あまりのエラーの多さに、イザークは思わずため息を吐いてしまった。 「これでは……パーツが届くまで何もできないな」 ある意味覚悟はしていた状況ではある。そのおかげで愛しい少女と失ってはいけない相手を守れたのだから後悔はしていない。 だが、とは思う。 もし、今何かあった場合、自分は動くことができないのだ。 「取りあえず、連れて逃げるぐらいはできるか……」 そして、一番側で彼女を守ることはできる。それだけでも、今は満足すべきなのだろう。 今までは、それもできなかったのだ。 どうして彼女たちが――自分たちにも連絡を取らずに――あそこにいたのか、という疑問はある。それとも、エザリアは知っていたのだろうか。 「……その可能性はあるな……」 ヒビキ夫妻はともかくキラ達が生きていることだけは連絡があった。あの時も『どこにいるかは伝えられない』と断りがあったことも覚えている。 「誰が、お前を狙っているんだ?」 欲しいのはその身柄だろうか、それとも命なのか。 どちらだとしても、彼女を渡すつもりはない。たとえどのようなことをしようとも守りきってみせる。 そのために、自分は強さを求めたのだ。 「そういえば、お前は教えてくれるのか?」 それとも、自分たちの中だけで終わらせようとするのだろうか……と心の中で付け加える。だが、すぐに別の可能性が浮かんできた。 「キラ自身は詳しいことを教えられていない、という可能性もあるな」 あの人達のことだ。彼女を傷つけるような情報をその周囲から徹底的に排除するぐらいはやるだろう。 それでも、どうしてそうしなければいけないのか。その程度は教えられているのかもしれない。 「……今は、それだけでも十分なのだろうが……」 理由だけでもわかっていれば、こちらとしても対処のしようがある。だが、そのことでキラが苦しむのであれば、自分は何も知らないままでいい。そう考えていることも事実だ。 「一番重要なのは、キラが笑顔を見せてくれることだからな」 それに、と思う。 必要であればキラの保護者達が再会したときに教えてくれるはずだ。 「……別の意味で、あの人達は恐いしな」 一度しか対戦したことはない。それでも、カナードの強さは十分伝わってきた。 彼があの技量をどれだけの努力とともに身につけたか。想像することもおこがましい。しかし、彼に基本を教えたのはきっと年長の二人だろう。 と言うことは、彼等はカナードよりも強いと言うことか。 「足つきが今どうしているかも調べておいた方がいいか」 あれにはカナードだけではなくキラの友人達も乗ってたらしい。だから、その行方を気にしているはずだ。 「今連絡を入れておけば、パーツとともに報告が届くかもしれないしな」 取りあえず、バルトフェルドに許可をもらわなければいけないだろう。こう考えながら立ち上がる。 「イザーク!」 即座にディアッカの声が飛んできた。 「何だ?」 ひょっとして、自分が顔を見せるのを待っていたのだろうか、彼は。そう思いながらも言葉を返す。 「そっちはどうよ。使い物になりそう?」 覚悟をしていたが、パーツがないと戦闘では使い物にならない……と彼は言ってくる。だが、実際には自分たちの盾になっていたバスターの方が損傷が大きいのはわかりきっていたことではないか。 「ダメだな。調整次第では何とかなるかもしれないが……その後のことを考えれば、きちんと修理をしたい」 でなければ、重要な局面で動かなく可能性がある。それでは意味がないだろう。こう言いながら、ディアッカの側に下りていく。 「そうか」 まぁ、しゃぁないわな……と彼は笑う。 「お姫様三人の命を守ったんだ。そのくらいの代償はしかたがないっしょ」 なら、報告に行くか……と言う彼にイザークは歩き出すことで同意を示した。 キラ達がいなくなったからか。それとも、ラクスを利用された怒りからか。 あの後、ザフトの攻撃は熾烈を極めた。それでも、アークエンジェルにはさほど攻撃の手が向けられなかった、と言うことは、ラウの配慮だったのだろうか。 結果として、第八艦隊は壊滅。アークエンジェルも地球へ降下することになった。 「あのタイミングだったから、直接地球軍の支配エリアには下りられないだろうとは思っていたが、予想通りだったな」 もっとも、その方がこちらとしては都合がよかったが……とカナードは笑う。 「残りのお子様を連れて逃げ出すか……それとも、オーブ軍に掴まるか」 どちらがいいだろうな、とその表情のまま呟く。 「ともかく、無事に彼等を安全な場所に連れて行って……それから、キラに合流だな」 イザークが側にいる以上、今すぐキラに危険が及ぶとは思えない。それに、一応オーブ本土にも連絡だけは入っているはずだ。だから、きっとそれなりの配慮をしてもらえると信じている。 それでも、側にいるといないとでは不安の度合いが違う。 イザークを信じていないわけではないが、それでも不安を打ち消せないのだ。 「あの女のせいで予定が狂ったよな」 本当であれば、キラも守ってオーブに帰れたはずなのに……とそう呟いたときである。 「それでも、現状の方がキラにとってはよかったんじゃないのか?」 一番危険な場所にキラを連れていかずにすんだのだから、とムウが声をかけてきた。 「それはそうですが……」 「……言っておくが、危険の度合いではお前も大差ないんだぞ」 声を潜めると、彼はこう告げる。 「でも、俺は男ですから」 だから、キラほどではない。 「それでも、だ。お前だって、俺たちには可愛い弟なんだぞ」 もう一人といっしょに。そういってくれる彼に、カナードは静かに頷いてみせた。 |