「……まぁ、ここでオーブのブランドものを購入しようという方が無理よね」 一通り買い物を済ませたものの、フレイはどこか不満を隠せないようだ。きっと、彼女が好きな基礎化粧品が入手できなかったからだろう。 「ですが、こちらのものもおすすめですわ」 ナチュラルの敏感な肌でも使えるから、とラクスが微笑みながら口にした。 「……あんたがそういってみるなら、使ってみるけど……」 でも、あれが好きだったのよね……とフレイは呟く。 「フレイ」 小さな苦笑とともにキラは彼女の名を呼んだ。 「わかっているわ。ラクスさんは絶対にあたしたちに意地悪しないもの」 だから、これもきっと自分が好きなブランドのものに負けないくらいいいものなのだろう。もっとも、それが自分たちの肌に合うかどうかは別問題だろうが。 こればかりは使ってみないとわからない……とフレイはため息を吐いてみせる。 「それはしかたがないよね」 「そうですわね」 女性の肌は繊細ですから、とラクスも微笑みながら頷いてみせた。 「取りあえず、使ってみてくださいな。お肌に合わなかったときにはまた別のものを試して見てください、と彼女は続ける。 「そうね。その前にオーブに帰れるかもしれないし」 あれこれ悩んでいても意味はない、とフレイは明るく口にした。 「と言うことで、次は下着、かしらね」 そして、この言葉とともに意味ありげに笑う。 「あんた達も一緒に店内にはいるの?」 その表情のまま視線をイザーク達へと向ける。 「……お前、わかっていて楽しんでいるな」 イザークがため息とともに言葉をはき出す。 「お望みなら、別に俺は構わないけどな」 さらに楽しげな口調でディアッカが言った。 「ただ、個人的に言えば下着は見るより脱がす方が楽し……」 とさらに言葉を重ねようとする。しかし、それよりも早くイザークの拳が彼を殴り倒した。 「まったく……キラとラクス嬢の耳にそんなセリフを入れるな!」 だから、お前は……と怒りを隠せない表情で彼はさらにディアッカをにらみつけている。 「イザーク……僕は、そのくらいは気にしないから」 男兄弟がいると、もっと赤裸々なセリフも耳にすることがあるし……とキラは苦笑とともに口にした。彼女の脳裏に誰の姿が浮かんでいたかは、言わなくてもわかるだろう。 「そうね。ついでに軍もそうなんでしょう?」 あの人は時に、と呟いているフレイの脳裏に浮かんでいる人物もきっと同じであるはずだ。 「……取りあえず、一度荷物を車に置いてこないか? その後、一休みしてからまた買い物に行ってもいいだろう」 そろそろ昼時だし、とイザークは雰囲気を変えるように口にする。この言葉に、フレイが時計を確認した。 「もうそんな時間?」 というよりも、化粧品を買うだけで二時間近くかかったのか……とディアッカが身を起こしながら呟いているのが耳に届く。しかし、誰もそれに反応を返さない。 「適度に水分を取っておかないとな。また倒れるぞ」 言葉とともに、彼はそっとキラの頬に触れてくる。再会してから気が付いたが、彼はことあるごとにキラに触れてくるのだ。 それが、自分の存在を確認するためではないか、とキラに教えてくれたのはもちろんフレイである。きっと、未だに信じられないのよ……と彼女があきれたように付け加えたこともしっかりと覚えている。 「そうだね。僕はともかく、フレイは気を付けないと」 ようやく外出できるようになったばかりなんだから、と微笑みを彼女に向けた。 「わかっているわ」 キラに心配をかけないようにする、と彼女はため息混じりに口にする。 「と言うわけで、さっさと荷物を持ちなさいよ」 あんたが、とフレイが手にしていた荷物をディアッカに差し出す。 「……何で俺?」 「あの銀髪は、キラの荷物を持つから、に決まっているでしょう!」 そうなれば残るのはあんただけでしょう! とフレイは言いきる。 「……って、まだイザークのお姫様は荷物持ってないじゃんかよ」 そして、彼女が荷物を持つときは自分は手ぶらだから、また押しつけられるに決まっている……とディアッカはため息を吐く。 「あぁ、言い間違えたわ」 フレイがふっと笑いを漏らす。 「その銀髪には万が一の時には《キラ》を持って貰わないと。だから、あんたはあたしとラクスを連れて行くのよ」 荷物ごと、と言われてディアッカがげんなりとしたような表情を作っている。しかし、それ以上に焦ったのはキラだ。 「なんで僕が!」 それを言うならフレイの方が……と思う。 「その男が、キラ以外の面倒を見るはずがないからよ」 だが、フレイはきっぱりと言い切った。 「……フレイ……」 イザークがそんなことをするはずがない、とキラは思う。しかし、みんながフレイの言葉に同意をしている様子を見れば、そうなのだろうかと感じてしまうのだ。 「だって、カナードさんもそうだったじゃない」 キラの回りにいる男性はそういうもんだと思っていたわ……と平然と口にする彼女に納得すべきなのかどうか本気で悩む。 「心配するな。余力があるときには、ちゃんとお前の面倒も見てやる」 さらにそんな彼女に向かってイザークが偉そうな口調でこう言い切った。 「……イザーク……」 どうして、自分の周囲にいる者達はこうなのだろうか。ひょっとして自分が悪いのか、とそう考えてしまうキラだった。 そんな彼女たちを見つめている視線があることにキラは気付いていない。 視線は、移動を始めた彼等を黙って見つめていた。 |