車に戻る間にもあれこれ気になったもの購入して――もちろん、その中心になったのはフレイだ――から、トランクにそれを収める。
「……キラがいるから、さっぱりしたものの方がいいわよね」
 食事は、とフレイが口にした。
「そこまで気を遣って貰わなくてもいいよ。男性だと物足りないと思うし……」
 だから、普通の食事でいい……とキラは口にする。どこにだって、サラダか野菜中心のメニューはあるだろうから、とも。
「大丈夫ですわ。ちゃんと情報はお聞きしてあります」
 どこがおいしいかは、とラクスが微笑む。
「アイシャさんのご推薦ですから女性向けですわ」
 キラの食べられそうなものもあると聞いている、と力強く口にする彼女に、フレイも微笑んだ。
「なら、決まりね」
「ですわね」
 そんな彼女たちの間に自分が口を挟む隙はない。その光景に、キラはちょっと驚いてしまう。
「と言うわけで行きましょう、キラ様」
「その人達は、二人分頼めばいいんだわ」
 量の問題はそれで解決するわよ……と言う言葉に頷いていいものかどうか。悩んでいる間にもキラは二人に引きずられるように歩き出す。
「……まぁ、それは臨機応変に」
「そうだな」
 だから、自分たちのことは気にするな……とイザークも声をかけてくる。
「ほら。こいつらもこう言っているんだから、いいのよ」
 結局、自分は彼女たちに勝てないのか。
 わかってはいても改めて認識させられるとちょっと来るものがあるな、とキラは心の中で呟いていた。

 しかし、結果としてゆっくりと食事を取ることはできなかった。
「青き清浄なる世界のために!」
 ここも戦場だと言うことは知っていた。そして、ザフトの支配区域であればあるほど、連中が過激になると言うこともだ。
「……いや……」
 それでも周囲を包んでいる銃声が、思い出したくない記憶を刺激してくれる。
「大丈夫よ、キラ!」
 震える彼女の肩を、フレイがしっかりと抱きしめていた。彼女だって恐いはずなのに、とキラは思う。
「あいつら……見た目はともかくものすごく強いから」
 だから大丈夫よ、と自分に言い聞かせるようにフレイは口にする。
「そうですわ、キラ様」
 ラクスもまたこう言いながらキラの髪を撫でてくれた。
 そんな二人に言葉を返したい。
 でも、舌がしびれたように動かないのだ。
 こう言うときにカナードがいてくれたら、もっと安心できるのだろうか。それとも、他の二人か。そんなことも考えてしまう。
 しかし、今、彼等は側にいてくれない。だからこそ自分はしっかりとしなければいけないのに、とそうも思う。
「きっと、バルトフェルド隊長達が駆けつけてくださいます」
 それもすぐに、とラクスの声がさらに言葉を続けた。彼等が駆けつけてきてくれれば、すぐに片が付く、とそうもいってくれる。
 この言葉にキラは辛うじて小さく頷いてみせた。
「しかし、どうして……ここにはナチュラルも多いのに」
 いや、ほとんどがナチュラルだと言っていいのではないか。同じ人種を巻き込んでまで自分たちの主張を通さなければいけないものなのか、と思う。
「その方々もコーディネイターに寛容だから、ではありませんか?」
 もちろん、彼等の中にも現状を認められないものがいる。それでも多くの者達は自分たちの生活が保障されているならば、支配をする者は誰でもいいと考えているのではないか。
 ラクスが淡々とした口調でこう告げる。
「歴史上、この地域は支配者がころころ変わっておりますもの。そう考えるようになられたとしても当然かもしれません」
 そして、それを非難することもできないだろう……と言うラクスにフレイは小さなため息を吐いた。
「そうね。でも、それを知っているといないとでは大きな違いよね」
 自分は知らなかったから、と少し悔しげにフレイは付け加える。
「わたくしは必要があって学びました。フレイ様も興味をお持ちになったのでしたら、これから色々と覚えられればよろしいだけですわ」
 こういうことに勝ち負けはないから……とラクスは口にした。
「……そうね」
 この場には似つかわしくない会話も、きっと恐怖を忘れるためには必要なのではないか。
 そんなことを考えていたときだ。
「……ちょっと何、あいつら」
 また新手? とフレイがいきなり口にする。
「フ、レイ?」
 どうしたの、とキラは無理矢理言葉をはき出した。
「訳のわからない連中が乱入してきたのよ」
 でも、敵じゃないみたいね……とフレイは口にする。
「ザフトの方でもありませんわね」
 さらにラクスも言葉を重ねてきた。
 では、誰なのか。
 彼女たちでなくても疑問に思うだろう。
「キラ!」
 だが、次の瞬間、間違いなく誰かがキラの名を呼んだ。その声にキラは間違いなく聞き覚えがある。しかし、その声の主はこの場にいるはずがないのだ。
「……誰?」
 フレイがこう呟いている。そんな彼女の胸から、キラはおそるおそる顔を上げた。
 次の瞬間、微妙に色調が違う黄金が視界の中に飛び込んでくる。
「無事だな、キラ!」
「どうして……」
 その声にキラはこう言い返すことしかできなかった。