気が付いたときには、キラだけではなくフレイやミリアリアもラクスとそれなりに親しくなっていた。それはきっと、ラクスの人柄のおかげだろう、とキラは思う。
「……ラクスさんって、歌姫なんですか?」
 初めて聞く言葉……と言うわけではない。しかし、オーブでは聞き慣れないそれに、ミリアリアが目を丸くしている。
「ねぇ、歌ってみてよ!」
 しかし、フレイは物怖じしない口調でこういった。
「フレイ」
 ここでそれはまずいのではないか。特に、自分たちの存在を快く思っていない者達に聞かれたら……とキラはそう考えて彼女を制止するようによびかける。
「構いませんわ、キラ様」
 しかし、ラクスはこう言って微笑み返してきた。
「歌姫だから……と言うわけではありませんが、わたくしは歌うことが大好きですの」
 だから、聞いてくれる人がいるのであればどこでも歌わせてもらう……と彼女はさらに笑みを深めると告げた。
「この子もこう言っているんだから、いいじゃない!」
 即座にフレイもこう言ってくる。
「……ラクスさんがいいなら、いいけど……」
 でも、迷惑ならちゃんと言ってね? とキラは付け加えた。ミリアリアが言えばフレイが反発しそうなそのセリフも、キラが口にすれば普通に受け入れてくれるらしい。
「……言われたら、ちゃんと引き下がるわよ……」
 キラがそういうなら……と付け加える彼女に、思わず苦笑が浮かんでしまう。
「そういってくれるから、フレイは優しいんだよね」
 普通であれば、反発をするか耳を貸さないか。そのどちらかだから、とキラは付け加える。
「何言っているのよ、キラ!」
 友達なら当然のことだわ、というフレイにキラはいつもの笑みを向けた。
「そういってもらえるのが嬉しいんだけどね、僕は」
 無視されることの方が多かったから、とさりげなく付け加えてしまう。しかし、それが失敗だったのかもしれない。
「それって、アカデミーでのことじゃないわよね?」
 反射的にミリアリアが問いかけてきた。
「……カズイだったら、顔に線を書いて上げるわよ」
 爪で、とフレイも付け加えてくる。
「違うよ。月にいたころ……」
 なんで、サイやトールではないのだろうか。そんなことを考えながらキラは言葉を返す。
「……月……」
「あら。キラ様も月にいらっしゃったのですか?」
 ラクスが不意に口を挟んでくる。
「わたくしの婚約者も、月にいたことがあるそうですわ。確か、コペルニクスシティだったかと」
 小首をかしげれば、彼女の艶やかな髪がさらりと音を立てた。
 フレイの燃えるような赤い色の髪も綺麗だけど、彼女のそれも素敵だな、とキラは心の中で呟いた。
「なら、どこかで会っているかもしれませんね」
 自分もコペルニクスにいたから、とキラは笑う。
「でも、その時は《男》だったんですけどね、ID」
 何か、書類上のミスがあったみたいで……と付け加える。取りあえず不都合がなかったことと、書類の修正に時間がかかったから、結局そのまま過ごしていたのだ……と付け加えた。
「でも、それが正解だったんじゃない?」
 あのころ、月であまりいい話を聞かなかったから……とフレイが口にする。
「そうね。それがあったからオーブでもわざと書類を間違えたのかもしれないわよ」
 あのころは、月でコーディネイターの少女を狙った事件が多発していた。それを指しているのかもしれない。
「かもしれないね。父さんも母さんも、僕に男の子の恰好をさせたし……兄さんの口調を真似させていたから」
 おかげで、未だに男言葉が治らないんだよね……とため息を吐いてみせた。
「あぁ、それで男の子のような口調なのですね、キラ様は」
 納得をしたようにラクスは頷く。
「子供のころだと、外見だけだとわからないもんね」
 おかげで、あのころの友達は男の子ばかりだ……と付け加えた。
「一番仲がよかったのは、アスランかな?」
 ふっと思い出した名前を口にする。
「アスラン……ですか?」
 キラの言葉に何かを感じたのだろうか。こう問いかけてくる。
「うん。アスラン・ザラ」
 マイクロユニットが得意で、何度も課題を手伝って貰ったんだよね……と苦笑とともに付け加えた。
「今は電源を切っているけど……僕のペットロボットは彼がプラントに帰るときにくれたんだ」
 フレイ達に会うまで、それが一番の友達だった……とキラはさりげなく付け加える。
「トリィのこと?」
 フレイがこう問いかけてきた。
「うん」
 キラがそれに頷いて見せたときだ。
「アスラン・ザラは、わたくしがいずれ結婚をすることになっておいでの方ですわ」
 ラクスがこう告げる。
「わたくしのハロも、アスランが作ってくださいましたの」
 偶然とはいえ、嬉しいですわね……と口にするラクスにキラも頷いてみせた。
「そのトリィちゃんにあわせて頂けます?」
「ちょっと待ってね」
 言葉とともに、ポケットの中からそうっとトリィを取りだす。そしてスイッチを入れる。
「トリィ!」
 久々に聞く鳴き声にキラは微笑みを浮かべていた。