第八艦隊の動きは、即座にラウの元へと伝えられた。 「……本当に無茶をする人だ」 いくらキラが作ったソフトがあるからとはいえ、このような内容を敵である自分に送ってくるとは……と口の中で呟く。もっとも、とこっそりと付け加える。ありがたいのは事実だ。 「さて……それでは、あちらの邪魔をさせて貰おうか」 合流をする前に、と笑みを浮かべた。 間違いなく、彼等はそれを望んでいるはず。そして、それがキラを救い出すための作戦の一部だと言うことも想像が付いた。 問題なのは、間違えてあの子が乗ったシャトルなり脱出ポットなりを傷つけてしまうことだろう。 それに関しては、あちらに地球軍ではなくオーブの識別番信号を出して貰えばいいことか。地球軍が認めなくても、キラであればすぐに変更できるだろう。 「カナードが言いくるめておいてくれるといいのだがな」 もっとも、彼であれば間違いなくそうしてくれるだろう。 後は、自分の部下達と地球軍が迂闊なことをしなければいいだけのことだ。 「イザークの負担を減らせるようにしておけばいいことか」 いざとなれば、自分が出撃すればいいだけだし、と心の中で付け加える。 「第八艦隊と合流する前に、あの艦に航行がむずかしくなる程度の被害を与えられれば一番よいのだがな」 だが、その前に第八艦隊の動きを確認しなければいけないだろう。そう思いながら腰を上げる。 「本当は……あの子に戦場は見せたくないのだがな」 いや、見せたくないのは兵器で他人の命を奪っている自分たちの姿か。そう思いついてラウは苦笑を浮かべる。 「それに関しても、カナードに頑張ってもらうしかないだろうね」 彼が一番、キラの性格をよく知っているはず。だから、大丈夫だろうと思いたい。 「少し寂しいが……自分で選んだことだからね」 それに、今のことが解決すれば、おそらくしばらく――正確に言えば戦争が終わるまで――の間は、自分がキラの側にいることができるだろう。一番側にいることはむずかしくても、今まで以上にフォローしてやることは可能であるはずだ。 「あの子が笑っていてくれれば、それで十分だよ」 言葉とともにラウは床を蹴る。 「さて……誰を索敵に出すべきか」 意識を指揮官としてのものに切り替えて呟く。 それでも、自分たちが戦場に立っている根底には、あの子を守りたいという気持ちがあることは否定しない。いや、自分たちがこうして生きていることすらも《キラ》がいてくれたからこそ可能だったのだ。 「大丈夫。私たちならばできるはずだ」 自分に言い聞かせるようにこう呟く。そのまま彼はブリッジへと向かった。 「……それは可能ですけど……」 でも、どうして? とキラは小首をかしげながら問いかける。 「使わないですめばそれでいいんだけどな」 だが、とムウはため息とともに言葉を重ねてきた。 「ここは戦場だ。そして、この艦も戦艦だからな」 戦いと無縁ではない、と彼は続ける。 「俺もカナードも、この艦やお前達が危険にさらされるようなことはしないつもりだが、万が一の可能性までは否定できないからな」 そして、戦場である以上敵味方が入り交じることは否定できない。だから、どちらから攻撃を受けるかわからないのだ、とも口にした。 「流石に、どのような状況であろうとオーブの識別番号を出している避難ポッドには手を出さないだろうからな」 だから、自分のためではなく他のオコサマ達のためにそうしておけ……と彼はさらに言葉を重ねる。 「……大尉……」 わかりました、とキラは頷く。 あるいは、それでラクスも助けられるかもしれない。そう判断したのだ。 「いいこだな」 即座に彼の手がキラの頭を撫でてくれる。 「ついでに、マードックの手伝いもしてやってくれると嬉しいかな、オニーサンは」 苦笑とともに彼はそう付け加えた。 「それくらいでしたら、いつでも……」 声をかけてくれれば手伝ったのに、とキラは言い返す。 「いや……お嬢ちゃん達が楽しそうだったんでな。邪魔をするのが申し訳なくてな」 フレイ嬢ちゃんも恐かったし……と彼は微苦笑とともに付け加える。 「フレイ、ですか?」 いったい、彼女は何をしたのだろうか……とキラは小首をかしげたくなった。 「後でお嬢ちゃんにお礼を言っておけよ。かなり虫除けをしてくれているからな」 虫除け、とは何なのか。 いや、想像が付かないわけではない。だが、この場でそのようなことをすれば命の危険すらあり得るということを十分理解できていると思っていたのに、とそう心の中で呟きたくなる。 「バジルール少尉もそろそろなりふり構っていられなくなった、って事だろうよ」 本当に厄介なことだ、と彼はため息を吐く。 「いや、それだけお嬢ちゃんとカナードの才能がすごすぎるってことだろうな」 地球軍としてはどちらも手放したくないだろう。 「兄さんならともかく、僕には何もできませんよ?」 カナードのパイロットしての才能は自分もすごいと思うが……とキラは首をかしげる。もっとも、それも自分を守るために彼が努力した結果なのだとわかってはいた。 「プログラマーとしてのお前さんの才能は、地球軍の専門家でも追随を許さないよ」 だからこそ、ナチュラルがMSを動かせるようにするために利用したいと思っているはずだ、と彼は続ける。 「もっとも、そんなこと、俺たちがさせないがな……」 こう言ってフラガは笑う。 「はい。大尉を信頼していますから」 そんな彼にキラは微笑みを返した。 |