その後すぐに、ストライクという名前の機体とともにカナードも乗り込んできた。
「……さて」
 キラ達の側に大股に歩み寄ってきながら、彼はバジルールをにらみつける。
「ご希望通り、あれを持ってきたんだ。いい加減、俺たちを解放して貰いたいものだな」
 これ以上、地球軍に協力するいわれはないはずだ……と彼は態度で告げていた。その口調だけで、彼が本気で怒っていると言うこともキラには伝わってきた。
「残念ながら、それは許可できない」
 きっぱりとした口調で彼女がこう言ってくる。
「お前達は、既に我々の機密に触れている。このまま解放するわけにはいかないのだよ」
 勝手なことを、と思ったのはキラだけではないだろう。
「……誰のせいで……」
 好きで触れたわけじゃない。というよりも強引にふれさせられたんじゃないか、とキラは心の中で呟く。
「ずいぶんと勝手な意見だな」
 彼女よりも毒舌なのは、もちろんカナードだ。
「いやがる人間の目をこじ開けて無理矢理見せておいて、そういうセリフを言うとは、顔の皮も厚いと見える」
 何の遠慮もなく皮肉を投げつけた。
「それとも、他国の人間はみな下僕とでも思っていますか?」
 こちらに銃を突きつけて物事を強要するあたり、そうなんだろうな……と笑みを作る。しかし、彼の瞳はまったく笑っていない。その事実に、キラですら恐怖を感じた。
「黙れ!」
 彼女も同じだったのか。
 それとも、カナードの言葉にいい加減我慢の限界が来たのか。
 大きな声で怒鳴ると同時に彼女の手は腰へと伸びる。そこにはガンホルダーがあった。
「きれい事だけ言って、現実から逃げ出している者達が! 世界が戦火に包まれている中で、自分たちが平和でいられると思っているのか!」
「ふん。それこそ勝手な主張だな」
 しかし、カナードはその剣幕にひるむことはない。
「戦争に反対するというのも、古来から認められている立派な主張だ。人にはその数だけ主張がある。それを認められない貴様らの方が愚かだと言えるのではないのか?」
 自分たちは自分たちなりの主張があってオーブにいるのだ。それを邪魔する権利はない、と言いきる兄は恰好いい。同時に、彼がそうならなければならない理由を思い出して、キラは少しだけ悲しくなってしまった。
「そもそも、戦争を始めるきっかけを作ったのは誰だ?」
 オーブは最後まで戦争を回避するために動いていたはずだ。それを無駄にしたのは、地球軍の上層部を含めた者達だろうが! とカナードは糾弾の手をゆるめない。
「今度のことだってそうだろうが! キラやその友達の安全を盾に人に協力させたよな?」
 しかも、キラにはケガまでさせただろう……と口にする。それがなければ、絶対に協力なんてしなかった、とも彼は続けた。
「貴様!」
「要するに、自分たちに従わない人間は気に入らない。自分たちが勝手に始めた戦争でも、全ての人間が関わるのが当然だ、と言うことか」
 常識的に見て、どちらが間違っているんだろうな……と彼があざけるような表情を作ったときだ。
「いい加減にしろ!」
 言葉とともにバジルールは銃口をカナードへと向ける。
「兄さん!」
「……カナードさん……」
 その行為に、キラだけではなくフレイ達も心配そうに彼の名を呼んだ。
「何だ? 本当のことを指摘されたら逆ギレか?」
 しかし、カナードはあくまでも余裕を崩さない。
 おそらく、彼女の銃弾を避けられる自信があるのだろう。そして、この状況であれば正当防衛が適用される。一発ぐらい殴ってやらないときがすまないと思っているのではないだろうか。
 でも、万が一彼がケガをしたら……と思うとキラは不安でたまらない。
 誰かバジルールの方を止めてくれないだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「そこまでだ、少尉」
 言葉とともにムウが銃を握った彼女の手を掴み上を向けさせる。
「大尉、ですが!」
 それが不満だったのだろう。彼女は今度上官であるムウに怒りの矛先を向けた。
「お前さんがしていることは、完全に軍規違反だ。それに、そちらの坊主の主張はもっともなものだぞ」
 冷静に対処するならともかく、実力行使に出ることは認められない。どうしてもしたければ、軍法会議を覚悟しろ……とそうも彼は付け加える。
「そうよ、バジルール少尉。既に、貴方は失敗しているでしょう」
 こう言いながら、彼女はキラへと視線を向けてきた。
「協力をお願いしているのは私たち。彼等には断る権利があるわ」
 それでも、こちらは協力をしてもらわなければいけない。その場合、普通であればどうしなければいけないのかわかっているだろう。
 それは、コーディネイターでも同じではないか。
 ラミアスは落ち着いた口調でそう告げる。
「しかし、我々は今……」
「それもわかっています。だからといって、無理強いできる問題ではないでしょう?」
 貴方のやり方では逆効果だ、とさらに言葉を重ねられてはバジルールとしてもこれ以上何も言えないのだろう。それでも納得していないとその表情からもわかる。
「……これ以上、キラ達に何かしたら、パパに言うから……」
「フレイ!」
 そんなバジルールにさらに追い打ちをかけようとするフレイをキラは慌てて制止をした。
「だって……あたし、これ以上、キラが傷つけられるかもしれない状況がいやなの!」
 キラは大切な友達だから……と彼女は目を潤ませる。
「僕にとってもフレイは大切なお友達だよ。だから、フレイが傷ついてもいやだから」
 自分のことで無理はしないで欲しい。キラはそう付け加えた。
「僕のことは、兄さんが守ってくれるから」
 だから、大丈夫だよ……と微笑めば、フレイも取りあえずは頷いてくれる。
「と言うことで……ゆっくりと相談できるところに移動して貰っていいかな?」
 バジルールは同席させないから。その言葉に、カナードも頷いてみせた。