奪取してきた機体のOSを確認するという名目でコクピットにこもってどれだけの時間が経っただろうか。
 もちろん、作業はとっくの昔に終わっている。
 それ以上に時間がかかっているのは、先ほどの記録を探すことだった。
「……やはり、キラ、に見えるな」
 ようやく見つけ出した映像を見つめながら、イザークはそう呟く。だが、はっきりと言い切れないのは、あの特徴的な瞳を確認できないからだろう。
「お前なのか、キラ」
 それでも、ヴィアの面影を色濃く移している少女が彼女以外にいるとは思えない。
「お前は、ここにいるのか?」
 いや、いたのか……と言うべきなのだろうか。
 目の前の映像が正しいのであれば、おそらく彼女は地球軍に拉致されている。それも、本人の意志に反して、だ。
「キラは優しい上に人なつっこかったからな」
 あの人見知りさえ治れば、友人が増えるだろう。そう思っていた。ひょっとしたら、そんな人々をだしに使われたのかもしれない。
「でも、あの人達が側にいてそんなことをさせるか?」
 何よりもキラを大切にしていた人々が、彼女を地球軍に利用させるような状況を作るだろうか。
 それとも、何か事情があってキラの側にいられなかったのかもしれない。
「……可能性はあるな……」
 考えてみれば、年長組は既に二十代後半になっているだろう。一番キラと年齢が近いカナードだって、そろそろ二十歳に手が届いているはず。そうであるのなら、それぞれが仕事なり学業に忙しい時期ではないだろうか。
 しかも、あの時間帯は普通であれば人々が学校に行っていたりする時間だ。
 そんな時間であれば側にいなくても当然かもしれない。
「その上、俺たちの襲撃があったしな」
 混乱に乗じてキラをさらった可能性もある。
「だとするならば、俺たちのせいか……」
 誰よりも守りたかった存在を、自分のせいで危険にさらしてしまったのか……とイザークは唇を噛む。
 だからといって、これを見逃すことなんてできなかった。
 では、どうすればいいのだろうか。
 本音を言えば、全てを放り出して彼女を探しに行きたい。しかし、それが許される立場ではないことも自覚している。
「……キラ……」
 こう呟いたときだ。
「何か手こずっているのか?」
 お前が珍しい……と口にしながらディアッカがコクピットをのぞき込んできた。
「ちっ!」
 慌ててイザークはモニターに映っている映像を消そうとする。しかし、ディアッカの方が早かった。
「何、その子。一目ぼれ?」
 可愛いキラちゃんがいたんじゃないのか、と彼はからかうように口にする。
「……違う……」
 こうなったら、彼も巻き込んでしまった方がいいのではないか。そう思ってイザークは言葉を口にし始める。
「はっきりと確認できなかったが……この少女がキラじゃないか、と思う」
 彼女の母親のそっくりだ、と付け加えれば、ディアッカの表情が引き締まった。
「マジ?」
「おそらく」
 確実といえないのは、自分も一瞬しか見ていないからだ。イザークはため息をともにこう告げる。
「お前がそういうならそうなんだろうが……何でまた……」
 ディアッカがすっと目を細めながら呟く。
「……あるいは、何かに協力させるつもりなのかもしれない」
 どう考えても、キラが進んで乗り込んだようには思えないからな、とイザークは自分の考えを口にした。
「キラは第一世代だが……ご両親も優秀な研究者だ。だから、彼女自身も優秀だと言っていいと思う」
 今現在、何を専門にしているかはわからないが、と口にするのは少し悔しい。
「それに連中が目を付けた可能性はある」
 これのOSを見ても、地球軍が優秀な人材に恵まれていないのはわかりきっている。だから、と付け加えればディアッカも納得したようだ。
「かもしれないな」
「問題なのは……それを確認するための方法が、今の俺にはないと言うことだ」
 自由に動ける立場であれば、無条件で駆けつける。
 しかし、今の自分はあくまでもザフトの一員でしかない。命令がない以上、勝手に動くわけにはいかない、と口にする自分の声音が苦渋に滲んでいることをイザークは自覚していた。
「……彼女を助け出せても、お前が処分されたら意味がないもんな」
 大切な相手を守れるだけの力がなければ無理はできない。
 だからといって、放っておく訳にもいかないだろう。
「……隊長に相談をするか?」
 彼にしても同胞――しかも、部下の婚約者だ――が地球軍に拉致されていると聞かされたら、何かよいアイディアを出してくれるかもしれない。それがなくても、彼女の身柄を捜索するように頼んでくれるのではないか。
「ダメならさ。家の親とかお前の親とかに頑張って貰えばいいじゃん」
 エザリアは無条件で手を貸してくれるだろう。そして、オーブの民間人――しかも女の子――が地球軍に拉致されたとなれば、オーブにパイプを持っているタッドが協力をしてくれないはずがない。
 ディアッカの言葉にイザークも頷いてみせる。
「そうだな」
 もっとも、作戦中だから、今すぐというわけにはいかないだろう。それだけが気にかかる。イザークは心の中にわき上がる不安を必死に押し殺そうとしていた。

 しかし、事態は予想外の状況へと進んでいった。