友人達だけは、自分を含めたコーディネイターに対する偏見も少ないのではないか。キラはそう思っていた。
「……あの歌声も、やっぱりコーディネイトされたものなのかな?」
 しかし、そうではないのかもしれない。サイのこのセリフを耳にした瞬間、キラはそう感じてしまった。同時に、悲しくなってしまう。
「何言っているのよ、サイ!」
 そんなキラの内心に気が付いたのか。それとも、彼女自身が彼の言葉に憤慨しているのか。厳しい口調で彼にくってかかっている。
「……フレイ……」
 それは予想外の反応だったのか。サイが驚いたように目を丸くしている。
「声がいいだけなら、ナチュラルにだってたくさんいるじゃない! 歌だけならカズイにだって歌えるわよ!!」
 だから、どうしてこういう時の比較対象に彼の名前を出すのだろうか。
「……俺って、そんなに歌、下手かなぁ……」
 というよりも、フレイに嫌われている? とカズイはトールに問いかけている。
「っていうか、今まで、その可能性に気付かなかったのか?」
 何と言っていいのかわからないという表情でトールが言い返した。
「やっぱりそうなの?」
 そうじゃないかな、とは思っていたんだけど……フレイのセリフがきついのはいつものことだから、そのせいだろうなって思っていたんだよね……と力のない笑いとともに付け加える。
「……貴方の場合は、キラに向かって無意識に馬鹿なセリフを投げつけているからでしょう」
 だから、何かをいうときには一拍おいてからにしなさい……っていっているでしょう、とミリアリアがため息混じりに付け加えた。
「今のままなら、私も見捨てるからね」
 とどめを刺すように彼女はこう言い切る。
「……ミリィ……」
 この言葉を耳にした瞬間、カズイは完全に凍り付いた。
「ミリィ……少しは手加減してやれよ」
 流石に気の毒に思ったのだろうか。トールがこう告げる。
「本当のことでしょう? そのうち、カナードさんに教育的指導を受けても知らないわよ」
 容赦ない言葉に当分、カズイは我に帰れないだろうな……とキラですら思う。
「だから、声がよかろうと何だろうと、後のことは本人の努力次第っていうのは事実でしょ!」
 その間にも、フレイはフレイでサイに文句を言っていたらしい。
「……それは、わかっているよ……」
 サイもフレイに気おされながらも頷いている。
「だったら、さっきのセリフを取り消しなさいよ! あの子の歌がすごいのは、あの子の努力の方が大きいに決まっているでしょ!」
 それを認められないなんて、最低だわ……とまで言われて、サイに勝ち目があるのだろうか。
「……サイ……女の子には逆らうなって……」
 トールがこっそりとこう囁いている。
「どういうこと、トール!」
「じっくりと話を聞かせて貰いたいわね」
 即座に彼女たちが反応を返す。
「……今のは、流石にフォローできないかな」
 キラが小さなため息を吐いた。

 デッキの片隅で、カナードは厳しい表情を作っていた。
「……第八艦隊、か」
 長髪に隠れて見えないだろうが、その耳にはイヤホンがはめられている。そして、その発信源はムウが持っていた。士官だけの話し合いの場に同席できないカナードのために彼が用意した物だ。
「合流するのは構わないが……あいつら、俺とキラをどうするつもりなんだ?」
 利用されるのが自分だけであれば、取りあえず構わない。それなりの対処をすればいいだけのことだ。
 しかし、キラを巻き込まれては困る。
 最悪、オーブそのものまでが非常に辛い立場に追い込まれる可能性もあるのだ。
「ともかく、あの子達だけは安全にオーブに帰さなければ、な」
 でなければ、当面は安全だと思われる場所に避難させるか、だ。
「……そういえば、戻ってきていると連絡があったな」
 そして、彼の配下にはあれだけではなくもう一人もいるという。
 この事実を利用できないか。
「相談してみるか」
 ムウに、と口の中だけで付け加える。ただ、と即座に言葉を重ねた。
「問題なのは、時間だけか……」
 彼等の体制が整う方が先か、それとも、第八艦隊と合流するのが先か。
 それによって、どのような行動を取るか、本気で考えなければいけないだろう。それはそれでむずかしいことだ……とこっそりとはき出す。
「あいつらが、無条件で俺たちを解放してくれるのが一番いいんだろうがな」
 だが、それが一番可能性が低いと言うこともわかっている。現在、自分以外にMSを扱える人間がいない、というのもそれに一役買っているはずだ。
「後は……あの女が俺たちのことをオーブに知らせているかどうかもわからないしな」
 連絡が行っていれば、どのような状況だろうとホムラ達が動いてくれないはずはないのだ。
「キラとあの女だけならば、あちらに渡しても大丈夫だろうな」
 他の子供達は、自分が連れて逃げればいい。
 もちろん、それは最後の手段ではあるが。そんなことを考えながら、カナードはゆっくりと歩き出す。
「……お前さんも、余計なところだけ大尉に似てきたな」
 その姿を見つけたのだろう。マードックがこう言いながら彼を手招きしている。
「それは……ほめられていると取っていいのか?」
 こう聞き返せば、彼は意味ありげな笑みだけを浮かべてみせた。