「……取りあえず、これで大丈夫だと思います」
 マードックにモニターを見せながら、こういった。
「すまないな、嬢ちゃん。助かったよ」
 ほっとしたような表情で、彼は言葉を返してくる。
「ミストラルが動かせると動かせないとでは大きな違いだからな」
 これからの作業で……と言う彼にキラも小さく頷き返した。
「嬢ちゃんの友達もあれなら使えるんだろう?」
 この言葉にキラは微苦笑を浮かべる。
「使えますけど……多分、放っておくと暴走しますよ?」
 シミュレーションはしているが、実物を動かしたことがある経験は自分とトールぐらいしかないから……と口にした。だから、他の面々――特に残りの男二人――は興奮してあれこれいじりそうだ、と付け加えておく。
「……そうか……」
 マードックは一瞬、遠い目をする。しかし、いや、男ならば当然の反応だよな……と呟いた。
「マードックさん?」
「何。お前さん達を一人で乗せるわけじゃないから、大丈夫だろう」
 面倒見の良さそうな連中とペアを組ませるから安心していい、と彼は口にする。それは自分に言い聞かせているようにも思えた。
「そうですね。流石に、そこまではしゃがないとは思います」
 状況が状況だから……とキラも頷いてみせる。
「本当なら、お前さん達に苦労をさせるわけにはいかないんだろうがな」
 それ以前に、ここに連れてくるという時点で間違っているような気はするんだが……と彼はため息を吐いてみせた。
「マードックさん……」
「本当。バジルール少尉達もこまったものだ」
 あの偏見がなくなれば、有能な方なんだが……という言葉には頷けない。それでも、軍人としてみればそう思えるのだろうか。そんなことも考えてしまう。
「まぁ、あちらはあちらで少々困りものなんだが」
 言葉とともに彼が視線を移動させた。そうすれば、その先にムウの姿が確認できる。
「大尉! 今日の分の整備は終わったんですかい!!」
 そんな彼に向けて、マードックが怒鳴り声に近い声をかけた。
「あぁ、そこにいたのか」
 しかし、ムウの方は平然とこう言い返してくる。そして、そのままこちらに近づいてきた。
「丁度いい。嬢ちゃんも一緒か」
 さらに、キラの姿を見かけて彼はこう付け加える。
「……大尉……嬢ちゃんに何の用ですか?」
 不審そうな表情でマードックが聞き返した。
「……僕が、何か……」
 キラも同じような表情で問いかける。何やら嫌な予感がした、というのは内緒だ。
「ゼロの、な。システムをちょーっと変更したいんだが、俺じゃ手が出せなくてな」
 その部分だけを変更するなら可能だが、そうするとシステムにバグが出るのだ。だからといって、カナードにさせるわけにはいかないようだからな……と彼は続ける。
 その理由はキラにもわかっていた。
「ですが……嬢ちゃんには、武装に関わることには手を出させるな、と」
 そう命じたのはムウ自身だろう、とマードックは言い返す。
「……そうなんだがな……」
 だが、いつ何が起こるかわからない以上、妥協するしかないかな……と彼は苦笑とともに付け加えた。
「……ひょっとして、大尉……」
 バックアップも取らずに作業をして、にっちもさっちもいかなくなったのではないか……とマードックが問いかける。その瞬間、ムウが作った表情がその答えを物語っているのではないだろうか。
「大尉!」
 同じ判断を下したのだろう。マードックが周囲を震わせるような声量でこう叫んだ。
「バックアップはあったんだよ! ただし、この前、ガンパレルを全取っ替えしただろう?」
 そのせいで、前のデーターではバランスが取れなくなってしまったのだ。
 両腕で自分の頭をガードしながらムウはこういう。
「……そういうことですかい……」
 流石に、それではマードックもそれ以上怒れなかったらしい。
「しかし、嬢ちゃんを連れて行って、カナードに怒鳴られませんか?」
「それについては、後でちゃんとするから」
 取りあえず、この状況で出られないというのはまずいだろう、と彼は続ける。
「……俺は責任を取りませんからな」
 何があっても、と既にマードックは腰が引けていた。カナードの言動を見ていれば、それはしかたがないのか、とは思う。
「わかってるって」
 しつこいよ、と苦笑を浮かべながらムウはキラの側に近づいてくる。
「そういうことだから、頼むな」
 キラの方に手を差し出しながら彼は言葉をかけてきた。さりげなくウインクをしてくるところから、他人に知られたくはない相談事があるのではないか、と推測をした。
「はい」
 素直にキラは頷く。
「じゃ、そういうことで」
 にやりを笑うと、彼はキラの体を軽々と抱え上げる。別に、ここではそれほど足に負担がかからないのだが……と思ったときだ。
「フレイ嬢ちゃんにばれてもフォローはしませんぜ」
 マードックがぼそりとこう呟く。
「マードック……頼むから……」
 一番恐いセリフを口にするな。そういう彼にキラは思わず吹き出してしまった。