イザークの行動は、軍人としてはほめられるべきではない。しかし、とラウは心の中で呟く。《キラ》の兄としてみれば彼の行動はほめてやるべきだろう。 だが、とすぐに意識を切り替える。 「……彼等は、どこに落ちる?」 そして、近くにいたクルーにこう問いかけた。 「少し、お待ちください」 今すぐ計算をします、と彼は言葉を返してくる。 「アデス」 言葉通りの行動を取っている彼の背中を見つめながら側にいた艦長に呼びかけた。 「はい」 「すぐに地球に駐在しているザフトの司令官に回線を開いてくれ。彼等の保護を頼まなければいけないだろう」 こう口にしながらも、この場合、ラクスがキラと一緒にいてくれるのはありがたいかもしれない。そうも考えてしまう。 彼女であれば、イザークよりもザフトに影響力を持っている。だから、万が一の時にもキラを守りきってくれるのではないか。そう思うのだ。 本来であれば、彼女が自分の縁者だと告げてしまえばいいのだろう。 しかし、まだその時期ではない。 それを知られれば、カナードの身柄に危険が及びかねないのだ。 カナード本人だけならばそのくらいなんでもないことだと笑い飛ばすに決まっている。しかし、まだあれにキラの友人達が残っているはず。彼女にとって、大切な誰かを失うと言うことがどれだけ辛いことなのかを知っている身としては、その原因を作るわけにはいかないのだ。 「はい!」 即座にアデスも行動を開始してくれる。 「後は、あちらだけか」 意識を目の前の戦場へと戻す。 キラのことがあったのか、ストライクは既に積極的に戦闘に参加しようとはしていない。カナードの性格を考えれば、それは当然のことだろう。 問題があるとすればもう一人の方だが、どうやら現在は補給のために艦に戻っているらしい。 それならば、今が好機なのではないか。 「……ミゲル達はどうしている?」 彼等がまだ動けるようであれば、そのまま追い打ちをかけるが……とクルーゼは問いかける。 「イージス以外は戦闘が可能です。アスランは先ほど帰還しました……予備のジンでの出撃を希望していますが?」 カナードにやられたのがよほど気に入らなかったのか、とその言葉から判断をする。だからこそ、カナードから要注意人物と認定されたのだろうな、とも思う。 「好きにさせろ」 今回のことは、アスランさえ邪魔しなければもっと安全に彼女たちを保護できた可能性がある。そのような判断もできない人間に意識を向けることも面倒だ、と心の中ではき出す。 「はっ!」 この会話が終わるのを待っていたのだろうか。 「落下位置の推測ができました!」 先ほどのクルーがこう言ってくる。 「どこだね?」 彼のことよりもこちらの方が重要だ。既にアスランのことはラウの脳裏にはない。 「サハラです。バルトフェルド隊の支配区域内ではないかと……」 「アデス!」 この報告に、ラウは即座に艦長へと視線を向ける。 「はっ! 直ちに」 後は、彼に任せるしかないだろう。自分の耳に届いているバルトフェルドに関する認識が正しいのであれば大丈夫なのではないか。自分に言い聞かせるように呟くラウだった。 同じころ、アークエンジェル内では台風が荒れ狂っていた。 「いったい何を考えているんだ、あいつは!」 ムウの問いかけに誰も言葉を返すことができない。というよりも、彼の言葉が整備クルーのそういだと言ってもいいのかもしれなかった。 「……大尉」 それでもこれだけは確認しておかなければいけない。そう思ったのか。マードックが声をかけてくる。 「何だ?」 返した声に棘が含まれていたとしても、誰も文句は言えないだろう。 「嬢ちゃん達は……無事なんですな?」 相手もそれがわかっているのか、冷静な口調でこう問いかけてくる。その声音には本心から彼女たちを心配しているという気持ちが伝わってきた。 その事実が、少しだけムウの気持ちをなだめてくれる。 「大丈夫だろう。奪取されたうちの一機が脱出ポッドを確保して、もう一機と一緒に落ちていったからな」 少なくとも、あれが盾になってくれるだろう……とムウは言葉を返す。 「そうですかい」 ほっとしたように彼は頷く。 「問題なのは……こっちの方だろうな」 そんな彼にこんなセリフを投げつけていいものかどうかわからないが、と思いながらも言葉を口にする。 「……でしょうな」 間違いなく、カナードは今回のことを怒っているだろう。それでも、まだ他の者達が残っているから見捨てられることはないのではないか。だが、今までのように積極的に戦闘を行うことは考えられない。 「あんなことをした以上、それでも感謝しなければならないんでしょうな」 守ってもらえるだけでも、と彼は呟く。 「もっとも、あのお人はそれを認めないでしょうが」 それが一番問題なのだ、と口にするマードックにムウも頷いてみせる。 「元はと言えば、あいつの独断が招いた結果だろからな」 だからといって、そちらに文句をいている暇はない。現在、まだ戦闘が続いているのだ。 「と言うことで、バッテリーの交換を至急頼む」 カナード一人では流石に辛いだろう。この言葉に、マードックも頷いてみせた。 |