ゆっくりと目を開ける。 そのまま、自分の体を確認した。 「取りあえず、無事なようだな」 多少体のだるさは感じるが、ケガはしていないようだ。それならば大丈夫だろう。 「キラ!」 それよりも心配なのは、大切な少女の存在だ。自分のように訓練を受けているわけでもない彼女が、この灼熱を無事に乗り切ることができたのだろうか。 「デュエルとバスターが盾になったから、それほど辛くはなかったと思うが……」 それでも、彼女たちは《女性》なのだ。 自分たちよりもか弱い――こう言うと怒り出すような女性がいることももちろんわかっているが――体躯を持っていることが否定できない。 「……取りあえず、水か」 自分ですら喉の渇きを覚えているのだ。彼女たちだって同様に決まっている。 そんなことを考えながら、エマージェンシー・パックからミネラルウォーターを取り出す。そのまま、ハッチを開いた。 「キラ!」 そのまま転がるようにして飛び出す。起伏に富んだMSの外壁をふらつきながらも救命ポッドに向かって進んでいく。 ポッドの外殻に手を触れれば、既に熱は感じられない。 そのまま指を滑らせて、外部端末があると思われる場所へと触れる。流石の地球軍も、このあたりの規格だけは変えていないようだ。 いや、とすぐに思い直す。 デュエルや足つきを建造したのはモルゲンレーテだ。だからかもしれない。 しかし、この場合はそれがありがたい。 そう思いながらロックを外す。 ハッチが開く間も惜しいとすきまから中をのぞき込む。 「キラ!」 無事か、と問いかければ、中にいる者達がゆっくりと体を起こす。その様子からやはり体に多大な負担がかかったのではないか、と推測をする。 しかし、予想していたよりも一人多いような気がするのは錯覚だろうか。 「……イザーク?」 だが、それもキラの声で簡単に吹き飛んでしまう。 「あぁ、俺だ。具合は、悪くないか?」 ようやく体を滑り込ませられるだけのすきまができたから、彼女の方へと身を乗り出しながら問いかける。 「僕は大丈夫……でも、フレイが……」 具合悪そう、とキラは腕の中に抱きしめていた少女を不安そうに見つめていた。 「……脱水症状ですわね、おそらく」 フレイはナチュラルだから、と口にしたのはラクスだ。 「ラクス様もご無事で……」 彼女の無事を確認することを忘れていた自分に内心苦笑を浮かべつつもイザークは言葉を返す。 「はい、わたくしは大丈夫ですわ。ですから、お水をお持ちでしたら、まずフレイ様に」 その後でキラに回して欲しい、と彼女は微笑む。 「ダメだよ。フレイの後はラクスさんが飲まないと」 自分は最後でいいから、とキラはそんな彼女に反論をしている。 「……一口ずつ、順番に飲んでくれ」 取りあえず、そんな彼女たちに向かってイザークはこういった。 「悪いが……あまり手持ちがない。救援は来ると思うが、それまで保たせなければいけないからな」 探せば、この中にもあるかもしれない。しかし、あのようなことをした連中のことだ。わざとこの中からエマージェンシー・セットを取り出すぐらいのことはしているのではないか、とも思ってしまう。 「それは……しかたがないよね」 自分たちのせいでこうなったのだから、とキラは呟く。 「……バカ、ね」 その言葉がフレイの意識を刺激したのだろうか。この言葉とともに震える指がキラの頬へと伸ばされた。 「あんたのせいじゃないわ」 だから、気にしないの。そういって彼女は微笑みを浮かべようとする。しかし、その表情はすぐに顔をゆがめた。 「……キラ、水だ」 まずはそいつに飲ませてやれ、と口にしながら、イザークはミネラルウォーターの口を切って彼女に手渡してやる。 「でも、本当に一口だぞ」 念を押したのは、彼女たちにも必要だろうと思ったからだ。 「うん」 受け取りながらキラは小さく頷く。 「フレイ?」 飲める、と声をかけながら彼女はそっと少女の体を抱き起こそうとする。しかし、その動きは辛そうだ。 「フレイ様。もう一口欲しければ言ってくださいませね」 わたくしの分も飲んで頂いて構いませんから、と口にしながら、ラクスがキラを手伝うようにフレイの体を支えている。 「何、言ってんのよ」 やせ我慢がしないの。フレイは苦しげな息をつきながらもこう言い返してきた。 どうやら、彼女にキラ達を傷つける意志はないようだ。もっとも、この二人が心配する相手なのだから大丈夫に決まっているが。 ともかく、彼女たちを少しでも早く安全な場所へと移動させたい。 そのためには救援を求めないと。そんなことを考えながら、改めて視線を外へと向ける。 「ディアッカ……」 そこに彼の姿を見つけて、少し驚いてしまう。 「……お前、本気で俺の存在を忘れていただろう」 まぁ、いいけどな……と彼は苦笑とともに付け加える。 「取りあえず、救援要請だけはしておいた。後は待つだけだが……」 想像以上に可愛いじゃん、と言う彼の視線がどこに向けられているか。それに気が付いた瞬間、イザークは思わずディアッカを蹴り落としていた。 |