「つまり、まだラクス嬢を乗せた脱出ポッドの行方はわからない。そういうことだね?」 ようやくガモフと合流したラウは部下達にこう問いかける。 「……申し訳ありません……」 それに、ガモフ組を代表してミゲルが言葉を返してきた。 「いや、いい。その分、捜索の範囲が狭まったと思えばいい」 ラウはこう言って部下達の行為をねぎらう。 「その代わりに……気になるものを見つけたのですが……」 だが、それを報告していいものかどうか。そう悩んでいるニコルに、ミゲルとディアッカが冷たい視線を向けていた。 しかし、イザークだけは違う。 ラウの前に移動してきたかと思うと、何かをデスクの上に置いた。 「イザーク!」 他の者達はそんな彼の行為を止めようとするかのようにその名を呼ぶ。おそらく、彼等はこれがどのような意味を持っているのか知らないのだろう。 「これが、ユニウスセブンにありました。そして、ラクス嬢が乗っていたと思われる脱出ポッドの信号が途絶えたのも、その側です」 だが、イザークは違う。だからこそ、彼はきっぱりとした口調でさらに言葉を重ねたのではないか。 「ラクス嬢が、足つきに保護された可能性があると?」 周囲の者達に知らせるために、あえてラウは確認の言葉を投げかける。 「はい」 折り紙の花から視線をそらすことなく彼は頷いた。 「……確かに……地球軍がこのようなことをするはずがないな」 「隊長?」 ラウの言葉に周囲の者達が不審げな表情を作る。 「アスランとイザークからそれぞれ、足つきにヘリオポリスの民間人が乗せられているという報告が来ている。その者達であれば、ユニウスセブンの人々に哀悼の意を表そうとしてもおかしくはないのではないかね?」 地球軍がどのように思っていても、だ……とラウは言葉を重ねた。 「……あちらは、ラクスの立場を知っているのでしょうか……」 ふっと思い出したようにアスランがこう問いかけてくる。 おそらく、彼が一番聞きたいのはそのことではないだろう。そうは思うが、あえて確認をする気にならない。 「いくら地球軍でも《ラクス・クライン》の名を聞いてしまえば、気付かないはずがないのではないかね?」 少なくともどのような末端のものであろうと《クライン》が現在の最高評議会議長と同じ家名だというのは知っている可能性が高いはずだ。 「もっとも、だからこそ彼女の命は保証されるだろうが」 ラクスが生きているからこそ、交渉の材料になり得る。逆に、彼女の命が失われてしまえばプラントの者達の地球軍に対する憎悪がさらに強まるというのは自明の理だ。 いや、それだけではない。 下手をすればオーブにもそれは波及するだろう。 地球軍にしては、それは避けたい事態ではないか。 「……命は、ですか?」 何かに気が付いたように、ミゲルが問いかけてくる。 「ラクス嬢が今どのような状況に置かれているかわかりかねるからね。明言は避けておこう」 ラウは微かな笑みとともにこう言い返す。 もっとも、内心では何事もないだろうと言うことは確信していた。 あそこにキラがいる……と言うだけではなく、少なくともムウが民間人にそのような無体なマネをさせるはずがない。だから、彼の目が届いているうちは大丈夫だろう。 しかし、彼も前線に出るパイロットだ。常にラクス達の側にいられるわけではない。 「一番危ないのは……戦闘が終了したときか、でなければ他の地球軍の艦隊と足つきが合流した後かもしれないな」 そうなった場合、現在は彼女の身柄を気遣っている者達も多数派に排斥されtしまうかもしれない。彼等の場合、数が力だと思っているだろうからな……と淡々とした口調でラウは続ける。 「……隊長……」 自分に呼びかけているアスランの表情が強ばっているのがわかった。 どうやら、彼もラクスをそれなりに大切にしているらしい。もっとも、それが彼女本人に向けられているものかそれとも彼女の家に向けられているものかなのかはわからないが。 「取りあえず、現状では地球軍が動いていないかどうかを確認しておくのは無難だろう」 その間に、もちろんラクスと足つきの捜索は続けるが……とラウは口にする。 「その場合、足つきに乗せられているであろう民間人の保護も優先事項だね」 プラントは、まだ、オーブを敵に回すわけにはいかない。ユニウスセブンが失われた以上、オーブから地球のザフト領を通じて送られてくる農作物が人々の生活には不可欠なのだ。 「……わかりました」 この言葉に誰もが頷いていた。 自分の部下の多くが最高評議会と深い関わりを持っている。だから、と言うわけではないだろうが、ナチュラルを嫌悪していても、中立国の民間人と地球軍の軍人を区別して考えられるのだろう。 あるいは……と心の中で呟く。 アスラン以外のものは、あの艦に《イザークの婚約者》が拉致されているかもしれないと知っている。 あのイザークが他のものに頭を下げてまで保護を望む少女。 だから、他の者達も手を貸してやろうと思っているのか。 しかし、アスランが自分以外のものに相談したという話は未だに聞こえてこない。 それどころか、キラと彼が友人だという事実すら知っているものはいないのではないか。 自分だけの力で何かを解決しよう、という気持ちも大切なものかもしれない。しかし、そのせいで本当に大切な存在を失うという可能性に気付いていない以上、どちらのとった方法が正しいのか言うまでもないだろう。 そして、とラウは心の中で呟く。彼女の《兄》である自分が、この二人のどちらを彼女の側にあるべきものとして認めるか。それも既に結論が出ていると言っていい。 「では、それぞれの仕事に戻りたまえ」 捜索は、今まで通り、交代で行うように。この言葉とともにラウは彼等へと視線を向ける。 「失礼します」 ミゲルのこの言葉ともに、他の者達も居住まいを正した。それに頷き返すと視線で退室を促す。 「……さて……」 彼等の姿が全て室内から消えたところでラウは小さなため息を吐いた。 「取りあえず、あの子をあの艦から下ろさないと、ね」 カナードやムウのことはその後でもいい。いくらでもごまかすための方法はあるのだから。 しかし、これからが自分たちにとって正念場かもしれない。 「状況だけは的確に掴んでいないといけないかな」 取りあえず、こっそりと連絡を取っておくか。もっとも、無事に届くかどうかは――キラが作ったプログラムとはいえ――一種の賭だと言っていい。それでも、何もしないよりはましだろう。 こう判断をすると、行動を開始した。 |