だが、彼の疑念がすぐに現実へと移動するとはキラは思ってもいなかった。

「第八艦隊とザフトが接触! 戦闘状態にあるそうです!!」
 その連絡が艦内に響き渡ったとき、キラとフレイはラクスとともにいた。
「……キラ……」
 反射的にフレイが抱きついてくる。
「大丈夫だよ、フレイ」
 そんな彼女に、キラは微笑みを向けた。
「大丈夫。アークエンジェルは、兄さん達が守ってくれるから」
 だから、自分たちは大丈夫。こう口にしたのは、実は自分に言い聞かせるためではないのか。キラはふっとそんなことも考えてしまう。
 自分が一番、彼等を信じていなければいけないのに。
 こう考えてこっそりと唇を噛んだときだ。
「そうですわ。みなさまがわたくし達を守ってくださいます」
 だから、何も心配しなくていいだろう……とラクスも微笑んでいる。
「そう、だよね」
 大丈夫だよね、とフレイもようやく頷いた。それでも、彼女の表情がまだ強ばっていることは否定できない事実だろう。
「ともかく……言われた避難場所に行こうか」
 いざというときのために自分たちは避難ポッドのためにいるように、とムウに言われている。それはきっとこれから起こるであろう戦闘が、今までのものとは比べものにならないくらい激しくなると彼はそう考えているのだろう。
「そうね。あそこなら、大丈夫よね」
 万が一、この艦が爆破されたとしても、その前に救命ポッドはは射出される。そして、人道的な観点からそれらには攻撃をされないことが不文律になっているのだ。
「……ミリィは、トール達と一緒だから、大丈夫よね」
「そうだね」
 フレイの言葉にキラは頷いてみせる。
「何なら、フレイもそっちに行く?」
 今ならば、まだ大丈夫だろう……と言外に付け加えた。
「キラは?」
「ラクスと一緒にいるよ。一人よりいいでしょ?」
 一人よりは二人の方が心強いに決まっている。それにムウだけではなくカナードからも彼女から離れるな、と言われているのだ。理由はわからないものの、二人そろってそういったのならば自分は従うだけだ、と心の中で呟く。
「なら、あたしも一緒にいる!」
 二人よりは三人の方がいいだろうし、万が一地球軍に拾われたときに自分がいた方がいいだろう、とフレイは言いきった。それだけではなく、キラにすがりついていた腕に力をこめる。
「フレイ」
 それは……とキラは口を開きかけた。
「だって、地球軍にバカが多いんだもん」
 ここにはムウ達がいたが、他の艦ではそうはいかない。血の気にはやったバカが何かしたら困る、とフレイは真顔で付け加えた。
「フレイさん」
「それに……今から移動する方がまずいと思うんだけど」
 外から伝わってくる気配から判断をして、と言うフレイのセリフはもっともなものかもしれない。
「……しかたがないね……」
 キラは小さく頷く。
「では、移動しましょうか」
 ラクスがいつもの微笑みとともにこう告げる。それを合図に三人はそのまま一番近い場所にある救命ポッドへと移動した。
 キラは持ってきたパソコンを救命ポッドへとつなぐ。
「キラ?」
 何を、とフレイが問いかけてきた。それは当然だろうな、と思いながらキラは口を開く。
「万が一の時のために、オーブの識別信号も発信できるようにしておけって、大尉が」
 本当はみんな一緒だったら楽だったんだけど……とキーボードを叩きながら付け加える。
「……まぁ、ミリィ達のグループはみんなナチュラルだから……地球軍に拾われても大丈夫よね」
 フレイがキラの手元を見つめながらこんな呟きを漏らす。
「その前に、これが射出されるような状況にはならない、と思うよ」
 キラは苦笑とともにこう告げる。
「でなければ、僕がシステムをいじった他のポッドに乗っているかもしれないし」
 デッキから一番近い場所にある救命ポッドと居住区にあるものは既にシステムを変えてあるから、とキラは付け加えた。
「……って、あたしたちが行ける場所のほとんどじゃない、それで」
「だから、大丈夫だよ」
 心配しないで、と付け加えたところでようやくフレイはほっとしたようにため息を吐く。
「ならば、キラ様の御邪魔をしない方がよろしいですわね」
 大人しくしているのですよ、ピンクちゃん……とラクスは自分の手の中にいるハロに声をかけている。
「キラ、トリィは?」
 その様子にフレイはトリィの存在を思い出したのだろう。こう問いかけてくる。
「ポケットの中。電源を入れたまま連れて歩くと、うるさいから」
 部屋の中では自由にさせているんだけど……とキラは苦笑とともに言い返す。
「トリィの一匹や二匹、見ていて和めるからいいじゃない」
 本当に頭が固いバカばっかり、とフレイははき出した。
「……フレイ」
「だって、あたしもトリィが飛んでいるところを見るのは好きなんだもん」
 可愛いし、と付け加える彼女にキラはふわりと笑みを浮かべる。
「オーブに戻ったら、また自由にさせるから」
 そうしたら、また遊んで上げて……と言うキラにフレイは頷いてみせた。

 しかし、自分たちの知らないところでとんでもないことが行われようとしていると、神ならぬ身では知るよしもなかった。