食堂で二人分の食事を受け取る。そして、そのままキラは移動を開始した。
「キラ」
 そんな彼女を引き留めるかのようにフレイが声をかけてくる。
「どうしたの、フレイ」
 取りあえず、プレートの中身をこぼさないように注意をしながらも、キラは動きを止めた。視線を向ければ、フレイとミリアリア、それにトール達がそろっている。
「……それって……」
 おずおずとトールが問いかけてきた。
「うん。ラクスさんの分」
 後自分の、とキラは口にする。
「……どうして?」
 不満そうにフレイが問いかけてきた。どうやら、ここ数日、一緒に食事が取れないのが気に入らないらしい。
「大尉に頼まれたから……」
 それに、とキラは続ける。
「放っておくと、誰もあの子にご飯、運んで上げないんだよ」
 コーディネイターだって、ご飯を食べなければお腹がすくし、それで体調を崩すことだってあるのだ。そういえば、フレイ以外の者達はさりげなく視線をそらす。
「だからって、キラが……」
 彼女一人だけが思い切り不満だというように唇をとがらせている。
「それに……軍の男性をあまり近づけたくないから……」
 信用できる人は皆、忙しくて手が回らないから。ため息とともにはき出せば、フレイとミリアリアには何のことか理解できたようだ。
「……そういうことが、あったの?」
 声を潜めて、ミリアリアが問いかけてくる。
「……うん……」
 未遂だったようだけど、と彼女の耳にだけ届くような声で付け加えれば、思い切り顔をしかめた。
「本当なの?」
 流石のフレイも、これは無視できなかったらしい。こう問いかけてくる。
「……僕だけじゃなくて、兄さんと大尉も目撃したから……」
 もっとも、ラクスが連れているあのピンクのペットロボット――ハロのおかげで彼女に危害を加えるところまではいかなかったが、とキラは続けた。
 それでも、今後もそうだとは限らない。
 だから、とキラは口にした。
「……この艦に乗り込んでいる女性は……私たちと艦長とバジルール少尉だけ、だもんね……」
 そして、自分たち三人はともかく軍人二人はそのようなことに時間を割いている余裕はないことはわかりきったことだ。
「……それに、ね……」
 こんな個人的なことを話してもいいのだろうか。そう思いながら、キラはそっと言葉を重ねる。
「ラクスさん、イザークと知り合いだったんだよね……」
 だから、少しだけ彼の話が聞けるの……と恥ずかしそうに口にした瞬間、フレイの表情が変化をした。
「キラ!」
 そのまま、彼女はキラの名を呼ぶ。
「……何?」
「自分の分を持ってくるわ。だから、待っていて!」
 自分以外のコーディネイターは大嫌いだと言ってはばからない彼女がどうしてそんなことを言い出したのか。
「フレイ……何をするの?」
 ケンカをするなら入れて上げられない。ラクスに嫌がらせをするのであっても同様だ、とキラはきっぱりと言い切る。
「大丈夫。今日の所は、彼女には何もしないわよ!」
 今日の所は、という一言にものすごく引っかかりを覚えるのは自分だけだろうか。吉良がそう思ったときだ。
「……フレイ、本当に何もしないのか?」
 おずおずとサイが問いかけている。と言うことは、彼も同じような疑問を抱えていたと言うことなのだろうか。
「しないわよ。取りあえず、キラが好きだって言っている相手の話を聞きたいだけよ」
 変な相手なら、絶対、キラに諦めさせなきゃないでしょう! とフレイは付け加える。
「……フレイ……」
 イザークに興味を持ってくれたのは嬉しいが、だからといって……とキラは慌てて口にしようとした。しかし、彼女の興味は既に別の場所に向けられている。
「だからといって、変な望みは持たないことね、カズイ。あんたは本当に対象外なんだから」
 無条件で却下よ! と指さしをしてまで言いきった。
「……少しぐらい、希望を持たせてやれよ……」
 それにトールがこっそりと呟いている。
「それでまともになるなら考えるわよ。でも、カズイの失言癖は一生治らないわよ!」
 無意識にキラを傷つけるような相手を認められるはずがないだろう! 万が一自分が許してもカナードが許すはずがない。そう告げられた瞬間、カズイの表情が強ばる。
「だから、待っていて!」
 こう言い残すと、キラの返事も待たずに彼女は移動を開始した。
「……フレイったら……」
 彼女らしいのかしら、とミリアリアが苦笑を浮かべている。
「と言うことで、私も付き合うから、キラ」
 いざというときにフレイを止められるように、というのは彼女なりの好意なのだろうか。
「ミリィ……あのな……」
 慌ててトールが彼女に声をかけた。
「と言うことで、三人で食べてね」
 キラの婚約者のことに関しては、自分も興味があるから……とにこやかにミリアリアも口にする。
「ミリィまで……」
 どうしてそういう話になるのか、それがわからない。そんなことを考えながら、キラは彼女の背中を見送っていた。