第八艦隊と後数日で合流できそうだ。
 その知らせは瞬く間に艦内に広まった。
「……兄さん……」
 しかし、キラは他の者達のように喜ぶことができない。不安そうな視線をカナードへと向けてしまった。
「わかっている。だが……俺たちには何もできないぞ」
 この艦内にいる間のフォローだけが精一杯だ、と彼は続ける。それはキラもわかっていた。
「……そう、だよね……」
 わかってはいても納得できない。それが本音だ。
「ここにはあの人がいる。だから、大丈夫だ」
 そんな自分を少しでも安心させようと言うかのようにカナードはこうも言ってくる。
「……うん……」
 それもわかっているけど、とキラは小さな声で付け加えた。
「でも、ラクスさんは最高評議会議長の令嬢だから……」
 地球軍にしてみれば交渉に役立つ道具が手に入ったと言うところではないだろうか。そんな彼等がラクスの矜持を尊重してくれるとはおもえない。そして、彼は地球軍の中ではただの歯車でしかないのではないか。そんな風にも思うのだ。
「大丈夫だ。ちゃんと考えている」
 あちらとも連絡を取り合っている、とカナードは笑う。
「……兄さん……」
 その言葉の裏に、何やら別の意味が見え隠れしているように思えるのは彼女だけだろうか。
「昔から言っているだろう? 俺たちは、お前を守るためならどんなことだってできる、とな」
 言葉とともに、カナードはそっとキラの体を抱きしめる。
「俺も兄さん達も、お前がいてくれたから今、ここにこういていられるんだ。だから、お前はここにいてくれるだけでいい」
 それは昔から何度もいわれてきた言葉だ。
「……でも、兄さん……」
 僕は、とキラは言い返そうとする。
「キラ。いいこだから」
 そのことでキラが悩む必要はない。全ては、自分たちが自分たちの責任で選択をしたことだから、とそれよりも先にカナードは口にする。だから、キラはそんな自分たちを嫌わないでくれればいい、とも彼は付け加えた。
「兄さん達を僕が嫌いになる?」
 そんな日が来るはずがないのに、とキラは思う。
「……どうして、そう思うの?」
 だから、逆にこう聞き返した。
「ふっと、不安になっただけだ」
 それはきっと、これから戦闘が起こると言うことを彼が知っているからだろう。いや、彼だけではなく他の二人もそうなのかもしれない。
「心配するな、俺たちは死なない」
 そして、キラもその友人達も、誰も死なせない……と彼は付け加える。
「兄さん……」
「だから、お前は笑っていてくれ」
 どんなときにでも、と言うのは、間違いなく彼の心からの願いなのではないか。
「……それだけでいいの?」
「それだけで十分だよ」
 カナードの言葉に、キラは小さく頷いてみせた。

「さて、と」
 そのころムウは、自室でラウからのメールを読んでいた。
「これからが正念場、か」
 キラを取りあえず地球軍から切り離す。そうしてしまえば、カナードは自由に動けるだろう。いざとなれば、自分が他のオコサマ達を連れてオーブに逃げ込んでもいいし……とそうも思う。
「……まぁ、あのオコサマ達に関しては何とでもなるんだが……」
 問題はバジルールとその一派がどう動くか、だろうか。
「戦闘になれば、俺はあいつらの側にいられないからな」
 それ以前に、第八艦隊にキラ達が収容されてしまえば自分が手出しをすることはむずかしくなってしまう。だから、その前に何とかしたいのだが……と小さくため息を吐く。
「だからといって、キラを危険にさらすわけにはいかないし、な」
 しかし、それしか方法がないような気もする。
「取りあえず、カナードと相談をしてから……だな、あちらへの返事は」
 その前に、第八艦隊とあちらが遭遇してくれればいいのだが……とそんなことも考えてしまう。
 そうすれば、少しはこちらも楽に動けるのではないだろうか。
「……取りあえず位置だけでも教えておいてやるか」
 場所さえわかれば、あちらはあちらで動くのではないか。そうも思う。
「ばれたら、無条件で銃殺だろうがな」
 その前に自分もさっさと地球軍から逃げ出させて貰えばいいか……とムウは笑った。いい加減、キラと離れているというのも辛くなってきたしな。小さな声で呟く。
「あちらにキラのこともばれたことだし……本格的に動いてもいい時期なんだろうな」
 色々な意味で、とそうも付け加える。
「……キラには、嫌われるかな」
 それでも、彼女が無事であればいい。そうも付け加えてしまう彼だった。