闖入者が飛び込んできたことで、相手にも混乱を与えたのだろうか。 一瞬、攻撃の手がゆるむ。 それを見逃すイザーク達ではない。 同時に、ようやく駆けつけてくれたバルトフェルドの部下達が事態を収拾してくれた。 「……取りあえず、お前達は先に帰っていろ」 周囲の様子を見回しながら、バルトフェルドがこう言ってくる。 「ですが」 即座にイザークが不満を漏らす。それはきっと、彼がきまじめだからだろう。 「こういうことにはなれているからな。それよりも、彼女の方が優先だろう?」 少しでも早くこの場から離した方がいい……口にしながらバルトフェルドはキラに視線を向けてくる。 「顔色が悪い。取りあえず、ゆっくりと休んだ方がいいだろうね」 必要ならば、カウンセラーも手配するが……と言ってくる彼に、キラは申し訳ないとすら感じてしまう。 「その必要はない!」 だが、そんな彼の言葉を否定する声が周囲に響く。 「キラは私たちが連れて帰る」 言葉とともに少女にしては少々筋肉が付いている腕がキラの体に巻き付いてくる。そして、自分の方へと引き寄せようとした。 「人の婚約者に何をする!」 だが、それよりも早くイザークの腕がキラを自分の胸へと抱き込んだ。それに安堵を感じてしまう自分は少しおかしいのだろうか、とキラは少し悩む。 「キラは私の従姉妹だ! ついでに、ここにはキラの弟もいるぞ」 身内が身内を連れて帰って何が悪い! と即座に反論が帰ってくる。 「……弟?」 そんなのいたの? とフレイが問いかけてきた。そういえば彼はラウとともに早々にプラントに渡ったから、彼女は知らないのだと思い当たる。 「うん……彼は、プラントの知り合いに引き取られたから……」 だから、なかなか会えなかったんだけど……とキラは彼女に説明をした。 「レイ、か。赤ん坊のころの姿しか知らないから、一瞬誰かわからなかったな」 イザークにはそれだけでわかったようだ。視線をそちらに移しながらこう呟いている。 「だが、キラの従姉妹というのは知らなかったな」 彼女の体を抱きしめる腕を強めながら彼はさらにこう告げた。 「貴様! キラから離れろ!!」 私はキラの婚約者の存在なんか、認めていない! と叫ぶ。 「……カガリ……」 そんなことを言われても困る、とキラは口にする。自分はずっと、イザークと結婚するんだと思っていたのだ。カナード達もそれを認めてくれているのに、どうして反対するのか、とも付け加えた。 「私がそいつの存在を知らないからだ!」 何か、どこかで聞いたようなセリフだと思うのは錯覚か。 「カガリさん……それについては、もう十年以上前に決まったことです」 納得していないのは自分も同じだが、とレイはさりげなく付け加えている。 「それでも、イザーク・ジュールに関しては悪い噂を聞いていません。取りあえず、姉さんが彼の側にいたいというのであれば傍観しておくべきでしょう」 いずれカナードが合流してくるに決まっているから……と言うことには反論できない。 「だけど、私が気に入らない!」 それが本音か、と思ったのはキラだけではないだろう。 「……貴様が気に入ろうと気に入らなかろうと、キラがそう思ってくれていればそれだけで十分だ」 キラの気持ちがわかっている以上、いざとなったらさらっていく。イザークはそうも言い切る。 この言葉が嬉しいと思ってはいけないのだろうか。ふっとそんなことをキラは考えてしまった。 「貴様!」 しかし、カガリはそうではなかったようだ。イザークにくってかかるどころか殴りかかろうとしている。 「カガリさん!」 それをレイが慌てて止めているのが見えた。 「止めるな!」 最低でも一発殴らないと気が済まない! とカガリはさらに叫んでいる。 「……カナード兄さんが認めているんですよ、一応!」 だから、とレイは焦ったように彼女に話しかけていた。 「そんなの関係ない! 私の気が済まないんだ!!」 だから殴らせろ! とカガリがさらに叫ぶ。 「やめてよ、カガリ……」 そんなカガリに向かってキラが言葉を投げつける。 「……キラ……」 「キラさん?」 この一言でカガリとレイが動きを止めた。 「そうよ! あんたがキラの従姉妹だろうと何だろうと、キラの気持ちを否定するようなことをいうのはやめなさいよ」 フレイもキラを応援するかのように口を開く。 「そいつも見ていてあきれるくらいにキラが好きなようだけど、キラも負けないくらいそいつが好きなのよ?」 家族なら、頭からその気持ちを否定するなんてやめなさい! と彼女は言ってくれる。 「フレイ……」 ありがとう、とキラは小さな声で呟く。それは、自分の気持ちを代弁してくれたから、だ。 「当然のことでしょ。それよりも本当に顔色が悪いわ」 「そうですわね。少しでも早く休まれた方がいいですわ」 ラクスもこう言ってくる。 「と言うわけで、そちらの二人も一緒に行けばいい。時間はあるんだろう?」 迎えがいるのであれば、連絡をするんだな……と言うバルトフェルドにカガリは悔しげに唇を噛んでいた。 |