キラの他に四人、ここには子供――成人していないという意味でそう呼ばれているものから、文字通りの存在まで――がいた。一番上のムウだけがナチュラルで、後の三人はキラや自分と同じコーディネイターなのだ、という。
 しかし、その三人がある意味問題だった。
「……何故、俺を……」
 キラに近づこうとするたびに、彼等――とは言っても、レイは仕方がないのか――が邪魔をしてくれる。
「俺がキラを傷つけるとでも思っているのか?」
 そんなことはない。むしろ守りたいと思っているのに……と思いながらも、イザークはキラを捜していた。その手には、綺麗な小箱が握られている。
「プレゼントで相手の気をひくというのはものすごく不本意なんだが……」
 それでも口実にはなるだろう。
 こう言ったのは、エザリアだ。だから、素直にこれを受け取ってキラに渡そうと思ったのだ。
「しかし、予想以上に広いな、ここは」
 プライベートエリアだけしか歩いていないはずなのだが、とイザークは眉を寄せる。それでも、まだ小さな自分には十二分すぎるほど広いと感じられる。
 いや、それだけではない。
 建物自体が迷路のようになっているのだ。
 それはどうしてなのか。
「……秘密は、キラ達にあるのか?」
 彼女たちを守るために、ここはこんな風になっているのかもしれない。襲ってきた者達が内部で迷っている間に彼女たちはどこかに逃げ出せるようになっているのではないか。以前見た映画で似たようなシーンがあったから……というだけの推測だが、可能性は高いと思う。
「まぁ、それはどうでもいいが」
 取りあえず、自分がキラと話をしたいだけなんだが……とそう呟いたときだ。いきなりイザークの前に壁が現れる。
 いや、正確には壁のように見えた誰か、だ。
「……何のご用でしょうか、ムウさん」
 ぶつからないようにという心遣いから、だろうか。自分の肩を抑えてくれている彼に向かってこう問いかける。
「いや。ちょーとお話をしたくてね」
 他の連中の邪魔が入らないところで……と彼は笑う。
「あいつらは、キラのこととなると思い切り理性をとばしまくるからな。それじゃキラのためにはならないだろう?」
 だから、取りあえず自分がイザークの気持ちを確認しようかと思ってな……と彼は付け加えた。
「俺の気持ち?」
「そう。どういう意味でキラに近づきたいのか、をな」
 結果次第で、協力してやっても構わないと思っている。彼はそう言って笑いを深めた。
「俺は、ただ、単純にキラと友達になりたいだけです。それ以上のことも以下のことも、取りあえず今は考えていません」
 もっとも、お互い別の感情を抱くことになるかもしれないが。しかし、それは未来のことで、今は知り合うことの方が優先だろう。
「母に関して言えば、別の思惑があるようですが……それに乗るかどうかはキラの気持ち次第だとお思います」
 自分から無理強いはできないとわかっている、とイザークは付け加えた。
 いくら自分が、他人から見ればまだまだ『幼い』としか言えない年齢でも、そのくらいの分別はある。そうも付け加える。
「俺としては、その答えで合格なんだが、な」
 お前達の意見は? とムウは視線を移動させながら口にした。
「取りあえずは合格……としておこう。私は、ね」
 君は、とラウは隣にいるカナードに問いかけている。
「不合格。というより、どうして俺たちだけじゃダメなんです?」
 キラの側にいるのが、と彼は年長組にくってかかった。
「キラが女の子だから、だろ」
「それに、いずれは私たちもここを出て行くんだ。その時のためにも、他人にキラをならしておく必要がある」
 エザリアは信頼できる。だから、その息子もそれなりに信用していいのではないか。ラウは丁寧にその理由を説明している。
「まぁ、キラを傷つけるようなら、それなりの報復を受けて貰えばいいだけのことだしな」
 実は、キラの《兄》達の中で一番恐いのは彼ではないだろうか。
 だからといって、キラと友達になることを諦められるはずがない。
「そんなこと、するか!」
 イザーク・ジュールの矜持にかけて、と叫び返してしまう。
「自分にプライドを持っている人間は好きだよ。だから、頑張って貰おうか」
 余裕綽々の微笑みが気に入らない。
「……ラウ……お子様をいじめてやるな」
 それよりも、キラの側にいるのにふさわしい人間になるように教育してやれ。そういうムウもムウではないだろうか。
「と言うことだ、カナード。キラに会わせてやれ」
 後はキラ次第だ、と彼は付け加える。
「それが一番難問かもしれないがな」
 応援されているのか、いないのか。彼等の態度からはわからない。
 だが、これだけは言えるだろう。
 間違いなく、上の二人は自分で遊んでいる。
 そのくらいのことはイザークにもわかった。だからといって、ここで下手に怒りをぶつけてキラに会えなくなるわけにはいかない。
「ともかく、今、彼女はどこに?」
 母から、これを渡して欲しいと言われたのですが……と手にしていた箱を見せる。
「キラが喜びそうな箱だな」
「確かに。こういうことは女性にはかなわないか」
 自分たちでは、彼女の希望を聞いてもきっと見つけ出せなかっただろう、とムウとラウは頷いている。
「キラを泣かせてみろ。無事でいられると思うなよ」
 そして、カナードはこんなセリフを漏らす。これが彼なりの譲歩なのだと言うことはしっかりと伝わってくる。
「肝に銘じておきましょう」
 だから、イザークは自分自身の名においてこう言い返した。