水の回収も終えた、と言うことで、ラミアス達とともにキラもデッキへと移動した。そうすれば、既にムウやカナード達もその場に集まってる。
「キラ!」
 彼女の存在に気付いたフレイが呼びかけてきた。それを耳にして、キラは素直に彼女の側へと近づいていく。
「……地球軍のものじゃないみたいなのよ……」
 そのまま彼女の側に着地しようとするキラを、フレイが手助けしてくれる。
「ザフトだったら、どうすればいいのよ……」
「大丈夫だよ」
 不安そうな彼女に向かってキラはふわりと微笑んでみせた。
「ここには兄さんも大尉達もいるから」
 だから、何があっても大丈夫。そういうキラの言葉に、フレイも小さな笑みを浮かべる。
「そうよね。あいつらはともかく、カナードさんは絶対にキラと私たちを守ってくれるわよね」
 キラのために、と苦笑とともに付け加えられて、キラは何と言い返せば一瞬わからなくなってしまう。
「開けますぜ」
 そんな彼女たちの耳にマードックのこのセリフが届いた。
 反射的に視線を向ければ、彼が脱出ポッドの側面を操作している。あれは、どこに所属しているものでも、基本的な配置は共通しているのだ。それは、いざというときに困らないようにという配慮だろう。
 周囲の者が固唾をのんでいる前で、ドアがゆっくりと開いていく。
「オマエモナー」
 その瞬間、飛び出してきたのは両手の上に乗るようなピンクの《何か》だった。
「ハロ、ラクス、ハロ、ハロ」
 そのまま、それはその場で飛び跳ねている。何やらその動きやデザインに既視感を覚えてしまうのは錯覚だろうか。
「ダメですわよ、ピンクちゃん。御行儀よくしなければ」
 その後に、柔らかな声が続いた。その声から判断をして、自分たちと同じくらいの年代なのではないだろうか。
 こんなことを考えながら、キラはポッドの入り口を見つめる。
「ご苦労様です」
 ふわりと純白と紺色の裾を翻して一人の少女が姿を現した。柔らかな桃色の髪の毛が色鮮やかに感じてしまう。
「……あっ」
 しかしこのままでは、と思った瞬間、キラの体は無意識のうちに行動を開始していた。
「キラ!」
 フレイが驚いたように声をかけてくる。
 しかし、その時にはもう、キラは抱き留めるようにして少女の動きを止めていた。
「ありがとうございます」
 キラの腕の中で少女はふわりと微笑む。
 その瞬間、妙な声が上がった。それはどのような意味なのだろうか、とキラは小首をかしげてしまう。
「取りあえず、ケガをしなくてよかった」
 考えてもわからない。だから、後でカナードかフレイ達に聞けばいいか、と思いながらキラは言葉を返す。
 キラの腕の中で彼女は周囲を見回していた。
「……あら、あら、あら……」
 やがて、何かに気が付いたのか、こんな声を漏らす。
「どうかしたの?」
 何か大切なことでも忘れていたのだろうか。そう思いながら、キラは聞き返す。
「これは、ザフトの船ではありませんのね?」
 そうすれば、こんなセリフを口にしてくれた。
「……あの……」
 確かに、彼女が身に纏っている色彩や整った容貌から判断をしてコーディネイターである可能性の方が高かった。
 しかし、とも思う。
 せめて、もう少し状況を認識してくれないかな、とそう思うのだ。
 まして、現在は――キラとしてはかなり不本意だが――戦争中なのだし、とコーディネイターに好意的ではない者達だって多くいるのだから、とそうも考えてしまう。
「……キラさん……」
 もっとも、自分よりも衝撃が大きかった者達が存在していることも事実だ。その中の一人であるラミアスが声をかけてくる。
「はい」
「下りてきてくれないかしら?」
 彼女の言葉だけならば大丈夫だろうと判断しても構わないだろう。しかし、その側にいるバジルールや他の者達の態度を見ていると不安でたまらない。
「お嬢ちゃん、大丈夫だ。彼女に危害を加えさせないから」
 それを察したのだろう。ムウがこう言ってくる。
「たとえプラントの人間だろうと、民間人に危害を加えるようなことはさせないって。まして、そちらもお嬢ちゃんだからな」
 だから、という言葉にキラはどうしようかと思う。
「お名前、教えてくださいますか?」
 悩んでいる彼女の耳に、少女のこの言葉が届く。
「……僕の?」
「はい」
 教えて頂けますか? と彼女は微笑みを深める。
「キラ、です。キラ・ヤマト……」
 その笑顔に釣られて、キラは素直に自分の名前を口にした。
「キラ様……よいお名前ですね」
 そういっている場合なのだろうか。そう思いながらも、キラは彼女を見つめる。
「わたくしは、ラクス・クラインです」
 それでも、やはり自己紹介は基本的な礼儀なのだろうな……と心の中で呟きながら彼女の言葉を聞いていたときだ。
「クライン……って、確か、現在のプラント最高評議会議長の名前は《シーゲル・クライン》だったような……」
 ムウがこんな呟きを漏らしたのが聞こえる。
「シーゲル・クラインは父ですわ。ご存じですの?」
 さらなる爆弾発言がラクスの口から飛び出した。