなのか。ただでさえ、キラの存在は地球軍に知られている。その才能を手にしようと連中が動いたらどうする気なのか。
 言っては悪いが、オーブの方が危険が多い。
 彼女が何者かは知らないが、首長家の中にも地球軍に協力をしているものがいる。そのような者達からイザークのお姫様を守りきれるとは思えないのだ。
「……そして、キラを地球軍に奪われると?」
 同じ判断を下していたのだろう。イザークが淡々とした口調でこう問いかけている。
「そんなことはさせない!」
 きっぱりとした口調でカガリは言い切った。
「どこのバカであろうと……私が側にいる限り、キラには手出しをさせない」
 この自身は、いったいどこから出てくるのだろうか。過信をしていてはそれこそキラを失う結果になりかないのに、と思う。
「それでも……ヘリオポリスでは地球軍の開発が行われていた」
 しかも、モルゲンレーテの工場でだ……とイザークが言い返す。そのようなところにまで影響力を持っている地球軍から、どうやってキラを守るのか、と言外に付け加えている。
「……元はと言えば、お前達がヘリオポリスを破壊しなければ、キラはこんな目に遭わずにすんだんだぞ」
 やっぱりそう言い返してきたか。イザークとは違った意味でわかりやすい奴……とディアッカは心の中で呟いた。
「ザフトがヘリオポリスに侵入したことに関してはいくらでも非難を受ける」
 だが、とイザークはカガリを見つめる。
「ヘリオポリスを崩壊させたのは俺たちじゃない」
 こちらもまたきっぱりとした口調で告げた。
「何を!」
 即座にかなりが怒鳴り返してくる。と言うことは、彼女も自分たちの攻撃が直接の原因だと信じていたと言うことか。
「プラントのメインシャフトを破壊するには、戦艦の主砲クラスの直撃か自爆させるしかない」
 バスターなら可能だったかもしれないが、自分たちはその作戦に参加をしていなかった。そして、自分たちの母艦もヘリオポリスに近づいてはいない。
 そう考えれば、答えは必然的に出てくるのではないか。
「……地球軍か、オーブの関係者がヘリオポリスを破壊したと?」
 今までとは微妙に口調を変えてカガリが問いかけてきた。
「表沙汰になるとまずいことがたくさんあっただろうからな」
 全てを消去するには一番確実な方法だ……とイザークは口にする。
「否定できませんわね」
 ラクスが静かに頷いてみせた。
「あるいは……ご本人達に気付かれないところでキラ様をはじめとした方々が協力をさせられていた可能性もありますわ」
 そのような事実が表に出たら、プラントだけではなくオーブ国内からも非難の声が上がるだろう。それでは都合が悪い人間もオーブの上層部にいるのではないか。
 ラクスのこの推測はディアッカ達が考えていたものと同じだ。
 でも、どうして彼女はそのような結論に達したのだろう。
「キラ様とフレイ様のお言葉からすれば、あの方々は最初からキラ様を目的に押しかけてこられたそうです」
 連中の目的がキラだったのかカナードだったのかはわからない。あるいは、その両方だったという可能性もあるだろう。
 しかし、一体どこで彼等はその情報を手に入れたのだろうか。
 ラクスのこの言葉にカガリは目を丸くする。
「確かに、な。カナードさんはともかく、キラは一度も表に出たことがない」
 それなのに彼女を名指ししてきたとするのであれば、考えられる可能性はいくつもないな……と彼女は呟く。
「オーブにいれば、それも確認できるのだが……」
 ここでは無理か、とカガリは考え込む。
「だからといって、キラをオーブに連れ帰ることは許可できないぞ」
 不確定要素が多すぎる。万が一の可能性がある以上、キラは自分の側に置く。状況が状況ならば、プラントへ向かわせることも選択肢の中に入れておかなければいけないだろう、とイザークは口にした。
「それにはわたくしも賛成をいたしますわ」
 少なくとも、それであれば自分が戻るときに同行させることも可能だろう。そうすれば、ザフトから出される護衛の数も増えるはずだ……とラクスが続ける。
「彼の地であれば、ブルーコスモスも迂闊に動けません」
 少なくともオーブよりはましだろう。その言葉にイザークも頷いていた。
「必要であれば、貴方もご一緒してくださればよろしいでしょう。レイ・ザ・バレル様」
 レイをフルネームで口にしたと言うことは、彼女は彼と顔見知りなのだろうか。
「……ラクス嬢?」
 ご存じなのですか、とイザークはストレートに問いかけている。そういうところは本当に彼らしい。
「レイ?」
 そして、カガリの方も驚いたように彼を見つめた。
「……ご存じでしたか」
 直接お会いしたことはありませんでしたが、とレイがラクスに問いかけている。
「それでも、何度かお見かけしたことがありますわ」
 誰かと問いかければ答えを返してくれるものは自分の側には多くいるから……と彼女は微笑む。
「デュランダル様でしたら、キラ様をお預けしても大丈夫だ、と思いますが?」
 もっとも、それを決めるのは自分ではない。
 何よりもキラがどう考えているのか。それを聞かないわけにはいかないだろう。その言葉は正論だ。
「……キラが落ち着くまで、一時休戦と行くか」
 それまでにあれこれ情報が入ってくるかもしれないから。ディアッカがこう言えば、イザークもカガリも、渋々ながら頷いてみせた。