気が付けば、イザークの肩を枕に眠ってしまっていたらしい。
 しかも、だ。彼はキラが寒くないようにと言うようにしっかりとその体を抱きしめてくれていた。
「……ごめん、イザーク」
 その事実を認識すると同時に、キラは慌ててこう告げる。
「気にするな」
 それよりも、よく眠れたか? と微笑みとともに問いかけられた。それに、キラは素直に頷いてみせる。
「それは良かった」
 言葉とともにイザークの手がキラの髪に触れてきた。兄たちのどれとも違う手の大きさだが、優しい感触だけは同じだと思う。
「なら、食事にしよう。その後で……少し移動だ」
 ここではレジスタンスの本拠地に近い。何かあるとまずいから、少し味方の方へと移動をする……と彼は付け加えた。
「連絡が?」
「あぁ。先ほどな」
 本来であれば、デュエルもバスターも整備をしなければいけないのだろうが……と彼は微かに眉根を寄せる。
「取りあえず、あいつも医師に診せなければいけないだろう。連絡をしておいたから、同行しているはずだ」
 何も心配はいらない。彼がそう付け加えたときだ。
「だから、そういうことは俺の目の届かないところでやってくれ、と言っただろうが」
 あきれたようなディアッカの声が耳に届く。
「ラブラブなのはいいけどな」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは自分の頬が熱くなってくるのを感じた。
「……でなかったら、邪魔してやっているわよ」
 夕べよりは多少体調がましになったのか――それとも彼女なりの強がりなのか――いつもの口調でフレイがこう言ってくる。
「フレイ……」
「まったく……いいところだけを持っていくんだから、そいつ」
 気に入らないわ、と付け加える彼女にイザークが苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ。お互い、色々と事情があるんだから。間に合っただけでもほめてやってくれよ」
 代わりにディアッカがフォローを入れている。その手慣れた様子から、いつもこんな調子なのだろうか、とキラは推測をする。
「そうですわ。間に合ったことが今は一番重要ですわね」
 そして、みなが生きていることが……とラクスも頷いてみせた。
「フレイさん。スープができましたわ」
 まずは飲んでください、と彼女はフレイに向けてカップを差し出す。
「お前も、だ、キラ」
 最低限、それと栄養補助クッキーを、だ……とイザークは口にする。
「でも……」
 視線を向ければ、ラクスも自分の分と思えるものを手にしていた。しかし、どう見てもイザークとディアッカの分はないように思える。
「気にするな。俺たちとお前達では基本的な体力が違う」
「そうそう。一食ぐらいぬいても、どうって事ないから。水だけは、ちゃんと確保してあるし」
 サバイバル訓練も、こう言うときに役立つんだなぁ……とディアッカがしみじみとした口調で呟く。
「あのような方法で水か確保できるとは思いませんでしたわ」
 ラクスもまた感心したように口にする。
「……まぁ、知識はあった方がいいと言うことは事実だな」
 取りあえず食べろ、とイザークはさらに言葉を重ねてきた。何か急いでいるようにも思える。それはどうしてなのだろうか。
「うん」
 だが、自分たちが食事を終えなければ彼等が動けないというのは事実だろう。理由は、安全な場所に着いてからでも問いかけることができる。何よりも、フレイをきちんと医師に診て貰いたい。
 そう考えて、キラは素直に食事に手を伸ばす。
「砂漠にも水があるとは思いませんでしたわ」
 その間にも、ラクスがこんな言葉を口にしている。
「地球は区切りがないから」
 だから、どのような場所でも水は存在しているんだ……とキラは口にした。ただ、その量が多いか少ないかの違いだけだ、とも。
「ここにも生き物がいるはずだし……それに、元々住んでいる人たちもいるはずだよ」
 もっとも、その人達は井戸か何かを利用しているはずだけど、とキラは口にする。
「そうね。オアシスがあるはずだもの」
 フレイもそんなキラに同意をみせた。
「……プラントの教育内容について、後で母上に苦言を呈しておいた方がいいかもしれないな」
 そういうことに関してはほとんど教えられていない、とイザークが眉を寄せる。
「確かに。地球のことも知っておかないと、な」
 知らないからこそ誤解が生じることもあるだろう。ディアッカも頷いてみせる。
「……戦争が終わらないと、できないこともあるだろうがな」
 それでも、未来を考えていくことは必要だろう。イザークは結論を出すように言葉を口にした。
「でないと、お姫様と結婚できないものな」
 からかうようにディアッカがこう言ってくる。
「うるさい!」
 即座にイザークが殴り倒す。そんな彼の様子に、キラは思わず目を丸くしてしまった。

 そんなこんなはあったものの、午後には救援に来たザフトの隊と合流することができた。
「ようこそ。僕がこの隊の隊長のバルトフェルドだ」
 当分、君達を保護させてもらうよ。そう言って笑った彼の表情はキラ達を安心させてくれる物だった。
「そちらの二人も、今しばらくは僕たちと行動を共にしてもらう」
 それは確認ではなく命令だったのだろう。即座に敬礼をした彼等の様子に、やはりここも戦場なのだ、とキラは思う。
「お嬢さん方を先に検査させて貰おう。コーディネイターの医師だが、ナチュラルの検診経験もあるから安心してくれていいよ」
 それでも、取りあえずナチュラルに対する偏見を見せないだけの心遣いをしてくれている。ならば大丈夫だろうか。
 どちらにしても、ここでは自分がフレイを守らないと。心の中でそう決意をするキラだった。